<人間関係> 「他人との関係性が人生に大きな影響を与える」(茂木健一郎『脳を活かす勉強法』)。別れるとき“また会いたいと感じさせる人間”になろう。
1)「人間の道は排除の道ではない。お互いにタライのなかに相集いて暮らしている
のである」(『続 道をひらく』)。人を不幸にしてはいけないということを心に
刻むこと。
基本は、<己の欲せざる所を人に施す勿(な)かれ>「ほんの一言で、生涯、これを
行う価値のあるものは、“恕(じょ)”、――他人(ひと)の身になってやることだろう
かね。自分の欲しないことを、他人にやらせてはいけないということである」(井上
靖『孔子』)。
2)「言葉は人を傷つける」。人を傷つける言葉を発するのは感情による。『EQ こ
ころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン)に、感じる知性=感情と考える知性=理
性について、以下の記述が目にとまった。「『感じる知性』と『考える知性』は基
本的には別々の神経回路によって働く独立した二つの機能だ。ほとんどの場合、二
つの知性は絶妙なハーモニーを保って働いている。感情は理性にとって、理性は感
情にとって、不可欠のパートナーだ。ただし強い情動が起こると両者のバランスが
崩れ、「感じる知性」が「考える知性」を圧倒することになる」。その時言葉に
よって人を傷つける。感情が高揚したら、自分はバランスが崩れかけていると感
じ、それが習慣になれば、人を傷つける言葉を発することがなくなるかもしれな
い。また、「人は常にその事が終わった後の気まずさを思い浮かべて、その事に臨
んで、その場で起こる愚かな心の迷いを醒ますようにすれば、本心がしっかりと定
まって、行動にまちがいがなくなる」(今井宇三郎訳注『菜根譚』)。そうなんだ
よ。感情に押し切られるのが情けない。
3)人間と世の中を理解するには、「一人の人、一つの事件の背後に、膨大で広大で
屈折した人間的な理由があることを、理解することのできる人になることは、じつ
に大切なことのように思う。そのためには、表向きは常識を守りつつ、常識という
名の下に行われる思考放棄には決然として抵抗して、すべてのことがらを根本から
疑い、自分の視点で判断することを習慣づけねばならない」(曽野綾子『敬友録
「いい人」をやめると楽になる』)。理解を深めるには、“なぜ?”の習慣づけが
大事ということなのだ。
4)塩野七生氏の人間観察力は凄い。著書『男たちへ』で、「人の一生には、多くの
苦しみと悩みがないではすまないのが普通だ。たとえ他人には打ち明けなくても、
胸の中にしまっておくだけでも、たいていの人はなにかしら苦悩をかかえて生きて
いる。その人々にとって、明るさをもつ人は、それ自体ですでに救いなのである。
(中略)このような普通人にとって、明るい人にひかれるのは、ひまわりが太陽の
ほうに顔を向けるようなものである。つまり、ごく自然な願望なのである」とい
う。だから、「暗い人間は人をよせつけない」(邑井操『「大将」の器』)し、伸
びやかなで自由な心になった人たちのそばにいると、清々しさを感じるのである。
そして、「人生はやはりいくぶんかの楽観主義は必要で、そうでないと、自分自身
が耐えていけないだけでなく、周囲の人まで巻きぞえにしかねないのだ。いつもい
つも緊張している人のまわりには、人は喜んでは集まらないものである。ただし、
十パーセント程度の不満はあったほうがよい。そうしないと、いかに楽観主義者が
好ましかろうと、それは楽観した人でなくて、単なるアホになってしまう。また、
十パーセント程度ならば、刺激になり、ために向上心につながってくる。(中略)
真にヒューマンな人のまわりには、灯をしたうかのように、人は自然に集まってく
るものである」。
5)『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』には、意見を異にする人との関係
で考慮すべきこととして、以下指摘している。「建設的な批判は非常に手際よく与
えられるため、受け取るほうが批判されていることにほとんど気づかないので、良
い方向に導くための、さらに高みへと駆り立てるための、強力な推進力になる。行
き当たりばったりに、深く考えないで与えれば、期待はずれの結果を招くだろう。
批判が建設的になるか破壊的になるか、相手が間違いを改めてよりよい成果をあげ
ようと決意するか、傷ついて士気を失うかは、紙一重の差でしかない」。そして、
「人がみな違うこと、それぞれの心の動きが違い、性格や性癖も多様であること
を、私たちはつい忘れがちである。思慮深い批判を与える人は、決してこの事実を
忘れない。」(同書)で、このように接すればよい成果をあげる可能性が高くな
る。
6)変えることの出来るのは将来と自分で、過去と他人を変えることはできないと言
われるが、どうしても避けられない、避けてはならない問題もある。その時は
「『違う意見を得ることこそが人間関係のもたらす利点』だ。(中略)つまり、本
当の一致とは相互補完することで、同一になることではない。本当の意味では、同
一は、創造力もなく、つまらないものである。相乗効果の源は、相違点を尊ぶこと
である」(『7つの習慣』)を解釈し、まず「相手の立場から物事を眺め、相手が見
ている世界を見ることであり、相手のパラダイムを理解し、相手の気持ちを感じと
ることなのだ」(同著)。相手の考えを理解し、ウィン・ウィンの成果を引き出す努
力をしなければならない、ということを論じている『交渉力入門』(佐久間賢)を
参考にしてほしい。
「君は君、我は我なり。されど仲よき」(武者小路実篤)。
(7)そして、極め付け。『逝きし世の面影』に、江戸後期の連帯社会があったのは
人情をわきまえていたからで、「人間などいい加減なものだと知っていて、それを
知ることが人情をしることだった」と述べている。お互いに、いい加減な人間。こ
の集まりが人間社会。その中で人情を知って時々光り輝く。これで十分だ。