<2016.4.1> 古館伊知郎 渾身の緊急特集“ワイマール憲法が生んだ独裁の教訓“
3月29日午前零時に、昨年9月19日に強行採決された安保関連法が施行された。
今回は、昨日(3月31日)でテレ朝の「報道ステーション」のキャスターを降りた古館伊知郎さんの3月18日の「報道ステーション」の緊急特集「ドイツ・ワイマール憲法に学ぶべきではないのか」――なぜ独裁が生まれたのか――、約30分間の再現を試みる。
最後の放送で、巷で囁(ささや)かれた降板理由の安倍政権からの圧力を否定し、自身の我がままだとしたが、「この頃は報道番組でいろんな発言が出来なくなる空気を感じる」と語った。自身が目指してきた、ざっくばらんな報道番組が出来なくなっての降板なのだろう。古館さんの渾身の特集に呼応したく、少し長くなるが再現を試みた。これはいま適切に対応しなければ、将来、日本を壊すガンになり得る問題なのだと思う。
古館さんは、自民党改憲草案にある「緊急事態条項」が、ヒトラーが悪用して独裁者になったワイマール憲法の条文「国家緊急権(大統領が公共の安全と秩序回復のために何でもできる)」に類似しているのではいかという専門家の指摘の根拠に迫っている。
「日本がそんな風になるとは、到底思わない。ただ、今日本は憲法改正の動きがある。立ち止まって考えなければいけないポイントがあるんです」と、高市早苗総務相の電波停止発言“(政府が)公正を欠くと判断した放送の電波停止する”を気にしつつ、「緊急事態条項」の危険性を指摘する。
3年ほど前の2013年7月.29日、麻生副総理が漏らした「ナチス政権下のドイツでは、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わってナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口、学んだらどうかね」を頭に置き、報道の要約(筆責:石頭)を読み進めてほしい。なお< >内は、石頭のつぶやき。
ヒトラーは、首相就任(1933年1月30日)後、共産党の全国スト計画に対し「国家緊急権」を発動(2.4)し、集会と言論の自由を制限。政府批判の集会やデモ、出版を禁止した。さらにナチの自作自演疑惑の国会議事堂放火(2.27)を共産党の国家転覆の陰謀として、司法手続きなしでの逮捕を可能(2.28)にし、基本的人権を停止すると同時に野党の息の根を止めた。1933年3月23日に議会の三分の二を得て、「全権委任法(国会の審議を経ず政府が憲法改正まで含めてすべての法律を制定できる)」を成立させ、当時もっとも民主的と言われたワイマール憲法を葬り民主主義と議会を終焉させ、独裁者となり、想像を絶する世界をもたらした。
当時共産党の党首でナチに処刑されたお孫さんは「民主的に選ばれた政権であっても、憲法の条文によって独裁者に変わる可能性があるんです。この歴史を二度と繰り返してはいけません」と訴える。
<古館さんは、今は問題ないが将来ヒトラーのような人が出てきたら、と言うが、ヒトラーは合法的に独裁者になったが、安倍首相は憲法を無視し、昨年10月に野党側が憲法に基づき臨時国会の召集を求めたが無視した。すでにヒトラー以上の独裁者なのだ>
ヒトラーを後押ししたのは、“保守陣営と財界”。財界は、ナチのことは好きではなかったが、共産主義勢力の盛り上がりを怖(こわ)がって後押した。
<安倍政権は、昨年9月11日の安保法の強行採決で、人間として一番やってはいけないこと“人殺し”を憲法違反で可能にし、国が攻められた時にだけ戦う自衛官に人殺し命令を下せるようにした。自民党は、国会前を始め全国で大規模なデモに呼応した野党の参議院選挙協力に危機感を抱き、反共産党キャンペーンを始めた。まさにここでも、麻生副総理の言うナチの手法を真似ている>
ヒトラーが独裁者に駆け上がる背景には、世界恐慌状態があり、ヒトラーは“経済対策”と“民族の団結”を前面に打ち出した。表現がストレートで、「強いドイツを取り戻す。敵はユダヤ人だと憎悪を煽(あお)った」。また、ヒトラーは言葉を変えるのが上手く、「独裁を、“決断できる政治”」「戦争の準備を平和と安全の確保」と言い表した。
<安倍首相も同じように「強い日本を取り戻す」「敵は中国だ。北朝鮮だ。」と言い、安保法制の強行採決(独裁)を「決断できる政治」。海外に戦争に出かけるための安保法制を「国民の命と生活を守るため」といっていた。権力欲の強い者同士よく似ている>
ワイマール憲法に詳しいイエナ大学のミハエル・ドライアー教授は、自民党案の緊急事態条項について次のように指摘する。
「この内容はワイマール憲法48条(国家緊急法)を思い起こさせます。内閣の一人の人間に利用される危険性があり、とても問題です。特に(議会や憲法裁判所などの)チェックが不十分に思えます。議会からの厳しいチェックができないと悪用の危険性を与えることになります。なぜ一人の人間、首相に権限を集中しなければならないのか。民主主義の基本は『法の支配』で『人の支配』ではありません。民主主義の創設者たちは人に懐疑的です。常に権力の悪用を不安に抱いているのです。権力者はいつの時代でも常にさらなる権力を求めるものです。日本はあのような災害(東日本大震災)にも対処しており、なぜ今この緊急事態条項を入れる必要があるのでしょうか」と。
ナチ政権で国会議長・空軍総司令官を務めたヘルマン・ゲーリングは「国民は指導者たちの意のままになる。それは簡単なことで、自分たちが外国から攻撃されていると説明するだけでいい。平和主義者に対しては愛国心が無く、国家を危険にさらす人々だと批判すればいいだけのことだ。この方法はどこの国でも同じように通用する」。
<最近の調査では、憲法を無視し、殺し殺される国に向かったのに、40%以上の支持率がある。残念ながら、日本もゲーリングの言う通りなのだ>
以上が緊急報道の石頭要約だが、この「緊急事態条項」は、緊急事態の宣言の効果として、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」としており、大規模災害時(これは現在ある災害対策基本法という法律で足り、憲法で定める必要はない)や武力攻撃を受けた時だけでなく、社会秩序の混乱時にも適用され、自民党の憲法改正草案にある「緊急事態条項」によって、基本的人権が奪われ、議会制民主義が壊され、独裁国家が生まれる危険性が高く、独裁国家になったら後戻りはできなくなる。
今夏の参議院選挙はもとより、今後の国政選挙で自公を勝たせたら、麻生副総理が漏らしたように、ヒトラーに倣(なら)い「緊急事態法」を強行採決し、それを使って平和憲法を葬るだろう。戦後ずーっと武力によらない国際社会への貢献をしてきた平和国家日本のブランドを次世代にトスできるかどうか、日本人は今まさに、人間として何が正しいかを考える力が問われている。