荘子:逍遥遊第一(12) 窅然喪其天下焉

荘子:逍遥遊第一(12) 窅然喪其天下焉(窅然として其の天下を喪れたり)

2008年09月21日 02時38分13秒 | 漢籍

荘子:逍遥遊第一(12)

宋 人 資 章 甫 而 適 諸 越 , 越 人 斷 髮 文 身 , 無 所 用 之 。 堯 治 天 下 之 民 , 平 海 内 之 政 。 往 見 四 子 藐 姑 射 之 山 , 汾 水 之 陽 , 然 喪 其 天 下 焉 。

荘子:「逍遥遊篇」もくじ

宋人(ソウひと)、章甫(ショウホ)を資として諸越(ショエツ)に適(ゆ)けり。越人(エツひと)は断髪文身にして、これを用うる所なし。堯(ギョウ)は天下の民を治め、海内(カイダイ)の政(セイ・まつりごと)を平(おさ)めてより、往きて四子に藐(はる)かなる姑射(コヤ)の山に見(まみ)えしが、汾水(フンスイ)の陽(きた)にて?然(ヨウゼン)として其の天下を喪(わす)れたり。

宋の国の人が章甫(ショウホ)の冠を仕入れて、南の越(エツ)の国へ売りに行った。ところが越の人はざんばら髪で、体には入れ墨をするのが一般的な風俗 であるから、宋の国で珍重される章甫の冠も、越の国では全く用をなさなかった。堯は天下の民を統治し、世界の政治を安定させてから、藐姑射の山を訪ねて、四人の神人に逢ったが、都の郊外、汾水の北のあたりまで帰ってきて失神(茫然自失)し、自分が天下の王者であることを忘れてしまった。

(ソウ)

周が商(=殷)を滅ぼしたのち、紂(チュウ)王の弟微子に命じ、その遺民を集め祖先の祭りを継ぐことを許してたてさせた国。

他国の人からは亡国の遺民として軽んじられたが、古い文化を継ぐという自負心を持っていた。

(例1)「守株」宋人有耕田者(韓非子・五蠹)

(例2)「宋襄之仁」(春秋左氏伝・僖二二)

など。

◆商(=殷)の遺民の一部は、その高い技術をいかして製造した工芸品等を諸国に売って歩いた(行商)。商人の業、つまり商業のはじまりである。

■音

【ピンイン】[zi1]

【呉音・漢音】

【訓読み】もと, たち, たすける, とる, はかる

■解字

会意兼形声。次(シ)は「二(そろえる)+欠(人がしゃがんだ姿)」からなり、ざっと持ち物をそろえるの意を含む。

資は「貝(財貨)+音符次」で、金銭や物品をざっとそろえておいて、用だてること。

■単語家族

姿(シ・ざっと身づくろいする、もちまえ)・?(シ・あつらえて用だてた間食)と同系。

■意味

もと。用だてるためにそろえた品物や金銭。もとで。

◆「李云。資、貨也」(荘子集解)

章甫(ショウホ)

商代(殷代)の冠の名。孔子がかぶってから、儒者の冠となった。

◆章甫の冠を越の国に行商した話は、世俗の価値が超越者の世界では全く通用しないことを譬えたもの。世俗の世界では最高の有徳者とされ「聖天子」とよばれる堯も、一たび神人の前に出れば全く問題にならず、その偉大さに圧倒されて茫然自失する。

諸越(ショエツ)

春秋時代の越のこと。

▼「諸」は、接頭辞。

断髪文身(ダンパツブンシン)

髪の毛を短く切り、入れ墨をすること。

▼南の沿海地方の人々の風習。

たいらかにする(たひらかにす)。公平にする。えこひいきしない。でこぼこがないようにそろえる。

「君子平其政=君子其の政を平らかにす」〔孟子・離下〕

「平室律=室律を平らかにす」〔荀子・王制〕

海内(カイダイ)

天下。世界。

▼四海のうちの意。

「豈有文章驚海内=あに文章の海内を驚かす有らんや」〔杜甫・賓至〕

四子(シシ)

「司馬・李云。四子、王倪・齧缺・被衣・許由。李禎云。四子、本無其人。徴名以實之則鑿矣」(荘子集解)

『釈文』には「王倪・齧欠・被衣・許由」をあげるが、郭象注は「蓋し寄言ならん」といって、それを特定の四人とは見ない。(金谷治)

山の南側、または、川の北側。(どちらも日当たりに面している)

窅然(ヨウゼン)

気を失ったようにぼんやりしているさま。

■音

【ピンイン】[yao3]

【呉音・漢音】ヨウ

【訓読み】くらい

■解字

会意。「穴(あな)+目」。眼球がなくて、深い穴がくぼんでいること。

転じて、見えない、奥深いさまをあらわす。

■単語家族

杳(ヨウ・よく見えない)・窈(ヨウ・深遠な)と同系。

■意味

くらい(くらし)。かげがあってくらいさま。

(ソウ)

■音

【ピンイン】[sang1 / sang4]

【呉音・漢音】ソウ

■意味

うしなう(うしなふ)。離れ去る。分離して自分のものでなくなってしまう。