荘子:逍遥遊第一(11) 是其塵垢秕糠 ,將猶陶鑄堯舜者也

荘子:逍遥遊第一(11) 是其塵垢秕糠 ,將猶陶鑄堯舜者也

2008年09月18日 08時39分21秒 | 漢籍

荘子:逍遥遊第一(11)

連 叔 曰 : 「 然 , 瞽 者 無 以 與 乎 文 章 之 觀 , 聾 者 無 以 與 乎 鐘 鼓 之 聲 。 豈 唯 形 骸 有 聾 盲 哉 ? 夫 知 亦 有 之 。 是 其 言 也 , 猶 時 女 也 。 之 人 也 , 之 德 也 , 將 旁 礴 萬 物 以 為 一 , 世 蘄 乎 亂 , 孰 弊 弊 焉 以 天 下 為 事 ! 之 人 也 , 物 莫 之 傷 , 大 浸 稽 天 而 不 溺 , 大 旱 金 石 流、 土 山 焦 而 不 熱 。 是 其 塵 垢 秕 糠 , 將 猶 陶 鑄 堯 舜 者 也 , 孰 肯 以 物 為 事 ! 」

荘子:「逍遥遊篇」もくじ

連叔曰わく、「然り、『瞽者(コシャ)は以て文章の観に与(あずか)ることなく、聾者(ロウシャ)は以 て鐘鼓(ショウコ)の声(こえ)に与かることなし。豈(あ)に唯(た)だ形骸にのみ聾盲(ロウモウ)あらんや。夫(か)の知にも亦(ま)たこれあり』と。 是れその言や猶お時(こ)の女(なんじ)のごときなり。之(こ)の人や、之の徳や、将(まさ)に万物を旁(あまね)く礴(おお)いて以て一と為(な)さん とす。世(よ)は乱(おさ)めんことを蘄(もと)むるも、孰(たれ)か弊弊焉(ヘイヘイエン)として天下を以て事と為(な)さんや。之(こ)の人や、物 (なにもの)も之(これ)を傷つくることなし。大浸(タイシン・おおみず)の天に稽(とど)くとも溺れず、大旱(タイカン・おおひでり)に金石流れ土山焦 (こが)るるとも、熱(あつ)しとせず。是(こ)れ其の塵垢秕糠(ジンコウヒコウ・ふけあかくいかす)も、将に猶お堯舜(ギョウ・シュン)を陶鋳(トウ チュウ)せんとする者なり。孰(たれ)か肯(あ)えて物を以て事と為さんや。

連叔は言った、「なるほど、『視力のない人には文章(あやいろどり)の観(ながめ)をみるすべはないし、聴力のない人に鐘鼓(ショウコ=音楽)の声(ね いろ)をきくすべはない。けれどもそれは、形骸(からだ)の能力だけに限ったことではなく、知識についても同じことがいえる。』といわれるが、お前こそ、 まさにそれだ。この「神人」は、万物をあまねく包みおおう究極的な「一」の世界に立ち、無為自然の「徳」によって一切存在を感化してゆくのだ。世間の人々 が平和を願うからといって、天下のために苦労をして勤めるようなことをするだろうか。人為的な作為である政治の世界からは高く超越するのだ。この神人は、 なにものにも傷つけられることがない。大水が出て天にとどくほどになっても溺れることがなく、大旱魃(おおひでり)(旱魃=干魃)で金属や岩石が溶けて流 れ、大地や山肌が焦(こ)げるほどになっても熱さをかんじない。この神人は、その体の塵(ふけ)と垢(あか)のような「かす」や食いかすからでも堯舜くら いは簡単に作り出すことができるのだ。"孰(な)んぞ肯えて物(よのなか)をおさむることを以て事(しごと)と為(せ)んや"わざわざ人為的な作為である 政治の世界に身をおくことはないのだ」と。

■音

【ピンイン】[gu3]

【漢音】【呉音】

■解字

会意兼形声。「目+音符鼓(皮が張ってあるたいこ→ぴんと張ったままで働かない)」。

■意味

目の働かない人。盲人。

與(与)■音【ピンイン】[yu3 / yu4 / yu2]【呉音・漢音】【訓読み】あたえる、くみする、あずかる、ともに、と、より、か

■解字

会意兼形声。与は牙(ガ)の原字と同形で、かみあった姿を示す。

與はさらに四本の手をそえて、二人が両手でいっしょに物を持ちあげるさまを示す。

「二人の両手+音符与」で、かみあわす、力をあわせるなどの意を含む。

■意味

(1)くみする(くみす)。力をあわせる。広く、いっしょに物事をするために仲間になる。「易与=くみし易し」

(2)組。仲間。「与党」「与国」

(3)あずかる(あづかる)。参加する。「参与」

「而王天下、不与存焉=しかうして天下に王たるは、あずかり存せず」〔孟子・尽上〕

(4)ともに。いっしょに。「不可与言=ともに言ふべからず」〔論語・衛霊公〕

■単語家族

舁(ヨ・力をあわせてかつぎあげる)・輿(ヨ・力をあわせて持ちあげるみこし)・擧(キョ=挙。力をあわせて持ちあげる)などと同系。

文章(ブンショウ)

模様。あや。

觀(観)

外にあらわしてみせる姿。また、みわたしたけしき。

■音

【ピンイン】[long2]

【漢音】ロウ 【呉音】

■解字

会意兼形声。「耳+音符龍(ロウ=竜。太くてよく見えない、あいまい)」。

■意味

耳の聞こえないこと。また、その人。

■単語家族

朧(ロウ)(ぼんやり)と同系。

鐘鼓(ショウコ)

鐘と太鼓。ともに音楽を演奏するための代表的な楽器。また、音楽。

「鐘鼓饌玉不足貴、但願長酔不用醒=鐘鼓饌玉は貴ぶに足らず、但だ長酔を願ひて醒むるを用ゐず」〔李白・将進酒〕

▼饌玉(センギョク):とりそろえたりっぱなごちそう。

聲(声)■音【ピンイン】[sheng1]【漢音】セイ 【呉音】ショウ【訓読み】こえ、こわ、おと■解字 会意。声は、石板をぶらさげてたたいて音を出す、磬(ケイ)という楽器を描いた象形文字。 殳は、磬をたたく棒を手に持つ姿。 聲は「磬の略体+耳」で、耳で磬の音を聞くさまを示す。 広く、耳をうつ音響や音声をいう。

■意味

(1){名詞}こえ(こゑ)。

▼人の声、動物の鳴き声、物の響きを含めていう。「音声」

「聞其声不忍食其肉=其の声を聞けば其の肉を食らふに忍びず」〔孟子・梁上〕

(2)うわさ。評判。「名声」「声、振礼?=声、礼?に振るふ」〔李娃伝〕

(3)おと。音楽の響き。

「錚錚然有京都声=錚錚然として京都の声有り」〔白居易・琵琶行・序〕

「音楽之」 =「Sound of Music」

これ。この。(指示詞)

▼之や是(これ、この)に当てた用法。

「時日害喪=時の日害か喪びん」〔孟子・梁上〕

(なんじ)

なんじ(なんぢ)。おまえ。第二人称。《同義語》⇒汝。《類義語》⇒爾。

「予及女偕亡=予と女及偕に亡びん」〔孟子・梁上〕

■音

【ピンイン】[pang2]

【呉音・漢音】ホウ

【訓読み】かたわら、つくり、よる、ひろがる、あまねし

■意味

(1)ひろがる。中心から四方に向けてひろがる。「旁薄(ホウハク)(四方に広くひろがる)」

(2)あまねし。広くゆきわたるさま。《同義語》⇒滂。「旁通(ホウツウ)」

■音

【ピンイン】[bo2]

【漢音】ハク 【呉音】バク

■解字

会意兼形声。「石+(音符)薄(ハク)(うすく平ら)」。

■意味

広くおおう。また、みちふさがる。また、平らに広がるさま。《同義語》⇒薄。「磅佗(ホウハク)」

「司馬云、稽至也」

■音

【ピンイン】[ji1 / qi3]

【漢音】ケイ 【呉音】

【訓読み】とどまる、とどめる、かんがえる、くらべる

■意味

とどまる。とどめる(とどむ)。一定のところまでとどいてとまる。とどこおる。ためらう。

■音

【ピンイン】[jiao1]

【呉音・漢音】ショウ

【訓読み】こげる、こがす、こがれる、あせる

■解字

会意。「隹(とり)+火」で、とりを火の上でちりちりとこがして焼くことを示す。こげて収縮するの意を含む。

■意味

(1)こげる(こぐ)。こがす。ちりちりとこげる。黒くこげて縮む。《同義語》⇒糞。

「焦眉之急(ショウビのキュウ)」

(2)こがす。こがれる(こがる)。こげるほど心を悩まして、いらいらする。《同義語》⇒憔。「焦慮」

「労身焦思=身を労し思ひを焦がす」〔史記・夏〕

塵垢秕糠(ジンコウヒコウ)

【塵垢】

(1)ちりと、あか。

▼「ふけ」と「あか」(福永光司)

(2)世の中のけがれ。

「遊乎塵垢之外=塵垢の外に遊ぶ」〔斉物論篇〕

【秕糠】

=秕糠。かす米と、ぬか。つまらない残り物のたとえ。

陶鋳(トウチュウ)

(1)陶器をつくることと、金属を鋳て器物をつくること。

(2)物をつくりあげること。

(3)人材を養成すること。

■音

【ピンイン】[qi2]

【漢音】【呉音】ゴ、ギ

■解字

会意兼形声。「艸+單+(音符)斤(きる、刈る)」。

■意味

(1)刃物で刈るやまぜり。《同義語》⇒芹。

(2)「山擅(サンキ)」とは、薬用植物の名。香りがよい。とうき。

(3)もとめる(もとむ)。祈りもとめる。

▼祈に当てた用法。

「所以擅有道=有道を擅むるゆゑんなり」〔呂氏春秋・振乱〕

(4)くつわ。

▼?(キン)に当てた用法。

亂(乱)■音【ピンイン】[luan4]【呉音・漢音】ラン 【唐宋音】ロン【訓読み】みだれる、みだす、みだれ、おさめる■解字 会意。左の部分は、糸を上と下から手で引っぱるさま。右の部分は、乙印で押さえるの意を示す。 あわせてもつれた糸を両手であしらうさまを示す。もつれ、もつれに手を加えるなどの意をあらわす。

おさめるの意味は、後者の転義にすぎない。

■意味

おさめる(をさむ)。物事のもつれを押さえて筋道を正す。また、そのさま。

「予有乱臣十人=予に乱臣十人有り」〔論語・泰伯〕

▼「亂治也(乱は治なり)」(荘子集解)

▼「乱」は反訓文字で「治」と読む。(福永光司)

あえて(あへて)。よしと心にうなずいて。

「肯与隣翁相対飲=肯へて隣翁と相ひ対飲せん」〔杜甫・客至〕