荘子:逍遥遊第一(4) 小知不及大知

荘子:逍遥遊第一(4) 小知不及大知(小知は大知に及ばず)

2008年09月06日 01時06分58秒 | 漢籍

荘子:逍遥遊第一(4)

蜩 與 學 鳩 笑 之 曰 : 「 我 決 起 而 飛 , 搶 楡 枋 , 時 則 不 至 而 控 於 地 而 已 矣 , 奚 以 之 九 萬 里 而 南 為 ? 」 適 莽 蒼 者 , 三 餐 而 反 , 腹 猶 果 然 ; 適 百 里 者 , 宿 舂 糧 ; 適 千 里 者, 三 月 聚 糧 。 之 二 虫 又 何 知 ! 小 知 不 及 大 知 , 小 年 不 及 大 年 。

荘子:「逍遥遊篇」もくじ

蜩(チョウ・ひぐらし)と学鳩(ガクキュウ・こばと)とこれを笑いて曰(い)わく、「我れら決起(ケッ キ)して飛び、楡枋(ユボウ)に搶(つきすす)むも、時としては則ち至らずして地に控(コウ・なげいだ)さるるのみ。奚(なに)を以て九万里に之(のぼ) りて南することを為さん」と。

莽蒼(モウソウ)に適(ゆ)く者は三餐(サンサン)にして反(かえ)れば、腹なお果然(カゼン・ふくれ)たり。百里に適(ゆ)く者は宿(シュク)に糧 (かて)を舂(うすづ)き、千里に適(ゆ)く者は三月(みつき)糧(かて)を聚(あつ)む。之(こ)の二虫はまた何をか知らんや。

小知は大知に及ばず、小年は大年に及ばず。

蜩(ひぐらし)と学鳩(こばと)とがそれをせせら笑っていう、「我々はふるいたって飛び上がり、楡(にれ)や枋(まゆみ)の木に勢いよく飛びつくが、そ れさえ行きつけずに地面にたたきつけられてしまうこともある。それなのに何の必要があって九万里もの高さに翔けのぼり、南に行こうとするのか。(なんとお おげさで無用なことだろう)と。

莽(くさ)の青々としげった近郊の野原に出かける者(ひと)は、三食の弁当だけで帰ってきて、それでもまだ満腹でいられるが、百里の旅に出る者(ひと) は、一晩かかって食糧の米をつき、千里の旅に出る者(ひと)は、三か月もかかって食糧を集めて準備をするのだ。大鵬が図南(トナン)の翼(つばさ)を張る ためには九万里の上騰(ジョウトウ)が必要となるのだが、この小さな蜩(ひぐらし)と学鳩(こばと)に、大鵬の飛翔のことなど、いったいどうして理解でき ようか。

知恵小さきものは、大いなる知恵をもつものには及ばず、短き年寿(よわい)をもつものは、長き年寿(よわい)をもつものにはとうてい匹敵できぬのである。

決起ケッキ

勢いよくたちあがる。

「我、決起而飛、搶楡枋=我、決起し飛び、楡枋を搶く」

■音

【呉音】ソウ 【漢音】ショウ

【訓読み】つく、とる

■意味

直線状につきかかること。まっしぐらにつっかかる。

「決起而飛、搶楡枋=決起して飛び、楡枋を搶く」

(ユ・にれ)

(ホウ・まゆみ)

■音

【漢音】コウ 【呉音】クウ

【訓読み】ひかえる, ひく, ひかえ

■意味

(1)後ろにひく。また、ひき止めて後ろにさげる。

(2)後ろにひかれる。手前にひき寄せる。

「時則不至而控於地而已矣=時には則ち至らずして地に控(コウ)するのみ」

莽蒼モウソウ

あおあおとした草原。

■音

【呉音】モウ 【漢音】ボウ

【訓読み】くさ

■意味

(1)くさ。おおいかぶさる雑草。また、くさ深い野。

(2)くさのおおいかぶさるさま。「莽莽(ボウボウ)」

■解字

会意。もと「艸+犬+艸」で、猟犬がくさむらに姿を没するさまをあらわす。

■単語家族

茫(ボウ)(おおって見えない)・罔(モウ)(おおう)と同系。

■音

【呉音・漢音】ソウ

【訓読み】あお、あおい

■意味

(1)干したあお草のような色。生気のないあお色。くすんだあお色をしている。「蒼海(ソウカイ)」

(2)元気がなくあおざめたさま。色つやがうせたさま。「蒼顔(ソウガン)」「蒼髪(ソウハツ)」

(3)草木のあおあおとおい茂るさま。

■音

【呉音・漢音】サン

■意味

(1)食べたり飲んだりする。

(2)ごちそう。飲食物。食事。

(3)食事の回数を数える単位。「毎日両餐(毎日二食)」

果然(カゼン)

腹のいっぱいなさま。

宿

■音

【漢音】シュク 【呉音】スク

■意味

(1)やどる。

▽一夜の泊まりを宿、二夜の泊まりを、三夜以上の泊まりをという。

(2)一夜とどめて置く。一夜の。「宿雨」「不宿肉=肉を宿せず」〔論語・郷党〕

之二虫

之(こ)の二虫(ニチュウ)

虫(蟲)■音【漢音】チュウ 【呉音】ジュウ【訓読み】むし■意味 動物の総称。羽虫は鳥類、毛虫は獣類、甲虫は亀(カメ)類、鱗虫(リンチュウ)は魚類、裸虫は人類のこと。■解字

会意。虫を三つあわせたもので、多くのうじむし。転じて、いろいろな動物をあらわす。

▽もと、虫と蟲(チュウ)は別の字であるが、のち、虫の字を蟲の略字として用いる。