荘子:人間世第四(3) 菑人者,人必反菑之

荘子:人間世第四(3) 菑人者,人必反菑之

2011年07月22日 01時11分33秒 | 漢籍

荘子:人間世第四(3)

且德厚信矼,未達人氣,名聞不爭,未達人心。而彊以仁義繩墨之言,術暴人之前者,是以人惡有其美也,命之曰菑人。菑人者,人必反菑之,若殆為人菑夫!

[荘子:「人間世篇」もくじ]

且つ徳は厚く信は矼(かた)きも未だ人の気に達せず、名聞は争わざるも、未だ人の心に達せず、而(しか)も彊(し)いて仁義繩墨(ジンギジョウボク)の言を以て,暴人の前に術(の)ぶる者は、是れ人の悪を以て其の美を有(ほこ)るなり。

これを命(なづ)けて菑人(サイジン)と曰う。菑人なる者は、人必ず反(かえ)ってこれに菑(わざわい)せん。若(なんじ)は殆(おそ)らくは人に菑(わざわい)せら為(ら)れん夫(かな)!

それに、お前の徳が十分厚く、お前の誠実さが堅固であっても(自己が誠実であり、純粋でありさえすれば、それだけで事が足りると考えるならば大間違い だ)、まだ相手の気心もわからないうちに、仁義道徳のお題目を暴君の前でまくしたてるというのは、他人の悪事を種にして自己の正しさを相手に押売りするこ とになる。つまり、人の弱点を食い物にして自分の長所をひけらかすというやつだ。

このように、おせっかいで他人に迷惑をおよぼす人間を、菑人(サイジン)─ いつも周囲の人間を傷つけてまわる男─ という。

他人を傷つけてまわって自分だけ無事でありおおせるわけがない。他人に災いを及ぼすような者には、他人のほうでも、必ずあべこべに災いのお返しをするものだ。お前もその独善と、善意の押売りを用心しないと、きっと他人から災いを受けることだろう。

※矼・・・固と同義。

【漢音・呉音】コウ

【訓読み】とびいし, いしばし, かたい

【意味】

(1)とびいし。いしばし。

水中に少しずつ離して並べて、水面上に出ている部分を伝わってわたれるようにした石。

(2)かたい(かたし)。かたいさま。気まじめなさま。

【解字】

会意兼形声。

「石+音符工(こちらからむこうまで通す)」。

※繩墨

大工が用いて木の曲直を正すすみなわのこと。転じて法則規範の意に用いられる。

「其大本擁腫而不中縄墨=其の大本は擁腫して縄墨に中たらず」 →【逍遥遊篇】

の異体字。

【漢音・呉音】サイ

【意味】わざわい。進行をとめてさしさわりをおこす、じゃまなできごと。

【解字】会意兼形声。

真中の部分は川の流れを止めるせきを描いた象形文字で音は(シ)・(サイ)。

葘は「艸+田+(音符)サイ」で、作物の生長をとめた荒れ田をあらわす。

⇒ [人間世第四(4) 是以火救火,以水救水,名之曰益多]・[荘子:内篇の素読]