荘子:逍遥遊第一(5) 朝菌不知晦朔

荘子:逍遥遊第一(5) 朝菌不知晦朔(朝菌は晦朔を知らず)

2008年09月07日 15時51分52秒 | 漢籍

荘子:逍遥遊第一(5)

  奚 以 知 其 然 也 ? 朝 菌 不 知 晦 朔 , 蟪 蛄 不 知 春 秋 , 此 小 年 也 。 楚 之 南 有 冥 靈 者 , 以 五 百 歳 為 春 , 五 百 歳 為 秋 ; 上 古 有 大 椿 者 , 以 八 千 歳 為 春 , 八 千 歳 為 秋 。 而 彭 祖 乃 今 以 久 特 聞 , 衆 人 匹 之 , 不 亦 悲 乎 !

荘子:「逍遥遊篇」もくじ

  奚(なに)を以て其の然(しか)るを知るや。朝菌(チョウキン)は晦朔(カイサク)を知らず、蟪蛄(ケイコ)は春 秋を知らず。此れ小年なり。楚(ソ)の南に、冥霊(メイレイ)なる者あり、五百歳を以て春と為し、五百歳を秋となす。上古に大椿(タイチン)なる者あり、 八千歳を以て春と為し、八千歳を秋と為す。而るに彭祖(ホウソ)は乃(すなわ)ち今、久(キュウ・いのちながき)を以て特(ひと)り聞こえ、衆人これに匹 (たぐ)わんとする、亦(ま)た悲しからずや。

どうしてそのことが分かるか。朝菌は朝から暮れまでのいのちで、夜と明け方を知らず、蟪蛄(夏ぜみ)は夏だけの命で、春と秋を知らない。これが短い寿命 である。楚の国の南方には冥霊(メイレイ)という木があって、五百年のあいだが生長繁茂する春で、また五百年のあいだが落葉の秋である。大昔には大椿(タ イチン)という木があって、八千年のあいだが生長繁茂の春で、また八千年のあいだが落葉の秋であった。

ところが、彭祖(ホウソ)は、わずかに八百年を生きたというだけで、長寿者として大いに有名であり、世間の人々は、長寿のことを話題にする場合は必ず彭祖をひきあいに出す。何と悲しいことではないか。

朝菌(チョウキン)

朝生えて晩には枯れるというきのこ。

▽一説に、朝生まれて晩には死ぬ虫。

晦朔(カイサク)

(1)みそかと、ついたち。 (2)朝と晩。

■音

【漢音】カイ 【呉音】

■解字

形声。「日+音符毎(マイ)・(カイ)」。

「晦とは冥(くらい)なり」『爾雅』

■意味

(1)みそか。つごもり。

(2)くらい(くらし)。よくわからない。

■単語家族

海(くらいうみ)・悔(心がくらい気持ちになる)などと同系。また、黒(くろい、くらい)はその入声(ニッショウ・つまり音)に当たることば。

墨・黒・海・悔・夢 ─ くろい、くらい

朔■音【呉音・漢音】サク■解字 会意。右側は、逆の原字で、さかさまにもりを打ちこんださま。また大の字(人間が立った姿)をさかさにしたものともいう。朔はそれと月を合わせた字で、月が一周してもとの位置に戻ったことを示す。「月の一日(ついたち)に始めて蘇(よみがえる)なり」『説文』

■意味

(1)ついたち。ひと月が終わって、暦の最初にもどった日。陰暦で月の第一日のこと。「朔日(サクジツ)」

(2)こよみのこと。

▽朔(ついたち)を基準にして陰暦のこよみを作ることから。

「正朔(セイサク)(天子が年末に天下に頒布するこよみ)」

(3)北のこと。

▽十二支を方角に当てると、子(ね)の方角(北)はその最初に位するから。

「朔北(サクホク)」

■単語家族

遡(ソ)(流れと逆に動いてもとにもどる)・泝(ソ)(流れと逆に動いて源のほうにもどる)と同系。

蟪蛄(ケイコ)

にいにいぜみ。せみの一種。小形で、からだは、黒色。羽がすきとおっている。夏の末、秋のはじめに鳴く。

■音

【漢音】ケイ 【呉音】

■解字

形声。「虫+(音符)惠」。

■音

【漢音】【呉音】

■解字

会意兼形声。「虫+音符古(=固。かたい)」。からだのかたい虫のこと。

「螻蛄(ロウコ)」とは、虫の名。けら。

冥霊(メイレイ)

木の名とも、亀の名ともいう。

大椿(ダイチン・タイチン)

伝説上の大木。

彭祖(ホウソ)

古代、伝説上の仙人(センニン)。帝尭(ギョウ)の臣。殷(イン)の末までおよそ八百年生きたという。長寿の代表とされた。