荘子:斉物論第二(6) 一受其成形,不亡以待盡

荘子:斉物論第二(6) 一受其成形,不亡以待盡

2008年10月06日 01時24分10秒 | 漢籍

荘子:斉物論第二(6)

一 受 其 成 形 , 不 亡 以 待 盡 。 與 物 相 刃 相 靡 , 其 行 盡 如 馳 , 而 莫 之 能 止 , 不 亦 悲 乎 ! 終 身 役 役 而 不 見 其 成 功 , 苶(薾) 然 疲 役 而 不 知 其 所 歸 , 可 不 哀 邪 ! 人 謂 之 不 死 , 奚 益 !其 形 化 , 其 心 與 之 然 , 可 不 謂 大 哀 乎 ? 人 之 生 也 , 固 若 是 芒 乎 ? 其 我 獨 芒 , 而 人 亦 有 不 芒 者 乎 ?

[荘子:「斉物論篇」もくじ]

一たび其の成形(セイケイ)を受くれば、亡(ほろ)ぼさずして以て尽くるを待たん。物と相い刃(さか ら)い相い靡(そこな)い、其の行き尽くすこと馳(は)するが如(ごと)にくして、これを能(よ)く止(とど)むるなし。亦(また)悲しからずや。修身役役(エキエキ)として其の成功を見ず。苶然(デツゼン)として疲役(ヒエキ)して、其の帰(キ)するところを知らず。哀(かな)しまざるべけんや。

人は之を死せずと謂うも、奚(なん)の益かあらん。其の形(かたち)化して其の心も之と然り。大哀(タイアイ)と謂わざるべけんや。人の生くるや、固 (もと)より是(か)くの若(ごと)く芒(くら)きか。其れ我れ独(ひと)り芒(くら)くして、人も亦(また)芒(くら)からざる者あるか。

人は一たび自然としての生をこの世に受けて人間となった以上、この自然としての生を、自然としてそのまま受け取り、これを亡(うしな)うことなく、命の 果てる日を待つほかないであろう。しかるに世俗の人間は、徒らに外界の事物に引きずられ、他と争い傷つけあって、自己を耗(す)りへらして、その人生を早 馬のように走りぬけ、これをとどめるすべを知らないのは、なんと悲しいことか。

その生涯をあくせくと労苦のうちにすごしながら、しかもその成功を見ることもなく、ぐったりと疲労しきって、落ち着く所を知らない有様である。哀(あわ)れというほかないではないか。

人はそれでもなお、「俺は生きている」というかもしれないが、これほど無意味な人生がまたとあろうか。その肉体がうつろい衰えて、心もそれと同時に萎(しぼ)んでしまったのである。これを大きな哀(かな)しみといわずにいられるであろうか。

人の生涯というものは、もともとこのように愚かなものなのか。それとも自分だけが愚かで、世人のうちには愚かではない者もいるのだろうか。

成形

人間としての形

「一受其成形」ひとたび人間としての形を受けた以上は

■音

【ピンイン】[mi2 / mi3]

【漢音】【呉音】

【訓読み】なびく、ない

■解字

形声。「麻(しなやかなあさ)+音符非」

■意味

(1)なびく。外から加わる力に従う。

「燕従風而靡=燕は風に従つて靡かん」〔史記・淮陰侯〕

(2)こする。すりへらす。

「喜則交頸相靡=喜べば則ち頸を交へて相ひ靡す」〔馬蹄篇〕

苶(薾)

■音

【ピンイン】[nie2]

【漢音】デツ 【呉音】ネチ

■解字

会意兼形声。「艸+柔らかく小さい、げんなりしたの意の音符」。

■意味

「苶然(デツゼン)」とは、ぐったりと疲れるさま。

然疲役而不知其所帰=然として疲役して其の帰する所を知らず」

▼一説に忘れるさま。

◆世徳堂本では「薾然」

■音

【ピンイン】[wang2]

【漢音】ボウ 【呉音】モウ

【訓読み】のぎ、ほさき、ひかり、くらい、すすき

■解字

会意兼形声。「艸+音符亡(ボウ)(みえにくい)」

▼茫(みえにくい)と同系。

■意味

(1)のぎ (2)ほさき (3)ひかり。光線の先端。「光芒(コウボウ)」

(3)くらい(くらし)。ぼんやりくらいさま。おろかなさま。

「人之生也、固若是芒乎=人の生まるるや、固より是くのごとく芒きか」

⇒ [斉物論第二(7)]・[荘子:内篇の素読]