荘子:逍遥遊第一(10) 藐姑射之山 ,有神人居焉

荘子:逍遥遊第一(10) 藐姑射之山 ,有神人居焉(藐姑射の山に神人のすめる有り)

2008年09月17日 08時12分14秒 | 漢籍

荘子:逍遥遊第一(10)

連 叔 曰 : 「 其 言 謂 何 哉 ? 」「 曰 『 藐 姑 射 之 山 , 有 神 人 居 焉 。 肌 膚 若 冰 雪 , 綽 約 若 處 子 ; 不 食 五 穀 , 吸 風 飲 露 ; 乘 雲 氣 , 御 飛 龍 , 而 游 乎 四 海 之 外 ; 其 神 凝 , 使 物 不 疵 癘 而 年 穀 熟 。 』 吾 以 是 狂 而 不 信 也 。 」

荘子:「逍遥遊篇」もくじ

連叔曰わく、「其の言は何と謂(い)えるや」と。曰わく、「『藐(はる)かなる姑射(コヤ)の山に神人 (シンジン)のありて居る。肌膚(キフ)は冰雪(ヒョウセツ)のごとく、綽約(シャクヤク)たること処子(ショシ)の若(ごと)し。五穀を食(く)らわ ず、風を吸い露を飲み、雲気に乗じ、飛龍に御(ギョ)して、而(しこう)して四海の外に遊ぶ。其の神(シン)凝(こ)れば、物をして疵(きず)つけ癘 (や)ましめず、年穀(ネンコク)をして熟せしむ。』と。吾れ是れを以て狂として信ぜざるなり」と。

連叔がたずねた、「その話とはどんな内容だったのか?」と。肩吾が答えて「『はるかなる姑射の山には仙人が棲んでいる。肌(はだえ)は氷か雪のように 真っ白で、しなやかな肢体(シタイ)をういういしいなまめかしさに包んだ処女(おとめ)のように清浄無垢である。穀物などは食べることなく、風を吸って露 を飲み、雲気の流れにまかせて飛龍にうち乗り、天地宇宙の間を自由自在に飛翔して回り、この世界の外で遊んでいる。ひとたびその精神が凝集すれば、災禍な く疫病なく、一年の実りを成熟させて飢餓をなからしめ、その宇宙的な精神のはたらきが、生きとし生けるものに生の安らかなる歓喜を謳歌させる。』というの だ。わしはこのようにとほうもない話はとても信用できぬのだ。

藐姑射(ハコヤ・バクコヤ)

山名。不老不死の仙人(センニン)が住むという。

▼一説に、「姑射(コヤ)」を山の名として、「藐(はる)かなる姑射」と読む。

■音

【ピンイン】[miao3]

【漢音】バク 【呉音】マク

【訓読み】はるか、とおい、かろんずる

■解字

会意兼形声。「艸+音符貌(ボウ・おぼろげな形、かすかな)」で、細い、かすかなの意を含む。

■単語家族

秒(穂先の細いのぎ)・苗(小さいなえ)・妙(かすか)などと同系。

■意味

(1)小さくてかすかなさま。「藐小(ビョウショウ)」

(2)はるか(はるかなり)。とおい(とほし)。とおくまでほそぼそと続いているさま。

また、とおくにあっておぼろげなさま。「藐然(バクゼン)」

(3)かろんずる(かろんず)。小さいものと見なす。目にとめない。軽視する。

「説大人則藐之=大人に説くには則ちこれを藐んぜよ」〔孟子・尽下〕

◆釈文:藐音?(荘子集解)

藐姑射之山(ハコヤのやま)

<日本語での特別な意味>

上皇を祝って上皇の御所をいうことば。長寿の仙人(センニン)にたとえていう。「仙洞(セントウ)御所」とも。

■音

【ピンイン】[bing1]

【呉音・漢音】ヒョウ

【訓読み】こおり、ひ、こおる

■解字

会意兼形声。もと、こおりのわれめを描いた象形文字。それが冫(二すい)の形となった。

冰(ヒョウ)は「水+音符冫」。氷は、その略字。

▼冫(二すい)は、凍・寒などの字では、こおりをあらわす意符として用いられる。

■意味

(1)こおり(こほり)。水がこおってできる割れやすい性質をもった固体。

「如履薄冰(=氷)=薄冰(=氷)を履むがごとし」〔論語・泰伯〕

「冰(=氷)水為之、而寒於水=冰(=氷)は水之を為り、水よりも寒し」〔荀子・勧学〕

(2)こおる(こほる)。水がこおって固体になる。「氷点」

(3)こおりのように、すきとおって清らかなことのたとえ。「一片氷心=一片の氷心」

(4)こおりのように、冷たい。また、こおりのようにとけやすいさま。「氷姿」「氷解」

■単語家族

馮(ヒョウ・ぽんとぶつかってくだける)・崩(ばさりとくずれる)などと同系。

綽約(シャクヤク)

ゆったりとしてしとやかなさま。

「其中綽約多仙子=其の中に綽約として仙子多し」〔白居易・長恨歌〕

◆李云:綽約好貌。(李頤・荘子集解)

■音

【ピンイン】[chuo4]

【呉音・漢音】シャク

■解字

会意兼形声。「糸+音符卓(タク・高くひいでる、ゆとりをあける)」。

■意味

ゆったりとしたさま。また、ゆとりをあけているさま。じゅうぶん。

「寛兮綽兮=寛たり兮綽たり兮」〔詩経・衛風・淇奥〕

「妖姿媚態、綽有余妍=妖姿媚態、綽として余妍有り」〔孟?・人面桃花〕

処子(ショシ)

◆釈文:処子在室女(荘子集解)

五穀(ゴコク)

(1)五種の穀物。稲(米)・黍(ショ・もちきび)・稷(ショク・こうりゃん)・麦・菽(シュク豆)のこと。

▼一説に、麻・黍・稷・麦・豆とも。

(2)穀物類の総称。

<日本語での特別な意味>米・麦・黍(きび)・粟(あわ)・豆のこと。

疵癘(シレイ)

(1)病気。 (2)たたり。わざわい。

■音

【ピンイン】[ci1]

【漢音】【呉音】

【訓読み】きず

■解字

会意兼形声。「容+音符此(シ・ぎざぎざとくい違う)」。

■意味

(1)きず。ぎざぎざした、きず。

(2)病気。

(3)欠点。あやまち。

「知我国有疵=我が国疵有るを知る」〔書経・大誥〕

■音

【ピンイン】[li4]

【漢音】レイ 【呉音】ライ

【訓読み】えやみ、ころす

■解字

会意兼形声。「容+音符勵(レイ・はげしい、きつい)の略体」。きびしくからだを痛めつける病気。

■意味

(1)病気の名。ハンセン病。かったい。《同義語》⇒癩。

(2)えやみ。はやりやまい。流行病。「癘疫(レイエキ)」

(3)ころす。ひどい手段でころす。《同義語》⇒莞。