荘子:斉物論第二(2) 而獨不見之調調 ,之刁刁乎

荘子:斉物論第二(2) 而獨不見之調調 ,之刁刁乎

2008年09月28日 05時26分22秒 | 漢籍

荘子:斉物論第二(2)

子 游 曰 : 「 敢 問 其 方 」、 子 綦 曰 : 「 夫 大 塊 噫 氣 , 其 名 為 風 。 是 唯 無 作 , 作 則 萬 竅 怒 呺 。 而 獨 不 聞 之 翏 翏 乎? 山 林 之 畏 佳 , 大 木 而 圍 之 竅 穴 , 似 鼻 , 似 口 , 似 耳 , 似 枅 , 似 圈 , 似 臼 , 似 洼 者, 似 汚 者 。 激 者 、 謞 者 、 叱 者 、 吸 者 、 叫 者 、譹 者 、 宎 者 , 咬 者 , 前 者 唱 于 而 隨 者 唱 喁 , 泠 風 則 小 和 , 飄 風 則 大 和 , 厲 風 濟 則 衆 竅 為 虛 。 而 獨 不 見 之 調 調 , 之 刀 刀 乎? 」

[荘子:「斉物論篇」もくじ]

子游(シユウ)曰わく、「敢(あ)えて其の方(ことわり)を問う」と。

子綦曰わく、夫(そ)れ、大塊(タイカイ)の噫気(アイキ・おくび)は其の名を風と為(な)す。是れ唯(ただ)作(おこ)ることなきのみ。作れば則ち萬 竅怒呺(バンキョウドゴウ)す。而(なんじ)は独り之の翏翏(リュウリュウ)たるを聞かざるか。山林の畏隹(ワイサイ)たる、大木百囲の竅穴(キョウケ ツ)は、鼻の似(ごと)きもの、口の似(ごと)きもの、耳の似(ごと)きもの、枅(ますがた)の似(ごと)きもの、圈(さかずき)の似(ごと)きもの、臼 の似(ごと)きもの、洼(ア・ふかきくぼみ)の似(ごと)きもの、汚(オ・ひろきくぼみ)の似(ごと)きものあり。激(しぶき)の者(おと)あり、謞(さ け)ぶ者(おと)あり、叱(しか)る者(おと)あり、吸う者(おと)あり、叫ぶ者(おと)あり、譹(なきさけ)ぶ者(おと)あり、宎(くぐも)れる者(お と)あり、咬(か)む者(おと)あり。前なる者は于(ウ・ふうっ)と唱え、而して隨(したがう・あとなる)者は喁(ギョウ・ごうっ)と唱う。泠風(レイフ ウ)は則ち小和し、飄風(ヒョウフウ)は則ち大和す。厲風(レイフウ)済(や)めば則ち衆竅(シュウキョウ)も虚と為(な)る。而(なんじ)独り之(こ) の調調(チョウチョウ)たると之の刀刀(チョウチョウ)たるを見ざるかと。

子游が言った、「ぜひともそのことについてお教えください」と。

子綦は答えて言った、「そもそも大地のあくびで吐き出された息、それを風という。この風は、吹き起こらなければそれまでだが、一たび吹き起これば、すべ ての穴という穴が激しく音をたてはじめる。お前は、その音を聞いたことがないか。山の木立がざわめき揺れて、百囲(かか)えもある大木の穴は、鼻の穴のよ うな、口のような、耳の穴のような、枅(ますがた)のような、杯(さかずき)のような、臼(うす)のような、深く狭い窪地(くぼち)のような、広い窪地の ような形のものに風が吹きあたれば、水のいわばしる音、高々とさけぶ音、するどい声で叱りつけるような音、吸い込むような音、金切り声で叫ぶような音、泣 きさけぶような音、こもった音、咬(とおぼえ)する音がして、前のものが于(ううっ)とうなると、後のものは?(ごうっ)とこたえる。そよ風のときには小 さく和(こた)え、つむじ風が舞いあがるときには大きく和(こた)える。そして大風一過して天地がもとの清寂に帰ると、もろもろの穴はひっそりと静まりか える。お前はあの、風の中の樹々が、ざわざわ、ゆらゆらと揺れ動くさまを見たことがないか」と。

大塊(タイカイ)

大地

噫気(アイキ)

(1)はく息。

「夫大塊噫気、其名為風=それ大塊の噫気は、其の名を風と為す」

(2)胃にたまったガスが口から出るもの。げっぷ。おくび。《同義語》?気。

■音

【ピンイン】[ai4]

【漢音】アイ 【呉音】

【訓読み】ああ、おくび

■解字

会意兼形声。意は、「音(口をふさぐ)+心」の会意文字で、黙って心の中におさめたため、胸がつかえることを示す。憶の原字。

噫は「口+音符意」で、胸がつまって出る嘆声。

■意味

胸がつかえて出るげっぷ。《類義語》⇒?(アイ)。

■音

【ピンイン】[ji1]

【漢音】ケイ 【呉音】ケン

【訓読み】ますがた

■意味

ますがた。柱の上に置き、棟を支える角材。

■音

【ピンイン】[liao2]

【漢音】リュウ 【呉音】

■解字

会意。「羽+(翏-羽・まじる)」。離れる、もつれるの両方の意味をあらわす。

■意味

(1)鳥がつきつ離れつして高い空を飛ぶ。

(2)「翏翏(リュウリュウ)」とは、風が物の間を吹きぬけるさま。

「独不聞之翏翏乎=独りこれが翏翏たるを聞かざるか」

畏隹(ワイサイ)

木立のざわめき揺れる有様(郭象)

◆「即畏隹、猶隹巍」(荘子集解)

◆山陵の畏佳(イシ)たる・・・

畏佳(イシ)と読んで、「山の尾根がうねうねとめぐっているところ」(金谷治)

「畏佳(イシ)は山の高低ありて槃回(めぐ)るさま」(司馬氏)

(ゲキ)

【ピンイン】[ji1]

■解字

会意兼形声。右側は「白+放」の会意文字で、水が当たって白いしぶきを放つこと。

激はそれを音符とし、水印を加えてその原義を明示したもの。

■意味

(1)はげしい(はげし)。水が岩に当たってくだけるほど勢いが強いさま。

(2)はやい(はやし)。しぶきを飛ばすほどはやいさま。

◆「宣云。激、如水激聲。謞如箭去聲。叱出而聲粗。吸入而聲細。叫高而聲揚。號下而聲濁。穾深而聲留。咬鳴而聲清。皆状竅聲」(荘子集解)

(コウ)

【ピンイン】[xue4]

さけぶ。大声でさけぶ。

■音

【ピンイン】[chi4]

【漢音】シツ 【呉音】シチ

■解字

会意。七は切の原字で、鋭い刃でさっと切ること。叱は「口(くち)+七」で、しっと鋭くどなる意。

■意味

しっと鋭い声でしかりつける。

■音

【ピンイン】[jiao4]

【呉音・漢音】キョウ

【訓読み】さけぶ、さけび、よぶ

■解字

会意兼形声。右側は、糾(キュウ)の原字で、なわをよじりあわせたさまを描いた象形文字。

叫はそれを音符とし、口を加えた字で、金切り声(しぼり声)でさけぶこと。

■意味

さけぶ。さけび。のどを絞めてかん高い声でさけぶ。また、さけび。

■音

【ピンイン】[hao2]

【漢音】コウ 【呉音】ゴウ

【訓読み】さけぶ

■解字

会意兼形声。「言+(音符)豪(ゴウ・大きい)」。

■音

【ピンイン】[yao3]

【呉音・漢音】ヨウ

■解字

会意兼形声。「宀+(音符)夭(ヨウ)」。夭は細くかすかで、よく見えない意を含む。

■意味

(1)暗くてみえにくい、家の東南のすみ。また、一説に、東北のすみ。

「鶉生於宎=鶉宎に生ず」〔徐無鬼篇〕

(2)音のこもったさま。音が、かすかに響くさま。

「宎者=宎なる者」〔斉物論篇〕

■音

【ピンイン】[jiao3 / yao3]

【漢音】コウ 【呉音】キョウ

■解字

会意兼形声。「口+音符交(交差させる)」で、上下のあごや歯を交差させてぐっとかみしめること。

■意味

かむ。あご、または歯をかみあわせる。

■音

【ピンイン】[yu2]

【呉音・漢音】

■解字

指事。息がのどにつかえてわあ、ああと漏れ出るさまを示す。直進せずに曲がるの意を含む。

■意味

ああ。わあ、ああという嘆息の声をあらわすことば。

■音

【ピンイン】[yong2]

【漢音】ギョウ 【呉音】グ、グウ

【訓読み】あぎとう

■解字

形声。「口+(音符)禺(グウ)」。

■意味

(1)あぎとう(あぎとふ)。魚が口を水面に出してぱくぱくと呼吸する。

(2)呼びあう声。

「前者唱于、而随者唱?=前者は于と唱へ、随者は?と唱ふ」

(3)「喁喁(ギョウギョウ)」とは、人が仰ぎ慕うさま。また、魚が水面で呼吸するさま。

「喁喁魚闖萍=喁喁として魚は萍を闖ふ」〔韓愈・南山詩〕

泠風(レイフウ)

さわやかなそよ風。

「泠風則小和=泠風は則ち小和す」

◆「李云、泠、小風也。爾雅、回風為飄。」(荘子集解)

飄風(ヒョウフウ)

「飄」は、つむじかぜ。舞いあがる旋風。

◆「李云、泠、小風也。爾雅、回風為飄。」(荘子集解)

厲風(レイフウ)

(1)はげしい風。烈風。〔荘子・斉物論〕

(2)西北の風。〔呂氏春秋・有始〕

■音

【ピンイン】[diao1]

【呉音・漢音】チョウ

■解字

象形。舌の揺れる鈴を描いたもの。

吊(チョウ・ぶらぶらたれさがって揺れる)と同系。

■意味

(1)ぶらぶらと舌の揺れる鈴。

(2)動揺して定まらない意から、ずるがしこい。「外頑(チョウガン・ずるいわからず屋)」

◆「郭云、調調、刁刁、皆動揺貌」(荘子集解)

[斉物論第二(3)]・[荘子:内篇の素読]