鉄骨が空へ空へと伸びていく長野大学の新棟工事。見た目の迫力に目を奪われがちですが、その裏では、ミリ単位の精度を追い求める職人たちの緻密な作業が展開されています。
今回は「建入れ直し」と、それを支える「建て方エース」、そして工事全体の品質を高める「鉄骨の本締め」に焦点を当てます。
鉄骨工事では、柱を仮ボルトで接合した後、「建入れ直し」という工程を行います。
トランシットという測量機器を使い、柱の垂直・水平をミリ単位で調整。
建物の精度を確保するために欠かせない作業で、特に高層の建物ではごくわずかなズレが全体に大きな影響を与えるため、丁寧な作業が求められます。
建入れ直しが完了すると、仮ボルトを本締め用の高力ボルトに交換し、ボルトを締める作業。これが「本締め」作業です。
構造体として鉄骨を確実に固定し、建物の強度を高め、安全性を確保する工程です。
ボルト一本にも、現場の緊張感と責任が詰まっています。
鉄骨の足元では、見えないけれどとても重要な作業があります。
それが、基礎コンクリートと鉄骨のベースプレートの間に設けるベースモルタル作業です。現場ではこれを親しみを込めて「だんご」または「まんじゅう」と呼んでいます。
このモルタルは、鉄骨の柱が立つ箇所に饅頭型の土台として設けられ、柱の荷重を受け止めたり、建て入れ時の鉛直精度を確保したりするために欠かせません。
だんごの高さはミリ単位で調整され、その上に鉄骨柱が慎重に設置されます。
さらに、建て入れ直しを可能にするためにも、だんごは必須です。
だんごがなければ、鉄骨柱のベースプレートが床に接してしまい、柱を微調整できなくなります。
つまり、“だんご”は、見た目には小さな存在ですが、建物全体の安定性を左右する縁の下の力持ちなのです。
今回の新棟工事では、高精度な建方を可能にする装置「建て方エース」が活用されています。
これは柱のジョイント部分に取り付けて使用し、転倒防止・レベル調整・目違い調整などを行うことで、施工精度を高め、安全性を高める装置です。
建て方エースの導入により、鉄骨建方の品質は格段に向上し、作業も効率化されます。
まさに、見えないところで新棟の“骨格”を支える名脇役です。
ただし、1節部分では鉄骨柱が直接コンクリート基礎に固定されるため、「建て方エース」は使用できません。
そこで、1節ではワイヤーとアンカーを用いて、柱の傾斜や高さ(レベル)を丁寧に微調整しています。
ここでも、だんごが重要な役割を果たします。
だんごを設けることでトランシットを用いた柱の傾斜の微調整が可能になります。
階層ごとの条件に応じて最適な施工方法を使い分ける現場の柔軟性と技術力が光ります。
完成後にはすべて壁の中に隠れてしまうこうした鉄骨工事の工程ですが、その一つひとつが「精度の高い建物をつくる」ための積み重ねであることを、改めて感じさせてくれます。