「中食」のコーヒーというのは,喫茶店やカフェといった外食でもなく,家庭で淹れるコーヒーでもない,お店で買ってきて,会社や学校や家庭,あるいは公園や道端で飲むコーヒーを指しています。だとすると,やはり日本の第一波はやはり世界に冠たる缶コーヒーでしょう。しかし,それはコーヒーと言うよりコーヒー牛乳にそのルーツがあり,外食コーヒーの第一波の喫茶店とは全く別ルートで普及していきました。第二波は,ミルクたっぷりのラテを可能にしたチルドカップでしょう。第三波はコンビニコーヒーが助走的役割を果たしたのかもしれません。
コーヒー需要の第一波がコーヒー消費文化の最初の普及なら,中食の場合は缶コーヒーでしょう。
しかし,それは外食需要の第一波である喫茶店のコーヒーを中食化したのではなく,日本にもともとあった瓶入りのコーヒー牛乳を改良するという,全く別ルートの普及でした。第二波,第三派が,外食需要を中食化,内食化する形で普及したのと全く違います。
コーヒー牛乳,それはどちらかと言うと"コーヒー味の牛乳"です。(ただし,現在は「飲用乳の表示に関する公正競争規約」というのがあって,「牛乳」と言う表記はできません。「コーヒー入り乳飲料」と表記しないといけないようです。カフェラテ,カフェオレ,とかおしゃれなのに,なんて無粋な名前なのでしょうか。)
コーヒー牛乳は,守山乳業株式会社の会社案内によると,同社が1923年(大正12年)4月20日に東海道線国府津駅で発売したのが最初だったようです。同社創業者の守山謙氏が東京の商店にバターを納品しに出かけた際、ハワイのコーヒーを日本に売り込もうとしていた住田商会(現・株式会社エム・シー・フーズに合併)の初代社長の住田多次郎氏と偶然出会った。そこでハワイでコーヒーにクリームを入れて飲むことがあると聞いた守山氏,クリームの代わりに牛乳を入れてみた。牛乳とコーヒーの割合を半々にして砂糖を加えて初のコーヒー牛乳が完成したとのこと。(ちなみに4月20日はコーヒー牛乳の日だそうです)
戦前,日本には牛乳もコーヒーもあまりなじみがなく,コーヒー牛乳が生まれて普及したというのは面白いです。当時は,ハワイのコーヒーは現在のコナ・コーヒーのようなプレミアム産地ではなく,サトウキビの生産が難しいコナ地区で日本人の移住者が苦労してコーヒー栽培をしていた苦悩の時代でもありました(ハワイ・コナコーヒー を参照)。
コーヒー牛乳はさらに改良を加えられ,1927年(昭和2年)には全国の駅で販売されるようになりました。そして,話は戦後となり,UCCへバトンが渡ります。UCCの創業者・上島忠雄氏が駅で瓶入りのコーヒー牛乳を飲んでいたところ,列車が発車しそうになり,慌てて飲み残しの瓶を返した。「いつでも,どこでも,手軽に飲めるコーヒーは作れないか」ということで,瓶入りを缶入りにした。スチールの味が移る,牛乳とコーヒーが分離する,等々難題はあったようですが,1969年(昭和44年)4月,ミルク入り缶コーヒーが誕生し,翌年の大阪万博で火が付き一気に普及したそうです。(UCC上島珈琲株式会社「開発秘話」より)
その後,清涼飲料各社が参入し,缶コーヒーは,コーヒー入り乳飲料を出発点として,よりコーヒーに近いという形で多様化していきます。生豆使用量の増量,微糖や無糖も人気です。日本独特の自動販売機の普及は缶コーヒーの販売を加速させました。自動販売機には冷たいのだけでなく,温かい缶コーヒーもあって,寒い冬にはこれに助けられた人がどれだけいたでしょうか。
ところで,缶コーヒーは現在どれだけ売れているのか,調べようとしましたがよくわかりません。UCCは自社の販売量を年間3億5000ケース(24本入りってことか?)と上記サイトにざっくり書いています。
一口に「缶コーヒー」と言っても,生豆使用量に応じて,「コーヒー入り清涼飲料」「コーヒー飲料」「コーヒー」に分類されて統計に上げられます。さらにUCCのロング缶のようなのは「コーヒー入り乳飲料」なんだそうです。
ちなみに,全国清涼飲料連合会によると,容器入り清涼飲料として2020年に生産された生産量と販売金額は以下だそうです。
コーヒー 1,799千kl 5,205億円
コーヒー飲料 775千kl 1,755億円
コーヒー入り清涼飲料等 330千kl 442億円
コーヒー入り乳飲料 136千kl 765億円
これらを合計すると,清涼飲料全体の生産量が 21,579千kl,販売額が37,978億円のうち,コーヒー系の飲料は,量では14%,金額では23%を占めます。ただし,これにはチルドカップやペットボトルも入るので,缶コーヒーだけではありません。
日本コーヒー協会が,「缶入りコーヒー」という項目で2020年の消費量 1,369千kl を示しています。この「缶入りコーヒー」がどこまでを指すのかが不明ですが,これがいわゆる缶コーヒーだとすると,コーヒー系飲料の45%は缶コーヒーということになります。また,「昭和60年ごろには,缶コーヒーがコーラの消費量を上回る」とコメントしています。缶コーヒーは,1997年(平成2年)に消費量のピークを迎え,それ以降は漸減していきます。(1990年を100とすると,1997年は105,2020年には63だそうです。)
缶コーヒーの消費量がまだまだ伸び続けていた1993年,森永乳業がチルドカップのカフェラテを販売します。(森永乳業「マウントレーニアヒストリー」)スターバックスが上陸する3年前です。
チルド飲料というのは,缶コーヒーやペットボトルと違って,コールドチェーンを使って製造から小売店舗までの全ての流通過程を冷蔵しておく必要があり,賞味期限も短いです。しかし,そのぶん元々の風味を損なわずに飲料を消費者に届けることができます。
コールドチェーンといえば,乳業メーカーです。もともと牛乳は流通している間ずっと冷蔵しておく必要があります。このコールドチェーンを使えばミルクたっぷりのチルドカップも販売できます。森永乳業から最初のチルドカップが販売されたのもうなづけます。コンビニの拡大も大きかったようです。
2005年には,スターバックスも世界に先行してチルドカップを販売します(サントリー食品インターナショナルのライセンス販売)。「きょうは、どこをスターバックスにする?」のキャッチコピーどおり,ラテブームの第二波を中食に持ち込む戦略だったようです。スターバックス・チルドカップは,その後,カフェラテとエスプレッソを基本にしながらも,ティーラテ,抹茶ラテ,さくらチョコレートラテ,その他季節商品,,,,と,風味を残せる,回転が短い等のチルドカップの利点を活かしながら,第二波的な展開を見せます。
2013年,セブンイレブンのコーヒーが大ヒットします。日本の消費動向に述べたとおり,コンビニコーヒーは当時停滞していた日本のコーヒー需要を押し上げた感があります。
コンビニコーヒーが第三波?と首をかしげる人もいるかもしれません。もしかしたら,第一波の流れと第三派への助走と言った方がよいかもしれません。仕事中に,勉強の合間に,気分転換にコーヒーを飲む,というのはすでに日本人には定着していました。かといって自分で淹れるのも面倒くさい,缶コーヒーやチルドカップもやはりちょっと違う。かといって,喫茶店やスタバに入るのも邪魔くさいし,値段も高いということでしょう。
当時日本は,経済がデフレに陥り,何もかも安く,安く,という時代に入っていました。スタバで何百円も出してフラペチーノを買う余裕はない。コンビニなら百円でコーヒーが飲める。しかも,なぜかそこそこおいしい。ファストフード・チェーンといった外食産業やインスタントコーヒーのメーカーといった内食向けメーカーも,こうした「手軽に安く飲めるコーヒー」需要を狙って次々に参入します。しかし,それらも結局コンビニコーヒーの引き立て役だった気もします。「コンビニコーヒーは、なぜ高級ホテルより美味いのか」(川島良彰, 2015, ポプラ新書) なんていう本も出されました。
当然の流れとして,コンビニは豆へのこだわりも見せ始めます。写真は,2020年にローソンが期間限定で販売していたブラジル・イパネマ農園・イエローブルボンです。シングルオリジンってことです。これも100円です。コンビニの場合,コーヒーだけを買うお客さんは少なく,たいがいスイーツやらパンなどが同時に買われるようです。コーヒーの利益率を削っても元はとれるようです。