コーヒーの香味表現を視覚的に見つける
コーヒーというのは嗜好品であって,その香味が全てです。香味で価値が決まるのだから,コーヒーを取引する者どうしでその香味が共有できないといけません。生産者と集荷業者,集荷業者と卸,卸と小売,小売と消費者,彼らの間でカッピングをやったり,試飲したりして,それなりに香味を確かめることもありますが,このコーヒーがどんな香味かを的確に表現できたら便利です。
コーヒーの香味を言葉で表現するのはなかなか難しく,長い間様々な試行錯誤が続けられてきました。1995年にアメリカスペシャルティ協会(SCAA,現SCA)が提唱したCoffee Taster's Flavor Wheel があり,一時期はこれが業界標準となっていました。
これは,以下のようなものです。
1995年版 SCA フレバーホイール
右側のWheel はTaste(味)とAloma(香り)に分かれて,Taste(味)の方が,Sour(酸味),Sweet(酸味),Salt(塩味),Bitter(苦味)に分かれているようです。Aloma(香り)の方は,Enzymatic(酵素関連の香り?),Sugar Browning(糖の褐化,カラメル化反応関連の香りのことか?),Dry Distillation(分解蒸留,いわゆる熱分解反応),難しい表現ですね。
左側のWheelには,土臭さとか,獣臭とか,焦げとか,欠点と言えるような表現が並んでいます。
なんというか,コーヒーの風味を直接表現するというよりも,どちらかと言うと焙煎士寄りの表現のような気がします。このSCAのフレバーホイールは,2016年に新しいものに改訂されました。(ちょっと鮮明さが足りませんが,CC4.0とはいえ,SCAが売っているものなので,鮮明な画像は避けています。鮮明なのはSCAから買ってください。10ドルぐらいだったか?)
2016年版 SCA フレバーホイール
2016年版のフレバーは階層的になっていて,例えば,「うん?このフレバーはFruitだ!」と思ったら,次に,それは何のフルーツかと考えます。そして「あ,Berryだ!」と思ったら,さらに何ベリーか?という風に進んでいきます。
フレバーの近いものどうしが並んでいて,横に並んでいてもやや異なるものはちょっと間隔が空けてあるという念の入れようです。具体的に,「Floral」がどんな香りか,その中で「ROSE」はどんな香りか,説明と参照をしたかったら,WCR Lexicon に記載があります。
より具体的な(正確な?)フレバーホイールの使い方は,SCAが出しているHow to Use the Coffee Taster’s Flavor Wheel in Eight Stepsを見てください。
これを見ていると,なんだか自分でもフレバーを表現できるような気がしてきます。そして,コーヒーを1口ごくり・・・う~ん,最初の階層からよくわからん(笑)
さらに,これらの英語の表現,これを日本語に訳すとするとまたそれも難しい。直訳しても日本人のイメージにそのまま落ちるとは限らないでしょうしね。旦部(2016)によると,日本人がよく使う「香ばしい」という表現は英語にはないそうで,Bitterという表現も日本語の「苦い」よりもかなりネガティブなイメージがあり使いたがらないとか。日本コーヒー協会が日本語のコーヒーテイスティングの評価用語を提案しています。
ちなみに,韓国の会社が SENTONE AROMA KIT 144 というフレバーを再現したキット(たぶん?)を売り出しています。$1,000ぐらいするようですが,フレバーって,嗅覚だけでなく,味覚と知覚との混合なので,これでうまくできるのか,素人の私にはよくわかりません。
コーヒーの風味,香り,食感の表現を確認する
この用語集は,コーヒーの110種類の香味や食感について,それはどういう香味や食感かを説明し,さらに,どうすれば確認できるかを,身近で手に入る食材などを利用した再現方法が書かれています。
例えば,「Berry」の表現された香味には,以下のような説明が与えられています。
The sweet, sour, floral, sometimes heavy aromatic associated with a variety of berries such as blackberries, raspberries, blueberries, or strawberries.(ブラックベリー、ラズベリー、ブルーベリー、イチゴなど、さまざまなベリー類を連想させる、甘く、酸味があり、花のような、時には濃厚な香り。)
そして,それを確認するための方法として,アメリカのKrogerというスーパーマーケットが売っているPrivate Selection Triple Berry Preserves というジャムを使います。強さ10.0のアロマを確認するには,ブランデーグラスにこのジャムをティースプーン1杯入れて蓋をしたものを用意しろ,強さ9.0のフレバーを確認するには,1オンス(約30g)のカップにこのジャムをティースプーン1杯入れて蓋をしたものを用意しろというふうに書いてあります。
他には,「Oily」という表現は,次のような説明があります。
The amount of fat/oily film left on surfaces of mouth after swallowing or expectorating.(飲み込むか吐いて,後に口の表面に残る脂肪/油膜の量)
確認方法として,Horizon Organic Low-Fat (1%) ultrapasteurized milk という牛乳を使います。フレバーの強さ3.0を確認するには,1オンスのカップに(この牛乳を入れるんでしょうね)蓋をしたものを用意するように指示されています。
「身近で手には入る食材」といっても,それはアメリカでの話なので,日本人の我々には手に入りにくもたくさんあるのですが,それでも何の説明もなく「Berry」とか「Oily」とか言われて勝手に想像するよりもずいぶんましな気がします。
なお,SCAとWCRは個別の団体ですが,お互いは協力関係にあるそうで,このLexiconは,2016年に出されたSCAのフレバーホイールの表現に対応しています。