答えは簡単です。見ればわかります。生豆にはカビが生えているからです。必ず生えているわけではないのですが,しょっちゅう発見します。
そりゃあ,CoEクラスの豆にはそんなのはないかもしれません。しかし,粗末な用具で下手くそな焙煎を繰り返している私は,そんないい豆は買えません。安い豆はしょっちゅうカビ豆に出くわします。
「これをそのまま飲むのか?」
私は,それほど食品リスクに敏感な方ではありません。しかしカビ豆を見るとみなさんだって素直にそう思うと思いますよ。すでに焙煎した豆はわかりにくいので,私はあんまり安い焙煎豆は買わないことにしています。
カビが生えていたとしても,カビ菌自体は焙煎で死滅します。そりゃそうでしょう。200℃近くで焙煎するのですから。しかしカビ毒は減りません。
というのが定説になっていますが,69%減少したという報告もあったりします。Stegen et al.(2001) どっちなんだい?カビ毒。専門用語だと,マイコトキシン (micotoxin)というそうです。コーヒーがマイコトキシンにどのくらい汚染されているかという調査は,1960年代からあるようです。マイコトキシンにもいろいろあるようで,論文よく出てくるのは,オクラトキシンA(ochratoxin A, OCT-A) のようです。Laviら (1968, 1974, 1980) がしばしば引用されているのですが,市販豆の1%未満だが,OCT-Aとaflatoxin(AF) を確認しています。坪内ほか (1984) は,昭和57-58年と古いですが,生豆22検体を調べ4件のOCT-A汚染を確認しています(AFは無かった)。
探せば,いろんなマイコトキシンの調査結果が見つかります。市中で売られているコーヒー生豆を調べて,いろいろな結果が発表されてえいます。マイコトキシンが全く確認できなかったというのもありました。結構見つかったという調査結果もありました。安全な生豆もたくさんあるんだが,カビ毒が含まれている豆も結構あるというのが現実のようです。
食品安全委員会のリスク評価によると「OTA又はOTA代謝物はDNAに直接作用して付加体を形成する遺伝毒性発がん物質ではなく,間接的にDNAに作用する非遺伝毒性発がん物質」であり,耐用一日許容量(TDI)は,
腎障害 16ng/kg体重/日
発がん性 15ng/kg体重/日
なのだそうです (山本・小川, 2016) 。
坪内ら (1984) が検出したのが 9.9 ~ 46 μg/kg。体重60kgの人が毎日20gのコーヒー豆を摂取した場合のカビ毒の摂取量は,最大値の場合,0.02kg×46μg/kg =0.92μg,TDI上限は15ng/kg×60kgなので0.9μg。検出量の上限とはいえ,TDIを超えていますね。ちなみに,EUのコーヒーの焙煎豆の基準値は5μg/kg。かなり高い値のようです。
坪内ほか(1992)は,不良豆を選別・除去してもOCT-Aは残存することを確認している。そりゃそうでしょう・・・という気がします。カビ豆が含まれたロットだと,カビが飛び散るだろうし・・・と素人は思いますね。
まずカビ豆を除去するのは当然として,それからカビてない豆に付着したカビ毒を洗い流すわけです。問題は,どの程度OCT-Aを洗い流せるかですね。探したけれど,これを調査した論文は見当たりませんでした。
▼引用文献
Levi, C. P., & Borker, E. (1968). Survey of green coffee for potential aflatoxin contamination. Journal of the Association of Official Analytical Chemists, 51(3), 600-602.
Levi, C. P., Trenk, H. L., & Mohr, H. K. (1974). Study of the occurrence of ochratoxin A in green coffee beans. Journal of the Association of Official Analytical Chemists, 57(4), 866-870.
Levi, C. (1980). Mycotoxins in coffee. Journal of the Association of Official Analytical Chemists, 63(6), 1282-1285.
Van der Stegen, G. H., Essens, P. J., & Van der Lijn, J. (2001). Effect of roasting conditions on reduction of ochratoxin A in coffee. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 49(10), 4713-4715.
坪内春夫, 山本勝彦, 久田和夫, & 坂部美雄. (1984). 輸入生コーヒー豆のマイコトキシン汚染調査と毒素産生菌について. マイコトキシン, 1984(19), 16-21.
坪内春夫, 中島正博, 山本勝彦, & 宮部正樹. (1992). 選別によるコーヒー豆のカビ毒除去 (1). マイコトキシン, 1992(36), 45-48.
本山聖子, & 小山典子. (2016). オクラトキシン A のリスク評価. マイコトキシン, 66(1), 31-35.
一度乾燥した豆を洗うなんて,コーヒー豆のポテンシャルを最大限引き出そうという人から見たら暴挙としか考えられないわけですが,洗うことで,なんというか埃っぽさとか,泥臭さみたいなものも消えて,クリーンな味にはなりますね(スカスカの味かもしれませんが)。要は洗い方ですね。特に,ナチュラルとかハニーとかは,洗いすぎると,その意味が分からなくなります。
繰り返しますが,全ての豆にカビ豆が混じっているわけではありません。カビ豆など一切混じっていないロットもたくさんあります。上述のマイコトキシン調査でもそれを裏付けています。要は,カビ豆を発生させない生豆の精製,精製直後のピッキング,適正な乾燥,貯蔵・輸送時の温度・湿度管理がなされているかどうかなんです。
焙煎してしまったらカビが生えているかどうかはわかりません。最近は,生豆をその場で焙煎してくれるお店もあります。その場合は焙煎前に生豆を見せてもらいましょう。カビ豆は上の写真のような豆です。すぐわかります。だいたい虫食い(穴が開いている)や欠けている豆がかびています。そういう豆は避けましょう。焙煎してしまったら,かびているかどうかはわかりませんが,虫食いや欠け豆がごろごろ入っている焙煎豆は要注意です。
ちゃんと管理された豆はそんなに安くは提供できないはずです。あまり安い豆には気を付けましょう。
ちなみにですが,焙煎した豆はカビにくいそうです。カフェインがカビの発生を抑えるようです。生豆にもカフェインはあるのですが,クロロゲン酸がその働きを抑制しちゃうのだそうです。そういう論文がありました。
諸角聖, 和宇慶朝昭, 一言広, & 小原哲二郎. (1985). コーヒー豆のカビ汚染に及ぼす含有成分の影響について. *食品と微生物*, *2*(2), 80-87.