1980年ごろ,米国ではコーヒー市場はすでに成熟期から衰退期にありました。コーヒーは質より量で,薄々のいわゆるアメリカンコーヒーが安価で提供されていました。コーヒーよりもコーラという人も出始め,コーヒーを飲まないという人の割合が若者を中心に増えていました。しかし,1990年代にはいると,スターバックスが地元シアトルを出て全米で店舗展開を開始します。2000年代には,コーヒー業界もこだわりの高品質コーヒーの普及活動を開始します。テイクアウトしたコーヒーカップを持って歩く若者の姿も増え,米国のコーヒー需要はV字回復していきます。
縦軸にICO指標価格(統合価格)、横軸に米国の消費量をとってプロットしたのが次の図です。米国の需給動向も世界的なそれと同様の動きを見せています。ただし、需要拡大のタイミングが世界全体よりやや早いようです。それまで価格に応じて増減させていた米国のコーヒー需要は、第二次コーヒー危機の最中にあった2001年ごろから拡大し始めているように見えます。特に2012年以降の需要の伸びが著しいです。
米国のコーヒー豆の需給動向
コーヒー豆輸入量(生豆換算)と価格の相関、価格はICO指標価格(統合価格) データ:ICO
1人当たり消費量(※)は、1946年にピークとなります。この時、米国では生豆換算で一人20ポンドを消費していました。その後、消費量は 年々減少し、1980年ごろまで消費量は一直線に減少しつづけ、ほとんど半分の10ポンド前後まで減少しました。その後は停滞から微増へ。これはUSDAの統計なのですが、残念ながら、2015までしか出ていないので、それ以降はわかりませんが、おそらくその後は増加基調なんだと思います。
▼消費量について
※正確に言うと、これは消費量ではなくavailability(消費可能な量)です。供給量から在庫の増減、輸出を差し引きいた残りということで、実際には消費されずに廃棄された量も含みます。
米国1人当たりコーヒー消費量
単位:生豆換算ポンド/人
データ:USDA
コーヒー業界の市場調査によると、1962年には米国人の74.7%が毎日コーヒーを飲んでいましたが、1988には50.0%にまで低下します。特に若者のコーヒー離れが大きかったと言われています。
かつて1962年には、20歳台の81%がコーヒーを飲んでいましたが、それが1987年には33%にまで低下したそうです。その要因として、カフェインに対する健康上の懸念の広がりと、米国のコーヒーの品質の低下があったと言われています。いわゆるかつての「アメリカンコーヒー」というやつですね。
さらに、炭酸飲料との競合もあったようです。1980年代後半には、Coke in the Morning(朝からコーク)というキャンペーンもあったそうです。なんでも、コカ・コーラを飲む人の12%が朝からコーラを飲んでいたと。朝の忙しい時にコーヒーを淹れるよりも冷たいコーラを飲む方が簡単で早かったのだと。会社はこのことを知って、この割合を増やそうと思ったようです。
いずれにせよ、この頃米国でコーヒーは中高年齢層が飲むものとなりつつあり、マーケティングのプロダクト・ライフサイクルでいうと成熟期から衰退期に入りつつあったようです。
▼出典
この記述は、Nakamoto & Halloran (1989) によります。
米国毎日コーヒーを飲む人の割合
データ:米国コーヒー協会
落ち込みつつあったコーヒー需要ですが、1990年代ごろから業界の巻き返しが始まります。1991年には冷戦が終結し、経済に活況がみられるようになったこともありますが、それだけでなく、コーヒー需要停滞の原因の一つだった品質改善への取り組みが行われ始めます。1982年に設立された米国スペシャルティコーヒー協会(SCAA)が,当時曖昧だったスペシャルティコーヒーの評価基準・評価方法を開発・整備していきます。そして,1999年にはCup of Excellence プロジェクトが始まりました。
2021年の米国コーヒー協会のレポートによると、米国の58%が過去1日に一杯以上のコーヒーを飲み、36%がスペシャルティコーヒーを飲んだと答えたそうな(本当だろうか?)。
また、1971年に米国シアトルで開業したスターバックスコーヒーは、1987年にはシアトル外にも出店を果たし、1992年の株式公開時には、140店舗に広げていました。スターバックスと言えばエスプレッソ系の第二波需要の中心と考えられていますが、それまでのアメリカンコーヒーから日本人でも味わえるようなしっかりしたコーヒーへの転換を促した功績も大きかったように思います。
私事で恐縮ですが、私は2004年ごろワシントンDCの近くの大学にいたことがあります。大学にはスターバックスも入っていて、昼休みになると教員も学生もみんな GrandeサイズのHouse blend コーヒー を持ってキャンパス内を歩いていました。アメリカのコーヒーはまずいというイメージでしたが、スタバのコーヒーは「飲める」と思いました。昔ながらの安いダイナーとかではうっすいコーヒーを大量に出していましたが、この頃にはだいぶ転換も進んでいたように思います。
米国コーヒー協会の調査では、2020年の毎日コーヒーを飲む人の割合は64%にまで回復します。18歳から24歳で毎日コーヒーを飲む人の割合は48%に達しました。若い人のコーヒーへの回帰は大きかったと思います。
▼参考文献
米国毎日コーヒーを飲む人の割合
2020年、データ:米国コーヒー協会