コーヒーの品質は,しばしば「カッピング」という方法で評価されます。いわゆる官能評価というやつです。いちいちドリップとかせずに,粉をカップに入れてお湯を注いで,すすって味を見るという方法ですね。いっぺんにたくさんの種類の豆を評価する簡便法ではあるのですが,ちゃんと手順(プロトコル)が決まっていたりして,カッパーと呼ばれるその方法に習熟した人もいます。カッピングは,品質検査とは違います。コーヒーは嗜好品であって,特にスペシャルティコーヒーは,その品質の高さや個性が重視されます。それを売る人と買う人との間でどう言語化するかが問題となります。いまのところ,コーヒーのフレバーをうまく計る機械はありません。確立されたカッピング・プロトコルとそれに従ってカッピングを行うカッパーの品質評価能力がコーヒー取引の共通言語を提供しています。
感覚科学の話しが出てきて,小難しいかもしれませんが,ここを理解すると,カッピングで何をしているのかがよくわかり,面白いです。
カッピングは1800年代までさかのぼります。サンフランシスコのコーヒー商 Clarence E. Bickfordが「カップテスト」としてその体系的な方法を開発しました。それまでコーヒーの品質は,豆の外観,豆のサイズ,原産地,サンプル中の欠点豆の数で決まっていたわけです。それでも「カップテスト」は徐々に業界に定着し,取引に利用されるようになります。1920年代には,コモディティコーヒーの国際的商取引所の格付け要件に「カップテスト」が含まれていたようです。この頃には「カップテスト」は「カッピング」,カッピングを行う人がカッパーと呼ばれるようになりました。
この頃のカッピングには18もの評価項目があり,カッパーには鋭い視覚,嗅覚,味覚とそれらを記憶する能力が求められました。いわゆる職人技で,こうした職人を雇える生豆商と焙煎業者だけがカッピングをやっていました。
1960年代,1970年代と,米国でスペシャルティコーヒー市場が拡大していきます。その中で,コーヒーの品質を訴える売手と好みのコーヒーを探す買い手の間で,コーヒーの品質を伝える共通言語が求められてくるわけです。そうした要求の中で,それまで,大規模な生豆商社・焙煎業者に限定されていたカッピング技術の一般化が行われるようになります。
1984年,米国スペシャルティコーヒー協会(SCAA)の Ted Lingle は,誰もがカッピング技術を習得できるトレーニング教材としてCoffee Cupper’s Handbook の初版を執筆しました。それは,誰もができるからといっていい加減な簡便法ではダメなわけで,一定の厳密さ・正確さが求められます。当時,食品の感覚科学の分野は急速な進歩を遂げており,その成果が積極的に取り入れられていきました。
1999年の初め,Ted LingleとSCAAが協力して,SCAA のカッピングプロトコルとスコアリングシステムを開発しました。これはワイン業界の100点満点のスコアリングシステムに触発されたものです。フレバーを記述するための指針Coffee Taster's Flavor Wheel (初版)はすでに開発されていましたが(SCAフレバーホイールを参照),これもAnn Nobleのワインフレーバーに触発されたものでした。
その後,フレバーのトレーニングキットが提供されたり,「Rioy(リオ臭)」,「baggy」,「grady」といった昔から使われていフレーバー用語が感覚科学の用語に置き換えられたりしながら,カッピングによるコーヒーの官能評価は,単なる品質分析技術ではなく,コーヒーの市場取引に共通言語を与え,市場を活性化させるものだという Paul Katzeff の主張は,業界に浸透していきます。同時に,感覚科学に基づくトレーニングの必要性の認識が広まっていきます。
2001 年,Ted Lingle と SCAAが,新しいSCAA カッピングプロトコルとスコアシートを開発すると,SCAAは,Coffee Quality Instituteを設立し,Q Grader というコーヒーのテイスティングと評価を行う専門家の教育とテストを行うプログラムを開発しました。
1999年に始まったCup of Excellenceでも,2001 年にGeorge Howellが開発したカッピングプロトコルが利用されるようになりました。
▼出典
Fernández-Alduenda M. R. and Giuliano, P. (2021) Coffee Sensory and Cupping Handbook, Specialty Coffee Association, California, USA, pp.130.
おいしいコーヒーとはどんなコーヒーか? それは人それぞれだし,それでいいはずなのですが,コーヒーで商売されている方々はそれでは済まされません。風味の特徴をしっかり捉え,それを言葉で表現して伝えないと,納得した取引はできないし価格付けもできません。
風味の捉え方として,コーヒーの場合はカッピングというのをやるようです。業者さんたちがたくさんのサンプルについてドリップして味を確かめるのはたいへんなので,挽いた豆をカップに入れて,お湯を注いで,スプーンですくって味を確認するようです。
カッピングは,個人で味を確かめるためにやる場合もあるし,カッパーと呼ばれるトレーニングを積んでその能力が認められた人が公式にやる場合もあります。主な公式のカッピング手順として,SCAが定めたカッピング・プロトコルと,カップ・オブ・エクセレンスで行われる手順があります。それぞれに専用のスコアシートがあります。
SCAカッピング評価の手順については,Fernández-Alduenda and Giuliano (2021) に詳しいです。以下,評価結果の解釈に必要な部分について,かいつまんで解説します。
※現在SCAのカッピング・プロトコルは見直しが進められています(後述)
準備
焙煎して8時間以上24時間以内の豆を使用します。5つのカップを並べ8.25gずつ少し粗めに引いた豆を入れます。
Fragrance/Aroma
カップの中の豆の焙煎色を確認してスコアシートのスケールにチェックします。ただし,これは採点には加えられません。その後,香りを確認します。SCAは,お湯を注ぐ前の乾いた状態の香りを「Fragrance」と呼んでいます。
Fragranceは,挽かれた常温の豆から揮発する化合物によります。コーヒーには,1,000種類以上の揮発性物質が含まれ,バター,はちみつ,フローラル,フルーティーといったサンプルの個性を生みます (Fernández-Alduenda and Giuliano., 2021, p.37)。
次に5つのカップに93℃のお湯が150ccずつが注がれます。カップに湯が注がれると,カップの表面をCrustと呼ばれるドーム状の湿った粉が覆います。
挽かれた豆に湯が注がれると,コーヒーの細胞壁内に閉じ込められていた化合物が解放されます。熱湯のエネルギーによって,常温では揮発できなかった香りよりも重い化合物が空気中に蒸気の形で発散するわけです。この時,甘い芳香族やナッツ/ココアの香りが優勢となります (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.37)。
3〜5分後,カッピングスプーンと呼ばれるやや幅広のスプーンを使で3回かき混ぜます。Crustを壊し(Break)沈めながら,Crustの下から放出されるガスの香りを確認します。
BreakによってCrustの下からガスが放出されます。このガスは,Crustの段階で発散していたよりも重い化合物で,スパイスやローストした香りが優勢となります(Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.37)。
SCAでは,Crust段階の香りと次のBreak段階の香りとともに「Aroma」と呼んでいます。
カッピング・フォームには,この時のFragranceとAromaの評価が6~10点で採点されます。6点未満の採点がないのは,SCAはあくまでスペシャルティコーヒーを対象としているので,6点未満のコーヒーは相手しないということのようです。
採点は0.25点刻みぐらいのスケールで評価され,採点の目安として,6点:Good,7点:Very good,8点:Excellent,9点:Outstanding という表現が示されています。
カッピングフォームには,Fragrance/Aromaの強さを示すスケールも与えられており,3段階で評価されます。
Flavor
次に,カッパーは,Crustを壊した後の灰汁を掬い出し,カッピングスプーンに掬ったコーヒーを空気と共に勢いよく吸いながら口に含みます。これによって,味覚と触覚および嗅覚を同時に使ったコーヒーの風味の確認が行われます。SCAは,この味覚と触覚および嗅覚を同時に使って感じる風味を「Flavor」と呼んでいます。
Flavorは味覚と触覚および嗅覚が一体となって感じられたものです (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.106)。コーヒーを口に含むと,味蕾が水に溶解または乳化した化合物を五味として知覚します。触覚は,温度,濃さ,渋み,テクスチャーを知覚します。嗅覚では,主に焙煎中に生じたメイラード反応による生成物の香り(キャラメル,ナッツ,またはチョコレートなどの香り)を知覚します。どうも,人間の脳はこれらを別々の知覚として認識できないようです。味蕾,触覚,嗅覚の知覚の混合物としてFlavor知覚します。例えば,コーヒーは高温で焙煎されるのでショ糖などの甘味成分は消失してしまっています。しかし,キャラメル香すると「甘い」と錯覚してしまうようです。しかも脳はその錯覚を識別できないのだとか (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.40)。
カッパーが勢いよくコーヒーをすするのは,口蓋の奥にコーヒー送り,鼻咽頭付近で揮発性物質を放出するためなのだそうです。人の嗅覚は,直接鼻から吸引して感じる直鼻嗅覚よりも,喉の奥の後鼻腔から放出される香りを知覚する後鼻嗅覚に優れています。なので,コーヒーを飲みこんだ方がFlavorをより敏感に感じます。つまり,人は鼻でクンクン嗅ぐより,飲み込んだ方が香りがよくわかる,ということですね。しかし,カッパーは1日に何回もカッピングを行わないといけないので,そんなにコーヒーを飲めません。口に含んで吐き出します。そこで,勢いよくコーヒーをすすり,液を口蓋の奥まで送ることで後鼻嗅覚を知覚する鼻咽頭付近で揮発性物質を放出させ,飲み込んだ状態に近づけているわけです(Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.42)。なので,自宅で1回ぐらいのカッピングをする場合は,飲み込んだ方が早い,ということにもなりますね。
カッピング・フォームでは,Fragrance/AromaをFalvorを6~10点で採点します。
Acidity
コーヒーの酸味は,クロロゲン酸類,カルボン酸類,並びにリン酸の3つのグループで構成されます。とはいえ,そんな酸味になるかは,品種,テロワール,処理方法,焙煎,抽出で異なってくるため複雑です。例えば,低温で栽培されたコーヒーは高温で栽培されたコーヒーよりも酸味が強く,ウォッシュト処理されたコーヒーは,ナチュラル処理されたコーヒーよりも酸味が強くなる傾向にあります。焙煎が浅いほど酸味が強く,ドリップ抽出よりもエスプレッソなど加圧抽出されたコーヒーの方が酸味は強くなります (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.49)。味蕾で感じられる酸味以外にも,ギ酸,酢酸といった揮発性の酸は,ワインのような酸味をもたらします(Fernández-Alduenda and Giuliano., 2021, p.49)。
SCAは,Acidityには2種類があり,好ましい酸味はBrightness,好ましくない酸味はSourと表現することが多いと言っています。ここで「好ましい酸味」とは,生き生きとした甘さ,フレッシュフルーツの特徴に寄与する酸味,コーヒーをすすった最初に感じられる酸味などを指し,「好ましくない酸味」とは,強すぎたりフレーバーを台無しにしたりするような酸味とされている。
Acidityは,コーヒーの質を左右する重要な要素として6~10点で採点します。
Acidityは,その強度も5段階で評価されます。ただし,Acidityの強度とスコアは直接関係はありません。強い酸味のケニアコならケニアなりに,弱い酸味のスマトラならスマトラなりに評価されます。要は,その酸味の質が市場でどう好まれるかそうでないかが問題です。
Body
SCAの言う「Body」には,いわゆる口当たり(Mouthfeel)と同義のように扱われています。ただし,(Fernández-Alduenda and Giuliano ( 2021, p.53)では,厳密には,Bodyが,濃さ (Thickness) と舌触り (Texture) の2つからなるが,Mouthfeelには,これに渋み (Astringency)も含むと定義してます。
カッピングでコーヒーを口に含んで飲み込むんだり吐き出した後,しばらくそのままで後味がどのように変化するかを注意しないといけません(Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.107)。
コーヒーのBodyは,抽出されたコーヒーの懸濁物質によるものです。懸濁物質には多糖類といった不溶性固体や脂質といった疎水性物質があります。コーヒー豆の油が乳化すると,滑らか,あるいはオイリーな舌触りが増します。細かく挽くとザラザラ感が増すことがあります (Fernández-Alduenda and Giuliano., 2021, p.54)。
渋みは,舌や口の表面が乾燥したり,しわが寄ったり,あるいはヒリヒリしたりする感覚で,感覚科学ではMouth drying と表現されます。渋みは,収斂性化合物によるものです。コーヒーの場合,クロロゲン酸やキニン酸が渋みの原因です。未熟な生豆や焙煎が不足(つまり生焼け)だったりすると渋みが強くなります (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.55)。
Bodyも6~10点で採点します。その強度についても,5段階で評価されます。
特徴的な口当たりは,ノートとしてスコアシートに記載されますが,その表現として,Creamy, Buttery, Oily, Tea-like といった他の食品の比喩表現が使われることがありますが,これはクリームやバターといった食品の風味を指すのではなく,その口当たりの類似性を表現しています。
Aftertaste
カッピングでコーヒーを口に含んで,飲み込むか吐き出すかしたら,しばらくそのまま後味がどのように変化するかを注意します。
後味 (Aftertaste) は,コーヒーを飲み込むか吐き出した後,口腔内から咽頭のさらに奥に残ったコーヒーの浮遊物質の香り,味,触感です。抽出されたコーヒーに浮遊する脂質やその他の個体が口蓋を薄く覆います。このコーティング層が芳香性だと,鼻腔後部の芳香知覚が生じます。脂質だと,唾液で乳化されて味蕾が知覚します。エスプレッソなどは,浮遊物質を多く含むので強烈で長く残るAftertasteを持つ傾向にあります。また,こうした浮遊物質は水にほとんど解けない大きな分子であることが多く,AftertasteはFlavorと異なることが多いです。ちなみに,Flavorは単なる嗅覚によるものだけでなく,味覚,触覚との混合物です。そのことからすると,Aftertasteという表現は不適切で,厳密には “After flavor” と表現すべきです(Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.42)。
Bodyも6~10点で採点します。
Balance
上記のFlavor,Acidity,Body,Aftertasteの4つの調和の評価です。のうちの1つの特性が突出していたり,あるいは1つが欠如していたりする場合,「バランスが崩れている」とされます。これも6~10点で採点します。
バランスは主観的です。深煎りを好む消費者と浅煎りを好む消費者とでは苦みと酸味のバランスは異なります。個人差だけでなく地域性もあるかもしれません。科学的には,コーヒーに含まれる様々な化合物の相互作用を確認し調整することで甘いものから酸っぱいものまで変化させることは可能かもしれませんが,そのうちのどれが「バランスのとれた」コーヒーとなるかは消費者の好み次第です。 (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.51)。しかし,少なくとも,酸っぱすぎたり,フルーティーすぎたりして,他の知覚を覆ってしまうような場合,バランスの評点は低くなります。
Uniformity
Uniformity(均一性)は,カップ間の一貫性です。SCAのカッピング・プロトコルでは,1種類の生豆をカッピングに5カップのサンプルを用意します。5つのカップのコーヒーの均一性を評価することで,ロット内の生豆の均一性を推定するわけです。風味の強い豆 1 個でカップ全体の風味が変わることがあります。
Uniformityについては,品質の良し悪しは評価されません。カップ間の類似性の単純な比較のみです。カッピング・フォームのUniformityの欄には,5つのチェックボックスが用意されていて,カップが同一なら、カッパーは 5 つのボックスすべてにチェックを入れます。1 杯だけ異なる場合は、1 つのボックスはチェックしません。いわゆる Check-All-That-Apply (CATA) テストです。
Clean Cup
コーヒーに雑味が含まれていないかのチェックです。
コーヒーの雑味は,コーヒー以外の材料や,適切に調製処理されていないコーヒーに含まれる生物学的汚染(いわゆるカビ,バクテリア)が原因となることが多いです。こうした汚染物質の含有を特定します。厳密に「コーヒー以外のFlavorが含まれないこと」したいところですが,最近はコーヒー需要の多様化で,例えば乳酸菌発酵を取り入れたプロセッシングを行い独特の香味を付加しているコーヒーも普及してきました。「クリーン」と「クリーンでない」の境界はだんだん曖昧になってきています。コーヒー以外の「雑味」が市場で受け入れられるか否かの推測をClean Cupの判断基準するしかなさそうです(Fernández-Alduenda and Giuliano 2021, p.108)。
SCAカッピング・フォームでClean Cupは,5つのチェックボックスにチェックするCATAテストです。
Sweetness
先述のように,焙煎されたコーヒーにはショ糖といった甘味成分は含まれていなません。確かに甘味を感じられるコーヒーはあるのですが,それは香味成分から連想された錯覚であると理解されています。ともあれ,Sweetnessは文字どおり「甘い」と感じられる甘さがあるかないかがチェックされますが,そうでなくても,心地よい豊かな風味 (Pleasing fullness of flavor) があればそれでよしとされますされます。
SCAカッピング・フォームではSweetnessも,5つのチェックボックスにチェックするCATAテストです。
Overall
Overallは他の全ての項目の評価を踏まえての全体的な印象の評価です。
Overallが他の項目の総合点だとすると,他の項目の評価点を合計すればよい話で,この項目の採点は不要であるはずです。しかし,実際には,スコアシートの項目に収まらない評価が加算されたりして,必ずしも他の項目の総合点と一致しません。
官能評価なので,厳密に言うとすべての項目はカッピングした人の主観的な評価です。しかし,Overall項目の評価は,特に主観的で,カッパーが自分の好き嫌いを自由に表現できる「カッパーズポイント」とみなされています (Fernández-Alduenda and Giuliano., 2021, p.108)。
Defect
カッパーは,テイスティングにおいて消費者が不快に感じる風味がある場合,Defect(一般に「欠点豆」と呼ばれているようです)としてその程度を評価します。
Defectは,生豆の傷や欠け,虫食いなどの物理的損傷に基づいていることが多いです。そうした生豆はカビなどの生物学的感染や化学的感染を引き起こしやすくなります。スペシャルティ・コーヒーとして審査されるような豆は,そうした損傷のある豆は収穫・調製段階における「ピッキング」という作業で除去されますが,稀に混入することがあります。さらに,物理的損傷が特に目立たない目視できないDefectがある場合もあります。例えば,輸送中または保管中における石油芳香族,保管または処理中のフェノール類,乾燥処理の不適切さによるカビ,カメムシの食害で引き起こされる感染によるジャガイモ臭などの汚染です。収穫が遅れ熟しすぎまたは発酵処理の失敗もDefectとして評価されます (Fernández-Alduenda and Giuliano, 2021, p.108)。
コーヒー豆のDefectについては,SCAが「ARABICA GREEN COFFEE defect handbook」(SCA, 2013) を出していて,これに詳しいです。
Defectの程度には,"taints"(汚れ?)と"faults"(欠点?)の2つのレベルがあり,"taints"の方がましで,"faults"の方がひどいという評価です。"taints"だと,スコアから1カップあたり2ポイント減点されます。"faults"だと,1カップあたり4ポイント減点されます。1回で5カップカッピングするので5つのカップとも"faults"が感じられたら,4×5=20ポイントが一気に減点され,もうそれは「スペシャルティ」なコーヒーでなくなってしまうという評価です。
Notes
カッパーは,カッピングによって,採点だけでなく,サンプルの特徴や印象をNoteとしてカッピング・フォームに書き残します。
CoEのカッピングプロトコルは,SCAのように細かいところまで公表されていません。その代わり,カッパーを育成する教育・トレーニングプログラムという形で提供されているようです。そのページに自宅でカッピングという動画も配信されています。
CoEのカッピングフォームは,2001年,米国の起業家George Howellによって開発されました。ここにその見本を貼り付けたかったですが,著作権がうるさそうだったのでリンクだけです。こちらのリンクから確認してください→Cup of Excellence のカッピングフォーム
SCAのカッピングとCoEのカッピングの違いは,その目的の違いによります。SCAが個々の豆の品質の高さと個性を評価することに目標を置いているのに対して,CoEは,豆どうしの品質の高さを競う品評会としてカッピングを行います。SCAのカッピングは,今売りたい豆の品質の高さや個性を示したい,目の前にある買いたい豆の品質の高さや個性を知りたいというニーズに応えるもので,CoEで,生産各国で,われこそはと思う豆が出品され,その中でどれが一番すごいかを審査するためにカッピングが行われます。そのため,CoEでは,欠点豆なんていうのはそもそも無いという前提なのか,ひどいのが4カップ中1個でもあると,もう品評会で先に進む見込みはほぼなくなります。また,競争なので公平性が重視され,カッピングを行うタイミングで評価が変わってしまう香りなどは評価はするが点数には加えません。また,評価が曖昧ではいけないので,後述すような曖昧性やバイアスを極力排除する工夫が行われています。
CoEカッピングスコアの算出方法
カッピングスコア
CoEのカッピングスコアは,Clean Cup(カップのきれいさ,雑味の無さ),Sweet(甘味),Acidity(酸味),Mouth Feel(口当たり),Flavor(フレバー),Aftertaste(後味),Balance(バランス),Overall(全体的な印象)の8項目がそれぞれ8点満点,合計64点満点で評価されます。Defect(欠点)が無い場合は,これに36点が加えられ100点満点で採点されます。Defectがあった場合は,最大48点でマイナスされます。
カッピングシートには,これら8項目とDefectだけでなく,採点に加えられない評価も書きこまれ,同時にその印象もノートとして記述されていきます。SCAは個々の商取引のため,CoEは競技会のためのカッピングだと言いましたが,CoEの競技会も単なる競争ではなく,その先には,そこで評価された豆に買い手の注目を集めたいという,あくまで商取引を目的としています。せっかくカッピングするのだから,カッパーは,その豆の良さは余すところなく伝えようとします。
準備
同じ豆でも,焙煎,粉砕,温度,水質などで風味は違ってきます。詳細はわかりませんが,CoEのカッピングは,これらの違いを最小限に抑えて,カッパーがカップ内の素材的品質のみを公平に評価できるようにサンプルが提供されているそうです。1つのロット(出品)には,4つのカップが準備され,4人一組で,何組かのカッパー達がすべてのカップを評価するようです。
AROMA-DRY
焙煎され粉砕されたサンプルがカップに投入されると,カッパーはその色を確認した後,香りを確認します。SCAが「Fragrance」と呼ぶ香りです。同一のサンプルでも品質に差がある場合があるので,用意された4つのカップそれぞれのカップの香りを確認します。スコアシートにはこの香りの強さを3段階で評価して書きこむ仕様になってますが,この評点はスコアには加えられません。
AROMA-CRUST
次にカップに定められた温度の湯が注がれます。カップに湯が注がれると,Crustと呼ばれるドーム状の湿った粉がカップの表面を覆います。カッパーは,これに触れないようにできるだけ鼻を近づけて,鼻孔から空気を吸い込むことで,香りの強さと特徴を評価します。SCAは,加温されて揮発するこの香りを,次のAROMA-BREAKと併せて「Aroma」と呼んでいます。この強さも3段階で評価されますが,スコアには影響しません。
AROMA-BREAK
さらに 3〜5 分後,カッパーは,カッピングスプーンと呼ばれるやや幅広のスプーンを使い,このCrustを壊し(Break)沈めながら,Crustの下から放出されるガスの香りを確認します。この3段階の評価もスコアには影響しません。
FLAVOR
次に,カッパーは,Crustを壊した後の灰汁を掬い出し,テイスティングを行います。テイスティングは,カッピングスプーンに掬ったコーヒーを空気と共に勢いよく吸いながら口に含んで,味覚と触覚および嗅覚を同時に使ってコーヒーの風味を評価します。
スコアシートには,フレバーの質,強さ,複雑さが8点満点で採点されます。
SWEET
テイスティングによる甘味の評価です。甘味の強さ,特徴,心地よさが8点満点で採点されます。
ACIDITY
CoEでは,酸味については,強度と酸味の質・バランスが別々に評価されます。スコアに加えられるのは後者で,これらが8点満点で採点されます。
MOUTH FEEL
CoEスコアシートにおける口当たりの評価は,ボディとしての濃さが5段階で評価され,舌触りと渋みの質が8点満点で採点されますが,スコアに加えられるのは後者のみです。
ちなみにボディの濃さは,英語表現だとThickness,weight(重さ) やviscosity (粘度) と表現されることがあるようです。
舌触りはTextureで, grittiness (ザラザラ感),smoothness(滑らかさ) とで表現されることもあります。
渋みはAstringencyです。
AFTERTASTE
カッパーはテイスティングでコーヒーを口に含んで,飲み込むか吐き出した後にしばらくそのままで後味がどのように変化するかを注意して評価します。
後味も8点満点で評価されます。
OVERALL
他の全ての項目の評価を踏まえて全体的な印象を8点満点で評価されます。他の7項目で評価できなかった特徴もここに加える場合もあるようです。
DEFECT
欠点は,カビや欠け,未成熟など,生豆あるいは焙煎後の豆を見ただけでわかる場合もありますが,それらをすり抜け,テイスティング時に発見される欠点もあります。カッパーは,テイスティングにおいて消費者が不快に感じる風味がある場合,Defectとしてその程度を評価します。4つのカップのうち最もひどい欠点があるカップの評価を4点満点で評価し,4カップのうちいくつ欠点があるかをそれに掛け,さらにそれに4を掛けてスコアを出します。程度4のDefectが1カップだけあった場合,4×1×4で16の減点となります。CoE品評会で最終評価まで残るには最低でも87点が必要なので,その時点で品評会のレースからは脱落してしまいます。
Note:
各評価項目あるいは全体的印象で特徴的なものがあれば,ノートしてスコアシートに書き込まれます。相場として,Fruityとか,Orangeとか,Jusminとか,印象を表す評価語がポンポン出てくるような豆のスコアは概して高いようです。
じつは,この表現とスコアあるいはオークション価格との関係を定量的に分析したんですが,実際に使われている言葉はほんとにそれぞれで,SCAは感覚科学でそれをなんとかしたいようですが,これまで行われてきた評価では,伝わりにくい表現も多々ありました。
官能評価というのは人が行うわけで,その時のカッパーの体調や心理状態に左右されます。Fernández-Alduenda and Giuliano. (2021, p.28-33) は,カッピング評価の潜在的バイアスおよびエラーとして以下の 10種の要因を上ています。CoEではどうしているのか?審査員の糸井さん(カフェタイム)にその対処法も聞きました。
体調不良や認識力の変化
病気や年齢によるカッパーの一時的または長期的な感覚障害が生じるのは避けられません。カッパー自身が感覚スキルの限界に正直であることが大事だと言われます。
CoEでは,カッピングによる審査の前にはミーティングが行われ,体調の報告だけでなく,自分が認識している審査のクセなども屈託なく申告されそうです。
とはいえ,カッピングを行う審査員は,CoEプロトコルを習得した一定以上の経験を持つ人で構成され,国際審査の場合,初段階で 28 名の審査員が採点するわけです。しかも,そのスコアはほぼ共通するそうです。さらに,他の審査員と大きく異なる採点をする審査員は次回から選ばれないなどのスクリーニングも行われているそうです。
感覚疲労
カッパーは,1日に200〜300のカッピングを行うこともあるとか。さすがにカッパーの味蕾や嗅球が飽和することも。CoEでは,カッピングの合間に適度な休憩をとるなどの対応もしているが,そもそも多段階で審査を行い,出品を絞っていてこの問題へは対処しているようです。国際審査で評価数が最も多いのは初段階の審査ですが,それらは国内審査で絞り込まれた40サンプルだけになっています。
文脈効果
前に行ったカッピングの影響のこと。「苦い」サンプルをテイスティングした後「フルーティー」なサンプルをテイスティングするとフルーティーさが際立ってしまう。逆もしかりという訳です。サンプル数の多い品評会の序盤戦ではカテゴリーごとにグループ化するなどの工夫が考えられます。
CoE国際審査の初段階では,1回のセッションで,4人が1組となって10サンプルをカッピンしますが,7組の各セッションで審査する順番を入れ替えるなどで,文脈効果によるバイアスへの対処が行われているそうです。
クロスモーダル相互作用
環境,音楽,カップのスタイルや色などの他の感覚が及ぼす影響をそう言うようです。コーヒー自体がキャラメルやフルーティーだと「甘さ」の評価が高くなったりするようなこともこれに含むようです。焙煎の度合いや粉砕の大きさ,カップへの投与量,湯の温度,水質などは一定にしておく必要があります。
CoEの審査では,このあたりは厳しく決められているようで,カップの材質,カッピングスプーン等についても規定され,純粋にカップ内だけの違いが評価されるよう努められているそうです。
期待バイアス
産地名,品種名,プロセス方法,焙煎レベルなどを聞いて,それらに評価が左右されてしまうこと。サンプルに関する情報を一切与えないのがベストですね。ローストの色に評価が左右されないように,赤いライトの下でカッピングする人もいるようです。同じサンプルに別々の識別コードを貼って二人のカッパーにカッピングさせる二重盲検という方法もあるようです。
CoEは生産国ごとに開催されるので,審査員はサンプルがどこの国産のコーヒーかは知っている。しかし,サンプルすべてが同じ国なので,評価の差には関係しません。それ以上に細かな産地や農園の名前,品種等はカッピングを行う審査員には一切知らされません。焙煎の色は揃えられますが,焙煎の微妙な偏りが,出品者に不利にならないようにするため,むしろ積極的に焙煎の色は確認するようにされているみたいです。スコアシートにも,焙煎色を記入する欄が設けられています。ただし,これはスコアには加えられない情報です。
ハロー効果(応答相関)
1つの項目の評価が他の項目の評価を左右してしまうこと。個々の評価項目を独立に評価せず,それらを相互に関連させてスコアリングしてしまう。酸味が極端に強かったりすると,その他の項目も低く評価してしまったりする。評価項目間の高い相関として現れます。
これにはカッパーのトレーニングと経験が必要なのですが,CoE審査員はその両方を備えた人が務めています。自分たちの評価が商取引のための情報となるので,審査員は真剣だそうだ。一部の評価属性が高いからといって他の評価も高くするような安易な点数付けはできないと。
ただし,コーヒーの素材属性は,一つの評価項目が高ければよいというものではなく,常にバランスが求められます。例えば突出してAcidityだけが高い場合はBalanceの評価も低くなります。評価項目間の相関が高くなることがあっても,それがハロー効果であるとは一概にはいえないようです。
ダンピング効果
苦味が印象的なカップがあったとしても,「苦味」という評価項目が無いので,「Mouth Feel」とか「Flavor」とか,勝手にあまり関係ない項目のスコアを上げてしまったりすること。カッパーが強い印象を記録するのに適切な属性を見つけられなかった場合,その刺激の認識を別の属性に乗っけてしまう,つまり「ダンピング」する傾向。「苦味」を評価したがるカッパーが多ければ,スコアシートの見直しから考える必要があるでしょうが,当座は,カッパーに「苦味」をどう採点するかを周知しておくのも大事なようです。
CoEスコアシートには,Overall 項目が設けられており,シートに用意された評価項目に当てはまらない特性についてはそこで加点できるようになっています。また,各評価項目について点数のみで評価できない場合は,ノートとして記載することもできます。
過剰分割
評価属性が多すぎるのもよくないです。評価の解像度が低下します。極端な話,フレーバーホイールの110の各記述子に該当するかしないかを聞くのは無理でしょう。フレーバーホイールは,最初,floralとかfruityとかsweetとか,おおまかな印象の該当を探し,そこから徐々に細かい違いを識別するようにできています。
CoEスコアシートの詳細さについてはそれほど議論にはなっていないようです。CoEとSCAのスコアシートを比べた場合,CoE のシートには,SCA のシートにある Uniformity に関する評価項目がありません。しかし,均一に低品質でもいいのかという疑問も出ています。また,SCAのシートでは,Uniformity, Clean Cup, SweetnessについてはCTAT(合格ならばチェックするのみ)で評価します。これに対して,CoEシートはCleanCupとSweetnessを8点満点で評価します。この是非については議論されています。
サンプルの提示順序によるバイアス
不味いサンプルの次のサンプルの評価は高くなったり,逆に次のサンプルにまでその不味さが持ち越されてスコアが低くななったりする傾向。提示順序をばらつかせたりカッピングを複数回やったりする必要があります。
CoEでは,1セッションで同時に10サンプルを評価します。評価が極端に高いサンプルの直後に評価されるサンプルの評価が難しいことは審査員も認めています。CoE品評会では,こうしたバイアスを緩和するために,例えば第一次国際審査では 28 名の審査員が 4 人 1 組で7組に分かれてランダムな順番でカッピングを行っていそうです。
評点に関連する誤差
極端な評点をつけるカッパーと控えめな評点をつけるカッパーがいるわけですよ。なので時々,カッパー間でどんなスコアをつけているかを共有して調整した方がよいわけdす。。
CoE スコアシートの 8 点評価において,極端に高低をつける審査員とほとんど差をつけない審査員がいることは確かなようです。ただし,多数の審査員のスコアが平均されるためそうした配点の誤差はある程度緩和されます。また,CoEとして認められるためには各項目平均で6点よりも高い評価が必要であるため,配点のずれはある程度制約されます。
社会的バイアス
評価が他人の意見に左右されてしまうことです。特に,自分より確かだと思う人と一緒にカッピングをやると,その人がどんな評点をつけたかに引きずられてしまう可能性があります。権威バイアスとか,大佐効果と呼ばれたりもします。通常の官能テストでは検査ブースを使ったりします。同時にやる場合も,各カッパーは,ポーカーフェイスでお互い話したりしないように気をつけないといけません。
CoEのカッピング審査は4人1組で行われますが,各審査員は独立して審査します。お互いの評価が影響しないように,審査員間の会話は禁止されています。
SCAは,2004年から使っているカッピングフォームの見直しを進めています。「カッピング」という名称も,Coffee Value Assessment (コーヒー価値評価,CVA)という名称にするようです。これまでSCAは「Coffee Sensory and Cupping Handbook」(有料配布) で感覚科学の成果に基づく品質評価の考え方を表明したり,WCRのSensory Lexicon(辞典)や新たなフレバーホイールを出したりしていたのですが,従来のカッピングフォームはそれに追いついていなかった感があり,やっとそれらと整合的な評価フォームが整ってきたというところでしょうか。CVAの呼称も含め,カッピングフォームの見直しの方向も,感覚科学で体系化しようという意図が見えます。カッパーになりたい人も,誰かの弟子で修業を積むというのではなく,理屈を学んで,それに従って評価方法を習得するという感じになるのでしょうか。
2024年6月,Introducing the Next Phase of the Coffee Value Assessment(コーヒーの価値評価の次の段階を紹介します)というWebページで,新しいCVAプロトコルのベータ版としてA System to Assess Coffee Value というドキュメントを出しました。
2024年11月,以下の3つの公式CVA規格を正式に発表しました。
SCA 規格 102-2024 CVA: サンプルの準備とテイスティングの仕組み サンプルの準備とコンディションづくりのガイドライン
SCA 規格 103-2024 CVA: 記述的 (descriptive) 評価 コーヒーから感じられる風味や口当たりなどの特性の種類と強さを記述するためのフォーム
SCA 規格 104-2024 CVA: 情緒的 (Affective) 評価 コーヒーの風味や口当たりの良さを評価してスコアリング(点数付け)するためのフォーム
2004年版の評価項目から,Body, Balance, Uniformity Clean cup が消えました。代わって,Mouthfeelが加わりました。 特に103-2024の記述的評価はWCR Lexiconにほぼ完全対応という感じです。
「SCA 規格 103-2024 CVA: 記述的 (descriptive) 評価」の評価シート。WCR Lexiconの項目そのもの。
SCAは,コーヒーの品質を素材そのものの属性と産地名とか品種名といった象徴的属性に分けていますが,従来のカッピングは素材属性のみを対象としていてました。上記のCVAもそうです。しかし,コーヒーの価値は象徴的な属性にも左右されるので,それらを記述するフォームのベータ版も2024年6月に出されました。(Evolving the Extrinsic Assessment 文献,調査結果,ベータ版プロトコル)
まだ,ユーザーからの意見を踏まえ改訂を行っていくようなのですが,最終的に,Coffee Sensory and Cupping Handbook の第二版としてまとめられていく予定のようです。