コーヒー需要は現在第三波(Third Wave)にあると言われます。シングルオリジンの豆の個性を楽しむ指向です。それでは第一波,第二波は?調べてみてもこれが正解というような確固とした定義はないようです。仕方がないので,とりあえず,第一波をコーヒーの普及,第二波をカフェラテ等のコーヒーの楽しみ方の多様化,第三波をコーヒーの個性への傾倒とみなして,外食,中食,内食に分けてみていきましょう。
最初は,外食から。コーヒーの外食需要は喫茶店を第一波,スタバ等のコーヒーチェーンの拡大が第二波,ブルーボトルコーヒー等のロースタリーカフェの人気が第三波とみなしてみました。それは,街の居場所,お店の雰囲気とおしゃれな飲み物からコーヒーそのものへの関心の移り変わりとみなしてよさそうです。
コーヒー需要の第一波はコーヒー文化が最初に大衆化した時ということでしょう。だとすると,日本の場合の第一波は,外食需要で言うと,喫茶店文化の拡大・定着ということになるでしょう。日本では,大正のころからコーヒーを出すお店はありましたが,当時はカフェーといわれる女給さんが奉仕するやや風俗的色合いのあるお店が人気だったようです。昭和に入ると,いわゆる純喫茶が増え,一般庶民にもコーヒーが普及していったようです。戦時中にはコーヒーが輸入できず喫茶店数は激減したわけですが,戦後1950年にコーヒーの輸入が再開すると再び増加しました。
特に,昭和40~50年代の増加は著しく,その多くが個人経営の喫茶店だったようです。店構えだけでなくコーヒーそのものに店主の趣向やこだわりが色濃く,またそうした店が人気でした。ハンドドリップで丁寧に淹れられるコーヒーは職人的で,自家焙煎の店も多くありました。深煎りのブレンドの豆を店主独特の技で淹れるコーヒーは,浅煎り薄々コーヒーの大量消費を特徴とする米国の第一波とは対極でした。しかし,タバコ,スポーツ新聞,おしゃべり,商談,等々,,,喫茶店は街の居場所として日本中に普及し,そこにいつもコーヒーがありました。
しかし,1980年代に入ると喫茶店の数は減少に転じます。コーヒー専門店のチェーン店化も進み,ドトールのようなセルフ型カフェが定着してきます。そして,1990年代に入って,バブルがはじけると,日本の企業戦士たちの喫茶店需要も減少します。
▼出典
大井佐和乃. (2017). 近年における昭和創業喫茶店の受容. 生活環境学研究, 5, 46-49.
1996年,スターバックスコーヒーが上陸します。米国で第二波を引き起こしたスターバックスの革新性は,薄々のアメリカンコーヒー消費者に上質なコーヒーの味を浸透させたことと,職場か家以外に居場所がなかった米国人に第三の場所を提供したことが指摘されます。しかし,それらは日本人にとってはそれほど珍しいものではなかったはずです。むしろ日本へのインパクトはエスプレッソ系飲料の普及とカフェ文化の浸透だったように思いますが,どうでしょうか?
スタバと言えば,エスプレッソをベースとしたラテや,フラペチーノと呼ばれる飲料なのではないでしょうか。1999年キャラメルマキアート販売開始。2002年抹茶 クリーム フラペチーノ,2008年コーヒー ジェリー フラペチーノ,2009年クレーム ブリュレ マキアート、クレーム ブリュレ フラペチーノ,キャラメル エクレール ラテ,ほうじ茶 ティー ラテ,2010年さくら スチーマー,さくら クリーム フラペチーノ,,,(スターバックス 会社案内)と,ここまで来ると,もうコーヒーなんてどうでもよいような感じもしなくもないです。それでも,それまでマイナーだったエスプレッソコーヒーとそれをベースとしたメニューを提供することで,コーヒーの楽しみ方の幅を大きく広げたのではないでしょうか。
また,スタバやその他のコーヒーチェーンの拡大とともに,いわゆるカフェ文化が浸透していきました。それまでの喫茶店といえば,深煎りコーヒーのような色調の喫茶店の狭いテーブルの固い椅子に腰かけて,職人的な雰囲気のするマスターの淹れるコーヒーをすするという感じでした。カフェは,花や緑でいろどられたお店のテラスやふかふかのソファーに腰かけて,インスタ映えのする飲み物を楽しむといった消費文化です。それまでの喫茶店がコーヒーを注文することと引きかえに街中に自分の「居場所」を確保するという意味合いが強かったのに対して,カフェは店自体の雰囲気(ambience)を消費しているという人もいます。カフェ文化は「カフェめし」なるものも生み出し,フラワーカフェ,ブックカフェ,猫カフェ,古民家カフェ,,,と次々に多様化しました。従来の喫茶店も昭和の雰囲気を楽しむカフェ的な利用者に飲み込まれていきそうな感じです。スターバックスも,ご当地スタバなんてものを展開していきます。農村ですら何か企画考えようというと,すぐに「カフェやりましょう!」といった声があがる,そんな時代になりました。
2015年,コーヒーチェーンのブルーボトルコーヒーが上陸します。ブルーボトルコーヒーは,自家焙煎した豆を熟練のバリスタが一杯ずつドリップしてお客さんに提供します。そう言われても,自家焙煎の喫茶店を知っている日本人にはあまりピンときませんが,実際,創業者のジェームス・フリーマン氏は,日本の喫茶店に学んでいたという記事もあります(Business Insider)。東京にある「茶亭 羽當」というお店に通ったとか。2000年代初頭にサンフランシスコで創業し,米国の主要都市を制覇する前に東京に出店しています。
ただし,日本の喫茶店をそのまま真似たのではなく,流行のミニマリズムとかUnfinished (未完成と訳したらよいのか?)を取り入れたシンプルで明るい店舗で,世界中から直接買い付けた豆を,産地と品種の個性を活かした焙煎を行い,しかも,最もおいしく味わえる期間(ピークフレバー期間と言うらしい…焙煎後4~7日間とか)に提供するというこだわりが売りになっています。焙煎具合も日本の喫茶店がコクと甘みを引き出す深煎りを基本とするのに対し,酸味とフルーティーさを引き出す浅煎りが取り入れられ,日本でも浅煎りコーヒーのブームの火付け役となりました。
第二波を率いたスターバックスも,当初は米国の人に上質なコーヒーの味を知らしめることに長い時間をかけて成功しました。ただし,爆発的な店舗数拡大に「スターバックス味のコーヒー」を提供するには,不安定な豆の生産・供給を混ぜこぜにして均すブレンドの技術が不可欠でした。私個人の印象でも,米国でスタバが普及した2004年ごろ,ほとんどのお客さんがブレンドを注文していたように思います。
これに対して,ブルーボトルコーヒーは,「ブルーボトル味のコーヒー」を出す必要がありません。お客は,提供されているメニューからその日の気分にあった産地と品種,焙煎具合の豆を選んで注文します。いわゆるシングルオリジンコーヒーです。米国で1980年代に始まったスペシャルティコーヒー運動は,2000年代に展開したCup of Excellent プロジェクトを経て,産地や品種の個性や品質の高さを売り出すようになっていたわけですが,ここに至って,消費者の目がそこに向けられるようになったということでしょう。言い換えれば,コーヒーの需要は,「居場所」でもなく「雰囲気」でもなく,コーヒーそのものが消費の対象になったと言えます。
そうなると店舗を立派な調度品やきれいなお花や緑で飾ることもなく,猫やフクロウや小動物を侍らせる必要もなく,古民家を改装する必要もないわけです。お客さんはおいしいコーヒーが飲めればいいわけです。昔のタバコ屋さんの跡や,コインパーキングの片隅や,街のそこら中に簡素なスタンド型のコーヒー店ができて,若者が立ち飲みしだしました。一方で,お店の個性を出す必然として,店内に焙煎機を設置し,ブレンドではなくシングルオリジンの自家焙煎を出すお店も増えました。ロースタリーカフェと言うようです。あのスタバでさえ,ロースタリーのお店を出店します。第三波です。