C. アラビカにはどんな気候が最適か?栽培学には疎いので細かいところまではよくわかりませんが,文献を眺めてみると,結局C. アラビカの原産地であるエチオピア南東部の気候が最適とされているように読めます。しかしながら,沖縄の気候というのはそれとはだいぶ異なります。だとしたら沖縄にアラビカ種は難しいのかと言えば,品種改良や適応によって,コーヒーは意外といろいろなところでうまくできているようです。一定の限界や経済性の問題もあるようですが,圃場の微気候(Micro crimate)を考慮した品種選択や栽培を考えるのがよさそうです。あきらめるのはまだ早い,ということでしょう。
沖縄(名護市)の気候をエチオピア南東部(イルガチェフとかがあるところ)と比較してみました。最高気温は高すぎず,最低気温は低すぎず,1日の寒暖差が大きいほどおいしいコーヒーができるそうですが,エチオピアの最高気温は30℃を超えず,最低気温も15℃ぐらいで安定し,1日の気温差が10℃ほどとえげつないです。これに対して,沖縄は夏場に最高気温がややエチオピアを超えますが,温度帯の幅としてはまずまずではないでしょうか。(京都なんて夏場30度を平気で超えますから,夏は沖縄の方が涼しい?)しかし,一日の気温差というのはあまりなく,これが最大の違いです。
雨天日としては,エチオピアは12~2月に雨がほとんど降らず,いい感じの乾期なのに対して,沖縄はその時期に対応する5~7月というのは梅雨真っ只中です。降水量としては冬場の降雨<量>が少ないので,「ゆるい乾期」があるそうなのですが,そのあたりどうなんでしょうね。
エチオピア南東部と沖縄の気候の比較: 「日中」が1日の最高気温,「夜間」が最低気温のそれぞれ平均値,「雨天」が1か月に降雨のあった日数を示します。季節が逆なので,沖縄の1月にはエチオピアのAugust(8月)を対応させています。データ:worldweatheronline.com
同じ島でプレミアムコーヒーのブランドを確立しているハワイ・コナ地区のある周辺の気候とも比較してみましょう。本当はコナ・コーヒーベルトの気候が知りたいですが,そんな細かいデータはなかったので,カイルア・コナのデータです。
1日の気温差は沖縄とたいして変わりませんが,さずがに常夏の島だけあって,年間の気温は安定していますね。しかし,このデータはたぶん平地のものです。コナ・コーヒーベルトは,800~1000mぐらいの標高があるそうなので,もっと気温差はあるはずです。
降雨日数については,基本的にあんまり雨降らないんですね。特に6~8月は降らない日が多く,エチオピアの乾期に対応しています。
ハワイ・コナと沖縄の気候の比較: ハワイ・コナはカイルア・コナ(たぶん平地)のデータ。その他の説明は,前図と同じです。データ:worldweatheronline.com
沖縄に距離的に近く,近年コーヒー生産の評価を高めてきた台湾・阿里山の気候も見てみました。さすが高地だけあって,1日の寒暖差はエチオピアに迫るものがあります。ただし,やや夏場の最高気温が高く,1月の気温が低いです。降雨日数は冬場に少なく夏に多いと,エチオピアと逆転していますが,乾期的な時期が3か月程度しっかりあるのも特徴です。このあたりはどうなんでしょうか。
エチオピア南東部と台湾・阿里山との気候の比較:
データ:worldweatheronline.com
DaMatta & Cochico Ramalho ( 2006)にコーヒーにとっての気候条件について細かいレビューがあります。以下,C. アラビカについて記述を抜き出してみました。
アラビカ種コーヒーの年間平均気温の最適範囲は 18 〜 21 ℃(Alègre, 1959)。
発芽は17 ℃ で 3 か⽉,30〜32 ℃で約 3 週間 (Moraes, 1963; IBC, 1985)。35 ℃ 以上で発芽が抑制 (Barros et al., 1999).
発芽から数週間は約 30/23℃ (昼/夜) ,第一枝~1年後 26/20℃ (昼/夜) (Moraes, 1963; IARC, 1991)
根の発育:⼟壌温度24〜27℃が最良 (IBC, 1985)。
成長: 30℃超で成⻑が抑制,葉の⻩変や茎の根元の腫瘍の成⻑などの異常が発生する可能性 (Franco, 1958)。18°C 未満では成長が抑制 ( Camargo 1985 )。
花芽形成:最⾼30 ℃
開花期に気温が高く乾季が続くと、開花しない可能性(Camargo, 1985)。
花芽と果実の成⻑:17 〜 23℃ (Carvajal, 1984; Camargo, 1985; Barros et al., 1999)。23℃超で果実の発育と成熟が加速し、しばしば品質の低下 (Camargo, 1985)。
果実の成長:毎日の気温の振幅が大きいほど、果実の成長が遅く、果実の成熟が均一に、豆が大きく密度が高く、豆の香りと風味の重要な前駆物質が増加 (Avelino et al. 2005 ; Bertrand et al. 2006 , 2012b )。:標高が高い所が有利ということ。
最適な雨量は,土壌の保持特性,大気中の湿度,雲量,栽培方法で異なる
最適な年間降⽔量の範囲: 1200 〜 1800 mm(Alègre、1959 年)。
開花には 2 〜 4 か⽉の短い乾期が重要 (Haarer, 1958; Maestri and Barros, 1977)。
エチオピアの⾼地に匹敵するほど低湿度環境が必要 (Haarer, 1958; Coste, 1992)。
ウインド・シア(風と風がぶつかるようなところで生じる急激な風速・風向きの変動)や移流(空気の移動,冷たい空気が流れ込むとかいうやつ?)があるところでは収量低下 (Caramori et al., 1986)
⾵ストレスは、葉や芽に損傷、発育中の花や果実の脱落、葉の⾯積や枝の節間⻑の減少 (Camargo, 1985; Matiello et al., 2002)
適度に日陰になっているアラビカ種のコーヒーの木は、完全な太陽の下でのコーヒーの葉よりも 3 倍高い光合成率 ( Nutman 1937)。
品種により日向でもよく育ち、気候と⼟壌が適切ならば⽇陰よりも⽣産性が高い場合もある (DaMatta, 2004a)。
日陰栽培は、特に中高緯度でコーヒーの品質に同様のプラスの効果だが、収量も減少 (Decazy et al. 2003 ; Guyot et al. 1996 ; Muschler 2001 ; Vaast et al. 2006 )。
シェードツリーの効能:風速の低下,高温の緩和,夜の低温・霜の予防,(乾燥地での)湿度,雑草の減少,樹冠での放射線入力の低下
▼引用文献(英語でないのもありますが...)
Alègre C (1959) Climates et caféiers d´Arabie. Agron. Trop. 14:23-58.
Camargo AP (1985) O clima e a cafeicultura no Brasil. Inf. Agropec. 11:13-26.
Caramori PH, Ometto JC, Nova NA, Costa JD (1986) Efeitos do vento sobre mudas de cafeeiro Mundo Novo e Catuaí Vermelho. Pesq. Agropec. Bras. 21:1113-1118.
Carvajal JF (1984) Cafeto - Cultivo y Fertilización. Instituto Internacional de la Potassa, Berna.
Coste R (1992) Coffee - The Plant and the Product. MacMillan Press, London.
DaMatta, F.M., and J.D. Cochico Ramalho. 2006. Impacts of drought and temperature stress on coffee physiology and production: A review. Brazilian Journal of Plant Physiology 18(1):55–81.
Franco CM (1958) Influence of temperature on growth of coffee plant. IBEC Research Institute, New York. Bulletin No. 16.
Haarer AE (1958) Modern Coffee Production. Leonard Hill, London.
IARC (1991) Coffee, Tea, Mate, Methylxanthines and Methylglyoxal. Vol 51, Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans. International Agency for Research on Cancer - World Health Organization, Lyon.
IBC (1985) Cultura do Café no Brasil - Manual de Recomendações. Instituto Brasileiro do Café - G.E.R.C.A., Rio de Janeiro.
Lin, B.B., I. Perfecto, and J. Vandermeer. 2008. Synergies between agricultural intensification and climate change could created surprising vulnerabilities for crops. BioScience 58(9):847–854.
Maestri M, Barros RS (1977) Coffee. In: Alvim PT, Kozlowski TT (eds), Ecophysiology of Tropical Crops, pp.249-278. Academic Press, London.
Moraes FR (1963) Meio ambiente e práticas culturais. In: Cultura e Adubação do Cafeeiro, pp. 77-126. Instituto Brasileiro da Potassa, São Paulo.
Matiello JB, Santinato R, Garcia AWR, Almeida SR, Fernandes DR (2002) Cultura de Café no Brasil: Novo Manual de Recomendações. MAPA/PROCAFÉ, Rio de Janeiro.