コーヒー豆の価格は乱高下を繰り返しています。この30年,世界のコーヒー市場は,2度の価格高騰と価格低下を経験しました。ブラジルの霜害,中南米のハリケーンなど,コーヒーは気象の影響を強く受ける作物です。ただし,1995年価格高騰にはブラジルの霜害だけでなく、第一次コーヒー危機で生産意欲を無くした産地国の生産減退があったと思われます。しかし,基本的にはコーヒーの生産・輸出は増加傾向にあり,そうした被害が落ち着くと,深刻な価格の下落が生じるようです。2001年を底とした第二次コーヒー危機はブラジルとベトナムの増産がありました。2011年の価格高騰は、中南米のハリケーンの影響もあったのですが,世界的な需要の伸びに供給が追い付かなかったことも原因です。ベトナムが再び輸出量を増やすと価格は落ち着きました。そして,最近ブラジルでまた霜害が…。とんでもない価格高騰へ。
コーヒー豆の価格変動
生豆、年平均ポンド当たり価格(USセント)、1990-2019年
ICOは、アメリカ、ドイツ、フランスの3大市場で、コーヒーの取引価格情報を収集し、4種類のコーヒーについて指標価格を公表しています。上のグラフは、その値動きを示しています。
まず、1992年を底としてコーヒー価格は低迷しています。この時期は第一次コーヒー危機と呼ばれています。
ところが、1994年、ブラジルで霜害が起きると、価格は一気に高騰します。それがコーヒー産地国の生産意欲を刺激します。特に生産を拡大させたのがベトナム。当然、ブラジルの生産量も回復。さらにブラジルでは日向栽培も認められるようになり,新産地も誕生。当然価格は低下します。2000年ごろから再び価格は低迷へ。この時期は第二次コーヒー危機と呼ばれます。その差は激しく、最も価格変化が小さいロブスタ種でさえ、1995年の125.68USセント/ポンドから27.54USセント/ポンドへ一気に下落しました。約8割の下落です。
2007年ごろようやく価格は回復し、それ以降やや価格変化は落ち着いていますが、その他のアラビカ種については2011年に再びとんでもなく高騰するなど、コーヒー豆価格の乱高下はちっとも収まっていないようです。
価格は、需要と供給のバランスで決まります。価格の変動を理解するには、需要の供給の動きを考える必要があります。逆に、供給と価格の動きから需要の動きを推測することも可能です。需要が安定的だと、供給が少なければ価格は上がるし、供給が多ければ下がります。しかし、需要が拡大しているときは、供給が増えているのに価格が下がらないことがあります。言い換えれば、供給が増えているときに価格が下がっていないなら需要は増えています。したがって、供給量と価格の相関図を描くと、需要が停滞しているのか伸びているのかをある程度確認できます。(詳しくは需給動向の9パターンを読んでください)。
コーヒー豆の輸出量と価格の相関
これに対してコーヒーの生産国らは何もしていないのかというと、何もしていません。いやいや、昔はしていました。1962年にICO加盟国間で国際コーヒー協定(ICA)という取り決めをしました。コーヒー生産国に輸出割り当てをして国際市場への供給量を制限し、極端な価格低下を抑制しようとするものです。最初の協定は1963年から5年間で、途中、価格高騰時の凍結を挟みなら、1983年の第四次協定まで更新されました。しかし、こうした人為的割り当てというのは当事国には不満たらたらという場合がほとんどです。1980年代後半,輸出が制限されていた輸出国は相当の在庫を抱えていました。輸入国も徐々にコーヒーの味の違いに目が行くようになり,もっと好きなところからの輸入を望んでいました。冷戦の終結で,途上国の共産化の脅威も薄れつつありました(Wikipedia)。第四次協定が2年間延長された後、米国はICOを脱退、ICAも終了してしまいました。(それ以降もICAは締結されますが、それは輸出割当という経済条項を含まないものです。)
ということで、1990年ごろにはコーヒー輸出国が在庫を放出し、輸出量は増え市場価格は下がりました。ICOの統合価格は平常時1USD/lbぐらいですが、これが50セント/lbぐらいまで下がります。第一次コーヒー危機です。
ところが,1994年にブラジルの霜害で輸出量が減ると価格は高騰しました。それを機にベトナムが増産します。ブラジルの生産量も回復し,さらに日向・密植栽培が可能となったことでブラジルの増産も始まりました。価格は下がりはじめ,2001年を底とする第二次コーヒー危機が生じます。価格の低下は2004年まで続きました。
途上国の零細農家が多いコーヒー生産者にとっては苦しい状況となり,その悲惨な状況が伝えられました。零細農園は放棄され,季節労働者は極端な低賃金に陥るか解雇されました。フェアトレードなどといった運動も起こり,その惨状をどうにかしようという声も上がりました。
困った人を助ける,高く買ってあげる... 気持ちとしては分かりますが,それだけでは解決しません。問題は,需要が停滞しているところに,増産し輸出を増やしたブラジルとベトナムにあり,価格競争で世界的なシェア拡大を狙って輸出割当に抵抗したこれまたブラジル,冷戦が終結して,途上国の貧困が共産化につながる心配が薄れたからとコーヒー価格の下支えをあきらめたアメリカにもあるように思います。
しかし,ブラジルやベトナムがコーヒー産業を振興したいという意向を否定するわけにもいきません。アメリカが自国の消費者を犠牲にして世界中のコーヒー生産者を支え続ける義務があるとも思えません。増産・輸出拡大と同時に需要が増えなかったことにもっと注目すべきです。同時に需要も増えていたらここまでの価格低下は生じなかったはずです。世界のコーヒー消費は2006年以降拡大に転じます。現在は当時の2倍近い輸出量が市場に出回っています。なのに価格はそれなりです。
長い間停滞していたコーヒー需要は2006年ごろから拡大し始めます。総輸出量は増えても、それ以上に需要が伸びたため、価格は上昇を続けます。そして、2021年には未曽有の価格高騰となりました。当時の新聞記事などを読むと、生産国の天候不順と中国などの新興国の需要拡大を要因として指摘していますが、アメリカなどのコーヒー消費大国で第二派需要も大きかったと思われます。特にアラビカ種の価格高騰がきつかったですが、この期間、アラビカの輸出量は増加し続けていて、むしろベトナムの生産拡大の頭打ちで、ロブスタ種の輸出量が停滞していました。
その後市場は沈静化し、需要拡大と輸出量拡大がバランスをとる形で価格は推移しています。ただし、2021年にはブラジルで水不足と霜害が起きたようです。コロナからの経済の回復予想もあり,とんでもない価格高騰が起きているようです。
最近の価格変動
2021年3月-2022年4月,データ:ICO