2.8.1 データジャーナルとは
公的資金により行われた研究によって生じた研究データの利活用を求める政府機関の考えや、OA義務化の潮流を受け、2010年頃から相次いでデータジャーナルが創刊されました。データジャーナル(Data Journal)とは、データ論文(Data Article、Data Paper、Data Descriptor、Data Report)を掲載するジャーナルを指します。データ論文とは、データそのものについて解説する論文です。一般的に、データセットはリポジトリに保存され、データ論文はその保存先を含め、データの収集方法等の詳細を記します。データの分析・解釈やデータから得られた知見は、記載の対象となりません。
それ以前にも、研究データ等を解説付きで発表するデータパブリッシングはありましたが 1)、データジャーナルは査読を行っており、多くの場合は論文のOA出版の枠組みを活用したフルOA誌であることが特徴です。データジャーナルの査読では、対象データ、その来歴や利用方法に対する記述の正確さと豊富さ、さらに長期保存を前提としたデータの再利用の可能性が重視されます。データリポジトリにも多くのデータが登録されていますが、それらの質にはばらつきがあります。一方、データジャーナルに掲載されるデータ論文は査読を経ており、統一された形式やデータに関する正確な記述が保証されています。その結果、データジャーナルには、データ内容の継承や機械による判読、データの種類を問わない検索等を可能にする、一定の均一性が確保されています。
また、データジャーナルの大部分はフルOA誌であり、著者の支払うAPCによってそのOA出版モデルを成立させています 2)。フルOA誌であることで誰もがアクセスできる反面、APCの支払いが困難な研究者の疎外につながる可能性も一部では懸念されています。
2.8.2 データジャーナルへの期待
2014年の日本学術会議情報学委員会国際サイエンスデータ分科会の報告 3)では「データ継続的に収集・蓄積するための有効な手段」として、データジャーナル整備の検討を提言しています。日本ではデータを収集・蓄積する方法として、データベースの構築が行われてきましたが、その維持や、収録分野の範囲、二次利用のしやすさ等に課題がありました。データジャーナルにおける、データリポジトリへのデータセット寄託、データ論文でのデータの説明が、これらの課題解決につながることへの期待が示されています。
また、従来の論文では、論文著者とデータ作成者が異なる場合、論文のみが引用対象となり、データ作成者が十分に評価されないという問題がありました。しかし、データジャーナルに掲載されたデータ論文の場合、データ作成者が著者となるため、功績が相応に認められることも期待されています。
2.8.3 データジャーナルの種類と例
表3は、データジャーナルとして紹介されているタイトルの例です 4), 5)。データ論文のみで構成されているpure data journalと、データ論文を含むさまざまな種類の論文で構成されるmixed data journalとに区別される場合もあります。
<表3:データジャーナルの例>
注・引用文献
1 )データジャーナル創刊が相次いだ2010年より前の, データパブリッシングの例.
American Chemical Society. The Journal of Chemical & Engineering Data. (1956年創刊).
https://pubs.acs.org/journal/jceaax
National Institute of Polar Research. JARE Data Reports. (1968年創刊).
https://nipr.repo.nii.ac.jp/search?search_type=2&q=1174
AIP Publishing. The Journal of Physical and Chemical Reference Data. (1972年創刊).
National Institute of Polar Research. NIPR Arctic Data Reports. (1996年創刊).
https://nipr.repo.nii.ac.jp/search?search_type=2&q=784
2 )Chemical Data Collections, Journal of Chemical and Engineering Dataの2誌などのハイブリッドOA誌もあり, 著者がOAを選択しなければ, APC支払いが発生しない場合もある.
3 )日本学術会議情報学委員会国際サイエンスデータ分科会. オープンデータに関する権利と義務―本格的なデータジャーナルに向けて―. p. v.
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140930-3.pdf (2025-02-10 最終確認)
4 )Walters, W.H. (2020). Data journals: incentivizing data access and documentation within the scholarly communication system., Insights: the UKSG journal, 33 (1), 18.
https://doi.org/10.1629/uksg.510
5 )Kindling, M., & Strecker, D. (2022). List of data journals (1.0) [Data set].
参考文献
Hrynaszkiewicz, I. & Shintani, Y. (2014). Scientific Data: An open access and open data publication to facilitate reproducible research. J. Inf. Process. Manag., 57, 629-640. https://doi.org/10.1241/johokanri.57.629
Kratz, J. & Strasser, C. (2014). Data publication consensus and controversies [version 3; peer review: 3 approved].F1000Research, 3, 94. https://doi.org/10.12688/f1000research.3979.3
林和弘・村山泰啓. (2015). オープンサイエンスをめぐる新しい潮流 (その3) 研究データ出版の動向と論文の根拠データの公開促進に向けて. 科学技術動向研究、148, 4-9. http://hdl.handle.net/11035/2999
南山泰之. (2015). 動向レビュー:データジャーナル:研究データ管理の新たな試み. カレントアウェアネス, 325.