1.4.1 概要
OA運動は、上述のように研究者たちの活動、大学図書館の取り組み、国や研究機関によるOA推進の方針、そして研究助成機関によるOA義務化を通して、強く進められてきました。表1は、主だった動きを時系列に並べたものです。
表1 オープンアクセスをめぐる主要な動き
OA運動の高まりにともない、その実現のために大学図書館や出版社は、新しい取り組みを行ってきました。
1.4.2 グリーンOAをめぐる実践的な動き
1991年には、ロスアラモス国立研究所のギンスパーグ(Ginsparg, P)により、プレプリントサーバLANL preprint archive(現在のarXiv)が開設されます。LANL preprint archiveは、研究者が雑誌で刊行予定の原稿であるプレプリントをサーバに登録することで、他の研究者たちが自由にその論文を利用可能にするもので、OAの一つのルーツとなったと考えられています。
2001年には、Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting(OAI-PMH)が発表されました。OAI-PMHとは、データの自動収集によってメタデータを交換するためのプロトコルです。この仕組みによって、各機関のリポジトリに登録されたOA論文のメタデータが収集され、文献データベース等の検索対象となることで、OA論文の検索性向上につながりました。
2002年頃からは、SPARCによる設置の後押しもあり、世界的に機関リポジトリが普及していきます。日本では、2002年の科学技術・学術審議会「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」を受けて、2005年に千葉大学が日本で最初の機関リポジトリの運用を開始しました。国立情報学研究所(NII: National Institute of Informatics)は、2005年度から2012年度にかけて、国内の大学等の機関リポジトリの構築と連携を支援するための委託事業を展開し、これが国内での機関リポジトリの普及につながっています。NIIは、2012年度から、共用リポジトリサービスJAIRO Cloudの運用を開始し、2016年7月からはJPCOARと共同で運営しています。。
2022年には、JSTによりプレプリントサーバJxivが始動しました。2024年からは、査読コメント等を反映している論文や公開・出版済み論文も収録対象に追加され、機関リポジトリを持たない機関に所属する研究者にとってのセルフアーカイブ先の選択肢となっています。
1.4.3 ゴールドOAをめぐる実践的な動き
1998 年に世界初の商業OA出版社、BioMed Centralが創設されます。2000年には、同社初のOA誌を刊行し、2002年からはAPC支払いモデルを採用します。
2000年には、PubMed Central計画を提案した研究者バーマス(Varmus, H. E.)が中心となり、研究成果への自由なアクセスを目指して、PLoS(Public Library of Science、現在はPLOS) を設立しました。PLoS は商業出版社に対し、出版から6か月以内にPubMed Centralなどの公開アーカイブへ論文を提供することを求め、これに応じない場合は投稿、購読などについてボイコットを行うという声明を出しました。しかし、これに応じる出版社はなく、ボイコットも行われませんでした。PLoSは2003年に、APC支払いモデルに基づくOA誌の刊行へと方向を変換し、PLoS Biologyを創刊します。2006年には、世界初のOAメガジャーナルPLOS ONEを創刊します。
当初はOA誌に懐疑的であった大手商業出版社も、次第にOA誌出版に参入するようになり、2004年にはSpringer社(現在はSpringer Nature)が、現在のハイブリッドOAに相当するOpen Choiceを導入します。さらに、Springer社は2008年にはBioMed Central社を買収しました。他の大手商業出版社も、同様にハイブリッドOAの導入、既存のOA出版社の買収、自社でのOA誌刊行を進めるようになりました。
2006年に、高エネルギー物理学(HEP: High Energy Physics)分野の主要な購読誌をOA誌へ転換する国際連携プロジェクト、SCOAP3(The Sponsoring Consortium for Open Access Publishing in Particle Physics)が開始され、出版社等との協議や交渉を経て、2014年からOA化が始まりました。スイスのCERN(欧州原子核研究機構)が中心となり、世界の大学図書館等が従来の購読料に代えて、OA化に必要な費用を拠出金として支払うことで、このモデルは成立しています。
近年では、転換契約やSubscribe to Openなど、新しい契約モデルが登場し、ゴールドOAの実現につながっています。(参照【解説編】2.2 転換契約、および【解説編】2.4 Subscribe to Open(S20))