2.5.1 ダイヤモンドOAとは
近年、ダイヤモンドOAを支持する動きが高まっています。ダイヤモンドOAとは、著者へも読者へもAPC等の費用負担を求めないOA出版モデルです。
代表的な例としては、2003年にメキシコ州立自治大学が設立した、ラテンアメリカ諸国を中心とするダイヤモンドOA誌の共同出版プラットフォームRedALyCが挙げられます。また、2013年にロンドン大学バークベック校を拠点として発足したダイヤモンドOAの非営利出版社、Open Library Humanities (OLH)は、世界中の図書館からの出資金を財源として、人文学・社会科学分野のダイヤモンドOA誌を出版しています。
2.5.2ダイヤモンドOAへの支持
2021年にUNESCOは、“UNESCO Recommendation on Open Science”を公表し、その中でAPCを課さない出版モデルを支持しています 1)。2022年3月には、BOAI(Budapest Open Access Initiative)がBOAI20を公表し、その中でAPC支払い型の出版モデルから、APCに依存しないグリーンOAまたはダイヤモンドOAへシフトすることを新たに推奨しています 2)。
ダイヤモンドOAが支持される背景には、著者のAPC支払いに基づくゴールドOAの課題があります。APC支払いを前提とすると、低所得国の研究者、研究資金の少ない分野・機関に所属する研究者、若手研究者などAPCを支払う余裕のない研究者は、OA出版が難しくなります。その結果、雑誌掲載論文がAPCを支払える研究者の論文に偏り、書誌多様性に問題が生じることが指摘されています。これに対して、ダイヤモンドOA誌は学術コミュニティ主導で、概して小規模で、多言語、多文化な学術コミュニティにきめ細かく対応することが可能です。
2.5.3ダイヤモンドOA誌の実態調査
2020年から2021年にかけてScience EuropeとcOAlition Sの共同出資により、ダイヤモンドOA誌の実態についての大規模調査が行われ、次のようなことが示されています 3)。
特徴
・世界のダイヤモンドOA誌数は16,953~28,569誌
・ダイヤモンドOA論文数は総論文数の8~9%
・出版国の地域が多様である(欧州45%、ラテンアメリカ25%、アジア16%、米国・カナダ5%)。中でも東欧とラテンアメリカが多く、APC支払い型ゴールドOA誌と比較して、西欧諸国が占める割合が低い。
・分野が多様であり、分野別の割合はAPC支払い型ゴールドOA誌と比較して、人文学・社会科学が多い。(人文学・社会科学60%、科学22%、医学17%)。
・大学出版社などの大学所有の出版社、非常に小規模な出版社からの出版が多い。
・多言語(複数の言語)での出版が38%と、APC支払い型ゴールドOA誌
(14%)よりもかなり多い。
課題
・大部分(68%)が、長期デジタル保存またはアーカイブに関するポリシーを持っていない
・出版フォーマットが、PDFのみの場合が多く、機械可読なコミュニティ標準のフォーマット(HTMLまたはXML)での提供が少ない。
・約半数が利用統計の提供を行っていない。
・国際的な書誌データベースに、ほとんどインデックスされていない。
財務・予算
以下の点から財務的に、持続可能性に対する懸念が示されています。
・財務状況は、収支均衡が43%、赤字が25%、不明31%。
・編集管理の大部分を、ボランティアへ依存している。
2.5.4ダイヤモンドOA実践に向けた取り組み
上述のダイヤモンドOA誌についての大規模な実態調査を受け、2022年3月には、Science Europe、cOAlition S、OPERAS (Open Access in the European Research Area through Scholarly Communication)、フランス国立研究機構(ANR: Agence Nationale de la Recherche)が、Action Plan for Diamond Open Accessを策定しました 4)。これは、持続可能なコミュニティ主導のダイヤモンドOAを開発・拡大するために取るべき行動を示すものです。2023年には、国立大学図書館協会がこの日本語訳である「ダイヤモンド・オープンアクセスのための行動計画」を公開しています 5)。
他にも世界各国でさまざまなステークホルダーにより、ダイヤモンドOAを進める取り組みが行われています。
DIAMAS
2022年9月には、欧州研究領域(ERA: European Research Area)におけるダイヤモンドOAを推進するための3年間のプロジェクトDIAMAS (Developing Institutional Open Access Publishing Models to Advance Scholarly Communication)が始動しました 6)。DIAMASプロジェクトには、Science EuropeやJiscをはじめとする23団体が参加し、欧州でのダイヤモンドOA状況の調査、基準やガイドラインの策定を行っています。また、DIAMASプロジェクトを補完するものとして、CRAFT-OA(Creating a Robust Accessible Federated Technology for Open Access) が3年間のプロジェクトとして2023年1月より始動しています 7)。CRAFT-OAプロジェクトは、ドイツのゲッティンゲン大学をコーディネーターとして、欧州14か国が参加しています。同プロジェクトでは、ダイヤモンドOAを機関出版する環境のための、ツール、トレーニングイベント、トレーニング教材、情報、サービスを提供しています。
Global Summit on Diamond Open Access
2023年10月には、ダイヤモンドOAに関するグローバルサミット“Global Summit on Diamond Open Access”が、Science Europe、Redalyc、UNESCO、cOAlition S等、さまざまなステークホルダー10団体の共催により開催されました 8)。同サミットには、ダイヤモンドOAの推進に携わる世界中の研究者、編集者、大学、研究助成・実施機関などが一堂に会しました。政策策定、ガバナンス、研究評価、持続可能性といったテーマに重点を置き、ダイヤモンドOAの取り組みや実践について議論が交わされ、ダイヤモンドOA関係者のグローバルな協力の強化の必要性が強調されました。
注・引用文献
1 )UNESCO. (2021). UNESCO Recommendation on Open Science.
https://doi.org/10.54677/MNMH8546 (2024-10-31 最終確認)
2 )Budapest Open Access Initiative. (2022). The Budapest Open Access Initiative: 20th Anniversary Recommendations.
https://www.budapestopenaccessinitiative.org/boai20/ (2024-10-31 最終確認)
3 )Bosman, J., et al. (2021). OA Diamond Journals Study. Part 1: Findings.
https://doi.org/10.5281/zenodo.4558704 (2024-10-31 最終確認)
4 )Ancion, Z., et al. (2022). Action Plan for Diamond Open Access.
https://doi.org/10.5281/zenodo.6282402 (2024-10-31 最終確認)
5 )国立大学図書館協会資料委員会オープンサイエンス小委員会タスクフォース (訳). (2023). ダイヤモンド・オープンアクセ
スのための行動計画.
https://www.scienceeurope.org/media/j1fpzuem/202308-diamond-oa-action-plan-jp.pdf (2024-10-31 最終確認)
6 )DIAMAS.
https://diamasproject.eu/ (2024-10-31 最終確認)
7 )CRAFT-OA.
https://www.craft-oa.eu/ (2024-10-31 最終確認)
8 )Global Summit on Diamond Open Access.
https://globaldiamantoa.org/en/home-2/ (2024-10-31 最終確認)
参考文献
Mounier, P. & Rooryck, J. (2023, December 23). Towards a federated global community of Diamond Open Access. the
diamond papers.
https://doi.org/10.58079/12711 (2024-10-31 最終確認)
西川開. (2023). ダイヤモンドOA:APCによらないオープンアクセスの国際動向. STI Horizon, 9 (2), 25-29.