研究データを公開するかどうかの判断は、研究者自身が行う必要があります。研究データの公開に際しては、さまざまな留意点を考慮したうえで、何を公開するか判断することが大切です。また、公開した研究データの利活用を促進する対応も重要です。
5.2.1公開を判断する基準
① ポリシーの遵守
研究者が所属する研究機関、研究助成団体、学会や出版社がポリシーを定めている場合は、それを遵守する必要があります。「東京大学 研究データ管理・利活用ポリシー」では、「研究者は研究データの価値を向上させるため、研究分野の特性を考慮し、関係諸法令、規則及び契約等を遵守して、研究データの利活用を推進し、可能な場合は研究データを公開する。」と定めています。
② 法的・倫理的な観点
個人情報、著作権や特許に代表される知的財産など、第三者が権利や法的利益を有している場合や、安全保障の観点からその流通が規制されている場合(外国為替及び外国貿易法の輸出規制対象情報)は、適用される法令を遵守する必要があります。
また、共同研究や外部資金等にもとづく研究において締結される契約等にて、研究データの公開に関する条件や制限が課されている場合は、それらに反しないように留意する必要があります。
共同研究の場合は、公開について共同研究者の合意が得られていることが必要です。研究コミュニティの慣習で公開に制限がある場合は、その点への留意も必要です。たとえば、絶滅危惧種の正確な位置に関するデータが公開されると、その生物の悪用や絶滅を助長する可能性があるため、非公開が求められています。さらに、国際共同研究の場合には、共同研究先の国の法律等にも配慮が必要です。
③ オープン・アンド・クローズ戦略
オープン・アンド・クローズ戦略とは、「データの特性から公開すべきもの(オープン)と保護するもの(クローズ)を分別して公開する戦略」です。統合イノベーション戦略推進会議「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」では、「公的資金による論文のエビデンスとしての研究データは原則公開とし,その他研究開発の成果としての研究データについても可能な範囲で公開することが望ましい。ただし、その際、研究分野等の特性や、(中略)組織の特性に配慮して、「公開」、「共有」又は「非共有・非公開」の判断が行われる必要がある。」としています。たとえば、研究成果の社会実装やさらなる研究推進のために、知的財産として法的な保護が必要な研究データについては、戦略上クローズとすることが考えられます。
5.2.2FAIR原則
研究データの公開に際しては、FAIR原則(FAIR data principles)に則ることが世界的な共通理解となりつつあり、各国の政策や各国際機構の勧告・宣言にもFAIR原則が盛り込まれています。
FAIR原則とは、データ公開の適切な実施方法を表現する原則です。FAIRとは「Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)」の略で、条項ごとに、より詳しい小項目により構成されています。研究データの公開にあたり、これらの項目を満たすことで、研究データが利活用されやすくなります。
FAIR原則を満たす方法として、たとえば、次のようなことが含まれます。
グローバルに一意で永続的な識別子(ID)(参照【実践編】コラム3 永続的識別子)をデータに付与する(「Findable」に対応)
十分なメタデータ(例:データの名称、作成者、作成日、概要等)を付与する(「Findable」に対応)
データ利用ライセンスを付与して、データの利用条件を明確に示す(「Reusable」に対応)
5.2.3研究データのライセンス
研究データのライセンスとは、研究データに対して、第三者の二次利用の範囲や条件を定義するものです。研究データを公開する際に、自分の望む利用条件を明示したライセンスを付与することで、第三者が利用条件を正しく理解して、公開されている研究データを取得、再利用することができます。また、無断転載や剽窃、不適切な加工、利害関係者とのトラブル等の防止にもつながります。
一般に著作権が存在する学術論文と異なり、研究データは著作物と認められない場合もあります。たとえば、単なる客観的事実やデータは著作物とみなされません。研究データが著作権を有する場合には、使用できるライセンスとしてCCライセンス(クリエィティブ・コモンズ・ライセンス)があります(参照【実践編】2.4セルフアーカイブ時の注意点 ③ CCライセンス)。クリエイティブ・コモンズ・ジャパンのウェブサイトのFAQのうち、データに特化した「FAQ オープンデータ」も参考になります。
研究データに著作権がない場合、また、研究データに著作権があるかを判断すること自体が難しい場合も多くあります。そのような場合のライセンス付与については、「研究データの公開・利用条件指定ガイドライン」が判断に役立ちます。
なお、一度ライセンスを付与すると、事実上取り消すことはできないので、どのライセンスを付与するかは、慎重に判断することが大切です。