こうして国際的にOA運動への関心が高まることで、OAの考え方や理念が広まり、研究成果のOA化に関する方針を策定する国や研究機関、研究助成機関が増えてきています。
欧州では、OAの普及に向けたさまざまな取り組みが進められています。2018年9月に欧州の研究助成機関を中心に構成されるcOAlition Sが「Plan S」という計画を発表し、2021年1月以降、cOAlition S参加機関から支援を受けた研究成果を即時OA公開することを義務づけました。さらに2020年7月には、論文著者の著作権を保護し、出版社による不当なエンバーゴを抑止するための「権利保持戦略」(Rights Retention Strategy)が策定され、Plan S要件の準拠に向けたさらなる強化が図られました。(参照【解説編】2.3 権利保持戦略)また、EUの主要助成プログラム「Horizon Europe」では、学術出版物や研究データのOAを原則としており、欧州オープンサイエンスクラウド(EOSC)や、OA出版プラットフォーム「Open Research Europe」も設置され、研究成果の公開環境が整えられています。
英国でも、2021年8月に研究助成機関UKRI(英国研究イノベーション機構)がOA方針を改訂し、即時OAを義務化しました。ドイツでは、マックスプランク研究所が中心となり「OA2020」が進められており、学術雑誌のOAへの迅速な転換を目指しています。
米国では、2022年8月に大統領府科学技術政策局(OSTP)が、連邦政府から助成を受けた研究成果の即時公開を求める方針を打ち出しました。この方針により、研究開発費を支出する連邦政府機関は、2024年末までに即時OA方針を策定・公開し、1年以内に施行することが求められています。米国の主要な研究助成機関である国立衛生研究所(NIH)は、2008年からPubMed Central(PMC)でのOAを義務化しており、正式出版後1年以内に一般公開することを求めてきましたが、2022年OSTP指令に対応するために、この方針を改訂する予定です。
さらに、2023 年5月のG7広島サミットや仙台でのG7科学技術大臣会合でも、OAを含むオープンサイエンスが主要議題として取り上げられ、特にG7科学技術大臣会合の共同声明では「公的資金による学術出版物及び科学データへの即時のオープンで公共的なアクセスを支援する」ことが明記されました。これは、OAの国際的な推進を強調するもので、各国でのOA義務化の動きがさらに加速しています。
日本においても「統合イノベーション戦略2023」(令和5年6月9日閣議決定)に「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた国の方針を策定する」ことが盛り込まれました。これを受けて国内でもOA義務化の検討が進み、2024年2月に統合イノベーション戦略推進会議において「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」が国の方針として決定されました。この方針では、2025年度から新たに公募を行う特定の競争的研究費を受給する者に対し、該当する競争的研究費による学術論文および根拠データの学術雑誌への掲載後、機関リポジトリ等の情報基盤への即時掲載が義務づけられています。
日本の主要な研究助成機関である日本学術振興会(JSPS)と科学技術振興機構(JST)も、研究成果のOA化を推進しています。2017年3月にJSPSが「独立行政法人日本学術振興会の事業における論文のオープンアクセス化に関する実施方針」を発表し、科学研究費助成事業をはじめとするJSPSの助成を受けた研究成果論文については原則OA化を推奨しています。JSTは2017年4月に「オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関する基本方針」とそのガイドラインを改定し、研究プロジェクトの成果の原則OA化方針を示しました。2022年4月の改定では、査読済み論文は出版後12か月以内にOA化すること、また、論文のエビデンスとなる研究データも原則公開することを定めました。
また、国内の大学でもOA方針の策定が進み、2015年に京都大学が国内の大学で最初のOA方針を打ち出したことを端緒として、2024年10月末現在、72の大学がOA方針・実施要領を策定しています。東京大学も、2023年2月に「東京大学 オープンアクセスポリシー」を定め、研究成果のOA化を推進しています。
以上のように、各国の政策や国際的な取り組みにより、OAの義務化は急速に広がりつつあり、学術出版モデルの転換や研究者の成果公開の在り方に新たな機会と課題をもたらしています。