2.4.1 Subscribe to Openの成り立ち
Subscribe to Open(以下、S2O)は、ジャーナルを1年ごとに購読方式からOA出版へ転換可能とする、現実的な資金調達モデルとして、アメリカの非営利出版社Annual Reviewsにより考案されました。
このOAモデルの要件には、APCに依存しない長期的に安定した財源の確保、同社の抱える大規模で多様な購読者に対する費用対効果の高い提案を行うこと等がありました。とりわけ前者については、同社のジャーナルは、編集委員会がその分野で著名な研究者に執筆依頼したレビュー論文で構成されているため、APCを徴収できないという事情がありました。
Annual Reviewsは、2020年に同社の5誌を対象に試験的にS2Oを採用し、2023年には同社の刊行する51誌すべてにS2Oを採用しています。
2.4.2 S2Oの特徴と普及
S2Oでは、購読契約する図書館が一定数に達し、年間購読収入が十分な金額に達すると、その年に刊行される巻号はOAになります。しかし、購読機関数が不十分な場合、S2Oは成立せず、通常の購読モデルが維持され、購読機関のみが当該巻号にアクセス可能となります。S2Oでは、このように購読収入に基づいて、当該巻号のOA化の可否が毎年判断されます。
既存の雑誌購読モデルを活用しているため、出版社や図書館に新たに大きな負担が生じることがない点がS2Oの特徴です。購読機関にとっては、S2Oが成立してもしなくても当該ジャーナルへのアクセス権は確保できるため、リスクが低いとも言われています。さらに、S2Oが成立した場合には、購読機関に購読料金の割引や、過去の刊行分(バックファイル)へのアクセスが提供されることもあります 1)。
また、図書館からの購読収入をOA化の資金源としているため、著者がAPCを支払うことなく論文をOA化できます。対象論文にCC BYライセンスが適用される場合もあります。
2020年には、S2Oの原則をすべての関係者が容易に採用して実装できるように支援することを目的としてS2O Community of Practiceが設立されました 2)。このコミュニティは、図書館員、学術出版社、資金提供者、学者、その他の利害関係者の参加を歓迎し、持続可能なOA化の仕組みとして、S2Oに関する共通認識の構築を目指しています。S2O Community of Practiceがまとめたリストによると、S2Oを採用する出版社等は2024年までに24団体、計196タイトルとなっています(試験導入や、一部タイトルのみへの採用を含む)3)。学会誌を中心に刊行する出版社や大学出版局など、中・小規模出版社において、このモデルが導入されている傾向にあります(数字は全て2024年11月時点のもの)。
2.4.3 S2Oの課題
S2Oは、構造的に「フリーライダー」を許容するモデルです。S2Oに参加しない図書館およびその機関所属者も、S2OによってOA化された巻号へアクセスできます。このため、一般的に「OAでアクセス可能であっても図書館の蔵書とする価値が認められる権威誌にしか、このモデルは通用しない」と言われています 4)。実際に、S2Oが不成立となる事例が起きています 5) 。
購読をキャンセルする機関が増えると、S2Oモデルの持続性が脅かされるだけでなく、購読モデルに戻ったジャーナルの刊行維持のために必要な、最低限の収入を確保することが、出版社にとって難しくなる可能性があります。
注・引用文献
1 )たとえば, Annual ReviewsとDeGruyterはS2O対象誌を購読するインセンティブとして, 購読機関にバックファイルのアク
セス権を提供している. Project MUSEも2026年にS2Oが成立すればバックファイルを提供する予定.
Annual Reviews. Subscribe to Open.
https://www.annualreviews.org/s2o_supplement (2025-02-28 最終確認)
DeGruyter. Subscribe to Open at De Gruyter Brill.
https://www.degruyter.com/publishing/publications/openaccess/open-access-articles/subscribe-open (2025-02-28 最終確認)
Project MUSE. Subscribe to Open for Project MUSE.
https://about.muse.jhu.edu/subscribe-to-open/S2O (2025-02-28 最終確認)
2 )S2O Community of Practice.
https://subscribetoopencommunity.org/ (2025-02-28 最終確認)
3 )The State of Subscribe-to-Open Among Scholarly Publishers. (2024, November 27).
https://docs.google.com/document/d/1Me7X0HtV4n4Q-KWIu7HxORMGg8aWfC6mSGo8hRvlF5k/edit (2025-
08-21 最終確認)
4 )船守美穂. (2023). 動向レビュー:即時オープンアクセスを巡る動向:グリーンOAを通じた即時OAと権利保持戦略を中心
に. カレントアウェアネス, 358. https://dl.ndl.go.jp/pid/13123926
5 ) たとえば, デューク大学出版局の“Demography”は, 2024年のS2Oが不成立となっている.
紀伊國屋書店雑誌部. (2023, August 18). Duke University Press「Demography」をSubscribe to Open (S2O) 対象に
【2024年不成立】. 教育と研究の未来. https://mirai.kinokuniya.co.jp/2023/08/44678/ (2025-02-28 最終確認)
参考文献
Annual Reviews. What is Subscribe to Open (S2O)?
https://www.annualreviews.org/S2O (2025-02-28 最終確認)
Crow, R., et al. (2020). Subscribe to Open: A practical approach for converting subscription journals to open access. Learned Publishing, 33 (2), 181-185.
https://doi.org/10.1002/leap.1262
船守美穂. (2020). 動向レビュー:プランS改訂版発表後の展開―転換契約等と出版社との契約への影響. カレントアウェアネス,