研究データを公開する方法と注意点について説明します。
研究データの公開には、次のような意義があります。
異なる分野の研究者が、異なる観点から研究データを分析することで、新たな研究成果や研究コミュニティが創出される可能性があり、研究の発展につながる。
研究データに関心を持った企業等との共同研究(産学連携)など、新たなイノベーションにつながる可能性がある。
研究データの再利用が可能となり、既存のデータを再度収集する必要がなくなるため、時間、費用、資源を節約できる。
研究を再現しやすくなり、研究成果の透明性や公正性の確保につながる。
市民や納税者からの研究に対する理解が向上する。
一般的な研究データの公開方法は、データリポジトリでの研究データ公開です。データリポジトリには、大きく分けて「分野別リポジトリ」「機関リポジトリ」「汎用リポジトリ」の3種類があります。
分野別リポジトリ
分野固有のリポジトリは、同じ分野の研究者に研究データをより発見されやすく、再利用される可能性があります。各分野のリポジトリは、re3dataで確認できます。また、以下のように東京大学内で構築・提供されているリポジトリもあります。
SSJデータアーカイブ(SSJDA)
東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターが構築・運営する、労働調査や社会調査の個票データを収集・保管し、学術利用目的のために提供するデータアーカイブ。データリポジトリの国際的な認証基準であるCoreTrustSeal認証(※)を取得している。
※CoreTrustSealは、データリポジトリの信頼性や視認性向上を判断する基準の一つであり、データリポジトリがデータの長期的な保存、アクセス可能性、再利用性を保証するための厳格な基準を満たしていることを示す国際的な認証である。 欧米を中心に、ミシガン大学のICPSR、ハーバード大学のDataverse、オランダのDANSなど、世界有数の研究機関やデータアーカイブがこの認証を取得しており、学術データの透明性と持続可能性を担保する上で重要なものとして認識されている。
機関リポジトリ:東京大学リポジトリ UTokyo Repository
機関リポジトリとは、大学等の機関が自機関に所属する研究者の研究成果を収集・公開するためのリポジトリです。東京大学の機関リポジトリであるUTokyo Repositoryでは、以下の条件で研究データの公開に対応しています。
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/registration
登録対象となる研究データは、その研究データを用いた論文の出版の過程において、出版社または査読者から掲載の条件としていずれかのリポジトリに 登録することが求められたものとする。
登録が可能な研究データのサイズは、1論文あたり500MB以下とする。
現時点では、GakuNin RDM(※)とUTokyo Repositoryの連携機能は実装されていません。
※国立情報学研究所(NII)が提供する、研究者が研究データや関連資料を管理・共有するための研究データ管理サービス。本学在籍者はUTokyo Accountによる認証で利用可能。
汎用リポジトリ
特定の分野や所属機関によらず利用可能なリポジトリを汎用リポジトリと呼びます。ここでは主なものを紹介します。
figshare https://figshare.com/
zenodo https://zenodo.org/
ポリシーの遵守
所属機関、資金配分機関、学会や出版社がポリシーを定めている場合は、それを遵守する必要があります。
「東京大学 研究データ管理・利活用ポリシー」では、「研究者は研究データの価値を向上させるため、研究分野の特性を考慮し、関係諸法令、規則及び契約等を遵守して、研究データの利活用を推進し、可能な場合は研究データを公開する。」と定めています。
法的・倫理的な観点
以下に該当する場合は、適用される法令等を遵守する必要があります。
個人情報、著作権や特許に代表される知的財産など、第三者が権利や法的利益を有している場合
安全保障の観点からその流通が規制されている場合(外国為替及び外国貿易法の輸出規制対象情報)
共同研究や外部資金等にもとづく研究において締結される契約等にて、研究データの公開に関する条件や制限が課されている場合
共同研究の場合は、公開について共同研究者の合意が得られていることが必要です。研究コミュニティの慣習で公開に制限がある場合は、その点への留意も必要です。たとえば、絶滅危惧種の正確な位置に関するデータが公開されると、その生物の悪用や絶滅を助長する可能性があるため、非公開が求められています。さらに、国際共同研究の場合には、共同研究先の国の法律等にも配慮が必要です。
オープン・アンド・クローズ戦略
オープン・アンド・クローズ戦略とは、「データの特性から公開すべきもの(オープン)と保護するもの(クローズ)を分別して公開する戦略」です。統合イノベーション戦略推進会議「公的資金による研究データの管理・利活用に関する基本的な考え方」2では、「公的資金による論文のエビデンスとしての研究データは原則公開とし,その他研究開発の成果としての研究データについても可能な範囲で公開することが望ましい。ただし、その際、研究分野等の特性や、(中略)組織の特性に配慮して、「公開」、「共有」又は「非共有・非公開」の判断が行われる必要がある。」としています。たとえば、研究成果の社会実装やさらなる研究推進のために、知的財産として法的な保護が必要な研究データについては、戦略上クローズとすることが考えられます。
データ公開の適切な実施方法を表現する原則として、FAIR原則(FAIR data principles)があります。 FAIRとは、「Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)」の略です。研究データの公開にあたり、これらの項目を満たすことで、研究データが利活用されやすくなります。
グローバルに一意で永続的な識別子(ID)をデータに付与する(「Findable」に対応)
十分なメタデータ(例:データの名称、作成者、作成日、概要等)を付与する(「Findable」に対応)
データ利用ライセンスを付与して、データの利用条件を明確に示す(「Reusable」に対応)
FORCE11: THE FAIR DATA PRINCIPLES (2016). https://www.force11.org/group/fairgroup/fairprinciples, NBDC研究チーム(訳), "FAIR原則(「THE FAIR DATA PRINCIPLES」和訳)" (2019). https://doi.org/10.18908/a.2019112601
研究ブーストセミナー「科研費実績報告で困らない!研究データあれこれ」(2025年4月11日開催)
録画・資料を公開しています。
https://www.ura.adm.u-tokyo.ac.jp/services/view/66c978c0-2781-400f-8280-56bf7b3ffe9c#gsc.tab=0
※学内者限定(UTokyo Accountでログインが必要)
研究ブーストセミナー「科研費交付申請に向けたDMP作成」(2024年4月5日開催)
録画・資料・QA(含:QA-3.研究データの管理・公開)を公開しています。
https://www.ura.adm.u-tokyo.ac.jp/services/view/f2a88336-9e08-423c-bb0e-1178ccf9290d
※学内者限定(UTokyo Accountでログインが必要)
(最終更新日:2025/07/29)