冠詞が消えるとき

「冠詞」について考えてみたいと思いますが、逆に冠詞がつかない場合をとりあげてみたいと思います。

本来ならば “a (an)” や “the”がつくべきものでも、冠詞が省略されることがあります。規則性がありそうですが、慣用的なものが多いのかもしれません。 “husband and wife”(夫婦)は、対になっているから両方の冠詞が省略されています。しかし、対になっていても「新郎・新婦」の場合は “the bride and groom”(注:英語は「新婦・新郎」の順)となります。

a cup and saucer”「受皿付茶わん」(cf. a cup and a saucer 茶わんと受皿)のように、名詞が2つ and で結ばれており、ひとまとまりとしてとらえる場合は、a [an] は最初の名詞にだけつけることがあります。

2つ目の冠詞が省略される表現には、次のようなものもあります。意味としては、全く違ってきます。

1. a poet and a teacher 2. a poet and teacher

1は「(ある)詩人と(ある)教師」の意味で、人数でいうと2名になります。2.は「詩人でもあり、教師でもある人」という意味になり、人数でいうと1名になります。

「性質」に重点がおかれる場合、冠詞が省略されることがあります。“She was more mother than sister to me.(彼女は私にとって姉というより母のような存在だった。)” が例としてあげられます。

“the” の有無によって意味が違ってくる表現には、次のようなものがあります。manは無冠詞の場合、「男(全体)」を指します。e.g. Man with the head, woman with the heart.《ことわざ》「男は頭、女は情」。また同様に、“man” が無冠詞のときは、「人類、人間」の意味も出てきます。e.g. Man is mortal.「人は誰でも死ぬものだ。」

「言論の自由」 “freedom of speech” のように、「~の自由」という表現は “the freedom of ~” とはなりません。e.g. “freedom of thought”「思想の自由」、“freedom of religion”「信教の自由」、“freedom of the press”「出版の自由」(←「出版」の意味では、必ず “the” がつきます。)

「『楽器を弾く』という場合は、“play the 楽器” と覚えなさい」と教える中学校の英語の先生は多いのではないでしょうか。ところが、the がつかない場合も立派に存在します。辞書を見ると、職業演奏家、つまりプロが演奏する場合は “the” がつかないことがあるようです。 e.g. He plays piano for Glenn Miller.「彼はグレン=ミラー楽団でピアノを弾いている。」ただし、この語法は、この辞書の改訂版では、「通例 the がつくが、文脈によって a がついたり、無冠詞になったりする場合もある」と表記が改められていました。いずれにせよ、英語教師としては 「“play the 楽器” と楽器の前には必ず the がいる」という思い込みはしないようにしたいものです。