"dollar" はどうして「ドル」なのか

ボサーっとニュースを見ているとふと「Dollar はなんで“ドル”なんやろ?」という疑問が浮かんできました。辞書をひいてみると「dollar の明治時代の文字読みドルラルの略」と出ていました。

「文字読み」というのは、その単語を耳で聞いたことのない人が、文字面をたどって自己流に読んだり誤読したりすることです。つまり、lや r を「ラ」や「ル」と読み、dollar の “dol” を「ドル」、後ろの “lar” を「ラル」として、「ドルラル」と読んだということです。これが略されて前半の「ドル」だけが生き残り “dollar” の訳語として使われるようになりました。

このように「文字読み」によって入ってきた外来語には次のようなものがあります。

meter メートル(me を メ、r を ル)

front フロント(f を フ、t を ト)

buzzer ブザー(bu を ブ)

pistachio ピスタチオ(実際はピスタシオらしい)

pizza ピザ(ご存知の通り実際はピッツァのような発音)

bar バール(r を ル)

troche トローチ(実際はトローシュらしい)

sponge スポンジ(s を ス)

cosmos コスモス(s を ス)

glove グローブ(実際はグラブ)

ultra ウルトラ(実際はアルトラ)

この「文字読み」は、外国語の読み方のみならず、日本語のなかにもあります。

[文字読み]

老舗(しにせ) → ろうほ

台詞(せりふ) → だいし

神通(じんずう)→ じんつう

女将(おかみ) → じょしょう

幾多(いくた) → 古語「幾多(いくそくばく)の文字読み」

阿片(あへん) → opium の中国での音訳を文字読みしたもの

大方(漢語「大方(ダイハウ)の和語による文字読み」)

明治時代の「変則英語」

「技術の英語文化の英語」(新井恵理著 中央公論新社)のなかに、明治時代に行われていた「変則英語」が紹介されています。「変則英語」というのは、Come here.を「コム、ヒル」のように読み、英語の音声には全く注意を払わずに、訳読や読解に重点を置く日本人英語教師による授業のことだそうです。「正則英語」もあり、こちらは外国人教師による授業だったそうです。ちなみに、明治時代は「変則中学校」という名称の 学校が多くありました。

「文字読み」にはこうした時代背景があったようです。come を「コム」と読むなど、今からでは考えられない英語教育ですが、テレビなどのメディアが普及していない当時としては仕方のないことだったのではないでしょうか。しかし、内容を重視して読んでいく、という点については、今流行りの「おおざっぱに内容を理解する読解方法」にはない“著者との対話”があったのではないかと思うのです。

このような「文字読み」によって入ってきたカタカナがあるからといって、「日本人は英語ができない」と私は言いたくありません。ある言語が別の言語に入るときには、取り入れる側の発音しやすいように音が変化するのが常だからです。

dollar の語源は、ドイツ語の Taler で、ボヘミヤの Joachimstal で作られた Joachimstaler というドイツの銀貨の名称の後ろの部分 taler に由来しています。これがオランダ語で daler になり英語にはいってきたということです。ということは、dollar という語自体が「変則独語か変則阿蘭陀語(?)」じゃないかと言えなくもないですよね 。