英国と日本

The First English man in Japan ~William Adams(三浦按針)~

1600年(慶長5)にオランダ船リーフデ号が、大分県臼杵に漂流しました。日本を目指して2年以上の旅をしてきたその船の中に水先案内人(pilot:語源は「オール」「舵取り」)であった英国人 William Adams がいました。「英語」という言語に日本が接したのは、このときが初めてのようです。William Adams が、ジェームズ1世から徳川家康への書簡を日本語に訳していて、これが英文和訳の第1号と言われています。

現在の日本とは違い、このころはポルトガル語が国際語としての地位を得ていました。そのため、英国人William Adams やオランダ人のヤン・ヨースティンも、ポルトガル語通訳を介して取調べを受けています。さいわい、乗組員たちは家康に気に入られ、航海術、造船術の知識、西洋諸国の戦争の状況などを日本に伝えていったそうです。William Adams は、神奈川県の三浦半島の住むようになり「三浦」という姓を、名前は「水先案内人:pilot」の意味を込めて「按針(あんじん)」と名のるようになりました。のちに、お雪という日本人女性と結婚して2人の息子もできています。彼は、故郷の英国に帰りたいと願っていましたが、結局残りの人生20年間を日本ですごすことになりました。ちなみに、ヤン・ヨースティンも東京に土地を与えられました。日本人はヤン・ヨースティンを「ヤヨス」と呼び、いつしかその土地は「八重洲」という名前になりました。これが、東京の八重洲の由来です。

以前、東京に行く機会があったときに、東京駅の地下街にヤン・ヨースティンの像を見に行きました。以前は東京駅地下街のノーススポットにあったらしいのですが、2008年2月の時点ではセンタースポットに移動していました。最初の二枚はセンタースポットではありませんが、東京駅の歴史の展示として掲げられていたものです。三枚目から五枚目にかけてがヤン・ヨースティン像とその下の解説です。

なぜ「イギリス」?

正式には、United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland です。ではなぜ「イギリス」なのでしょう?この質問に答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。以前に、ある本で「イギリスに住むようになったアングル族に由来」という説明がありましたが、これにはまったくピンときませんでした。どうしても「イギリス」という音につながらないのです。

このなぞを解く鍵は、国語辞典にありました。国語辞典で「イギリス」を調べてみると、「ポルトガル語(Inglez)から」とあるではありませんか!!そうなんです。「イギリス」という表現は、ポルトガル語なんです!!実際の発音は分かりませんが、何度か「イングレズ」というと「イギリス」みたいに聞こえるような気がします。なぜ「ポルトガル語」なのかというと、先ほど述べたように1550年ごろからポルトガルと日本の関係が深まり、オランダ人や英国人と話すときでさえ、ポルトガル語の通訳を介して話を聞くという時代がありました。ということは、諸外国の情報はポルトガル語で入ってくることになります。すると、なぜポルトガル語の Inglez が日本語に「イギリス」として定着したのか理解できます。ポルトガル語経由で入ってきた国名には、「トルコ(Turco)」もあります。英語ではTurkeyですね。この点について、ポルトガル語を勉強している方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください(^0_0^)。

地の神 *Inguaz(追加記事)2002年8月

「講談 英語の歴史」(渡部昇一著 PHP新書)にまた目を通しておりますと、この Inglez に関連があると思われることが記述されていました。ローマの歴史家タキトゥスの『ゲルマニア』によると、原始ゲルマン人は、天の神(Tiu)を崇めるゲルマン人、地の神(*Inguaz)を崇めるゲルマン人、大気の神(Woden)を崇めるゲルマン人の3種族に分かれていたそうです。そして現在のイギリス人の祖先の中心になったのは、地の神(*Inguaz) を崇める人々(原始サクソン人、アングル人など)だったとされているそうです。ここからは、私の推測ですが、この *Inguaz という地の神を崇拝していた人々のことを、現在のポルトガルあたりに住んでいた当時の人々(ヨーロッパ人?)が “Inglez” と呼び始めたのではないかと思うのです。

その他の国名

話題が若干ずれますが、国名を調べていくと面白いことが分かります。「日本での国名(英語名)⇒《 》内の言語での呼び方」にしています。比較してみてください。

スイス (Switzerland) ⇒ Suisse《フランス語》

イタリア (Italy) ⇒ Italia《イタリア語》

ローマ (Rome) ⇒ Roma《イタリア語》

パリ (Paris) ⇒ Paris《フランス語ではs は発音しない》

ギリシャ (Greece) ⇒ Graecia《ラテン語》

チェコ (the Czech Republic) ⇒ Czecho 《チェコ語》

ドイツ (Germany) ⇒ Deutschland《ドイツ語》

オランダ (Holland) ⇒ Olanda《オランダ語》

こうしてみると、意外にも日本人の方が、英米人たちよりも忠実に国の名前を正確に取り入れていると言えるのではないでしょうか?「オランダ」の意味の “Dutch” は、もともとドイツ(Deutschland)をさす語でしたが、17世紀から「オランダ」の意味になったそうです。渡部昇一氏著の「英文法を撫でる」(PHP新書)によると、「イギリスの島から見れば、海に近い方に住むゲルマン人であるオランダ人やオランダ語を指す言葉が、ドイツではドイツ語やドイツ人を指す単語になっている」らしいのです。

日本の国際語は、「ポルトガル語」⇒「オランダ語」⇒「英語」と変わってきました。日本が開国したころも、日本人とアメリカ人との折衝は「阿蘭陀通詞(オランダ語通訳)」を介して行われていました。時代や世界情勢が違えば、われわれ英語教師も「阿蘭陀語教師」になっていたんでしょうか?