ネクタイの歴史

ルイ14世とクロアチア兵

今や職場で男性がネクタイをするのは当然のようになっていますが、“ビジネス界の必須アイテム”になるまでは、意外な過去がありました。“necktie” は米語で、“tie” は英語とされていますし、日本語でも“ネクタイ”という語が使われていますが、他の言語では “クラバット”が主流のようです。

フランス → クラヴァット(Cravate)

イタリア → クラヴァッタ (Cravatta)

ドイツ → クラヴァッテ (Krawatte)

スペイン → コルバータ (Corbata)

ポルトガル → クラヴァータ (Gravata)

英語でのつづりは、最後の e がつかない形 “cravat” になっています。この語の本家は、フランスでルイ14世の時代に遡るそうです。親衛隊として雇ったクロアチア人の兵隊たちが、首に巻物をしているのを見たルイ14世は、供の者とこんな会話をしたそうです。

ルイ 「あの兵隊どもの妙な首巻はなんだ?」

供の者 (あの兵たちは何者?と聞き違えて)「クラバット(クロアチア兵)でございます。」

これがもとで、その “首の巻物” は “cravate” と呼ばれるようになったそうです。この“首の巻物”は弾除けのまじないであるとか、お守り的な意味があったようです。ルイ14世は、最初ははずすように言っていたようですが、どうしてもクロアチア兵が聞き入れなかったので、譲歩して自ら “cravate” をつけ始めたそうです。もし、ここでクロアチア兵が聞き入れて、「クラバット」をはずしていたら、ひょっとして今日のネクタイは存在しなかったんでしょうか?

このような話を聞くと、カナダの由来を思い出してしまいます。北米の先住民イロクォイ族に「ここはどこだ」と聞いたところ「カナタ(村)」と言ったのを、そこの地名と勘違いをしたことに由来するそうです。そんな間違いが国名にまでなってしまうんですね。

はじまりはダービー競馬場

現代の形のネクタイは、競馬でおなじみのダービー卿に始まります。ダービーが所有する「ダービー競馬場」に出かける男性は、細型の結び下げネクタイをつけていったそうです。これがかっこいい、ということになり、「ダービータイ」という愛称がついて流行っていったそうです。この20年後、同じようにアスコット競馬場から「アスコットタイ」が流行しています。

“ビジネスの必須アイテム” としてのネクタイの役割は意外と歴史が浅いようです。このように、勘違いから「クロアチア兵」という意味の名前がつき、競馬場のファッションとして流行したネクタイが、今日では職場などで男性がつけていないと無作法者ともみなされかねないという身嗜みの必需品になったのは、不思議な気がします。ちなみに、日本人で初めてネクタイをしたのは、中浜万次郎(ジョン万次郎)だそうです。