生きている死語

ATM ~Automatic Teller Machine~

今や私たちの生活に欠かすことのできない "ATM "は、Automated (Automatic) Teller Machine の略であることはよく知られています。日本語で言うと、「現金自動支払機」や「現金自動預け支払機」です。この英語と日本語をよく比較してみると、Automated は「自動」、Machine は「機械」が対応しているのが分かりますが、Teller が「預け支払い」になっていることに気づかれたことがあるでしょうか?以前私は、ATM というのは、機械が「イラッシャイマセ」のように「話す」から Teller だと思っていました。

"The mother tongue ~english & how it got that way~"のなかで、Bill Bryson が "fossil" という現象について説明しています。

Sometimes an old meaning is preserved in a phrase or expression. (中略)Tell once meant to count. This meaning died out but is preserved in the expression bank teller and in the term for people count votes. When this happens, the word is called a fossil. (p79)

Tell にはかつて "count"「数える」 の意味があったようですが、その意味は現在ありません。しかし、"a bank teller"、 "a deposit teller"「(銀行の)出納係、窓口係」 のような表現に生き残っています。このような現象は「化石」という意味で、 fossil と呼ばれるそうです。

このように tell には count の意味があったことを知ると、"There were forty of them, all told." の "all told" というイディオムになぜ「全部で、総計で」という意味があるのか分かります。また、辞書を引いてみると、"tell off" という表現には、[軍事用語]で「<人などを>数え分けて[仕事に]割り当てる;<人などを>数え分けて<・・・する作業に>割り当てる」という意味があります。このように「数える」という “死んだ” 意味が、他の表現で “生きている” ことがあるのです。

ここまでくるとお分かりいただけたと思いますが、Automated (Automatic) Teller Machine も、機械が自動的にお金を預かったり、支払ったり、つまり「お金を数える」から Teller が使われているんですね。

余談ではありますが、Shakespeare の時代には、this that に加えて、that よりも遠くにあるものに yon という表現があったそうです。つまり、中一レベルでいうと、this hat, that hat, yon hat みたいな表現だったそうです。この yon という表現自体は使われなくなったのですが、yonder 「あそこに、向こうに」という表現が生き残っています。おもしろいことに、この yonder は、辞書には現在「形容詞」として分類されているのですが、yonder hill 「向こうの丘」となっており [通例冠詞を伴わないで] という解説があります。「形容詞」であるならば、必ず the yonder hill と冠詞を伴うはずですよね。これは、this book や that book のように、かつては yon が「指示形容詞」だったことの名残なのだと思うのです。

最近では、やたらと「生きた英語」を重視する傾向があるのですが、今回紹介したような視点で英語を見ると、生きている「死語」がわれわれ日本人の生活と密接にかかわっていたりします。英語教師としては、「役に立たない」という視点だけで言葉に刻まれた歴史を切り捨てずに、英語という “ごたまぜの言語” を味わいたいものです。