カミングアウト

~Coming out する Closet Queen~

最近よく使われているカタカナ英語で、「カミングアウト」という表現があります。この表現は、「人に言えなかったことを打ち明ける、告白する」という意味で使われていることが多いように思います。辞書で調べてみると、カタカナとしては次のような定義が見つかりました。

「自分が,社会一般に誤解や偏見を受けている(同性愛者などの)少数派の主義・立場であることを公表すること。単にアウトともいう。」(「デイリー新語辞典」三省堂)

「(1)自分のセックスの好みをはっきりと相手に言うこと。(2)それまで無名だったものが,突然活躍をはじめること。」(「現代用語の基礎知識2001年版」自由国民社)

この定義を見るだけでも、教育現場などで時折見かける「カミングアウト」とは明らかに意味が違っているような気がします。

さて、英語での意味を考えてみたいと思います。“come out”には、「出版される」「分かる」「現れる」などがありますが、「打ち明ける、告白する」の意味に一番近いものとしては「同性愛者であることを公言する」という意味があります。なぜ “come out” にそのような意味が出てくるでしょうか?ポイントは、「だれがどこから出てくるのか」ということでした。現代スラング英和辞典(秀文インターナショナル)は次のような解説をしています。

come out 自分がホモであることを認めて積極的に同姓のセックス相手を捜し求める。(同性愛について疑いや不安を解決したか、それとも不安が残るにもかかわらず積極的に相手を求める決心をしたいという含みがある。時には「公に自分がホモであることを発表する」という意味で come out が使われるが、come out した人がしばしばそれをホモの仲間だけに知らせ、ホモでない友人や身内には秘密にすることがある。)[同性愛者用語]

come out of the closet 1.(言葉又はそれに相当する態度で)自分がホモであることを公表する。2.(1.から転じて)(それまで秘密にしていた行為、立場、意見などを)公に認める、発表する[通常政治家、有名人などについて言う]

closet queen, closet queer 自分がホモであることを隠す男、隠れホモ

closet「押入れ」は、「秘密(内緒)のこと」のたとえとして使われています。“queen” を使うのは、“queer”「変な、風変わりの、(男が)同性愛の」とつづりが似ているからだと思います。ちなみに、日本語の「ホモ」は男に使われることが多いようですが、英語のhomosexual は「同性愛者」であり、男も女も含みます。

確かにComing Outという表現には、come out of the closet の2の定義のように、意味が転じて「立場などを発表する」のような意味もあるようですが、もともとは[同性愛者用語]であり、「Closet Queen が Closet から Coming Out する(隠れホモが押入れから出てくる)」という意味であることを認識したうえで、「カミングアウト」という表現を使うべきなのでしょうね。とりあえず、教育現場で声高らかに使う表現ではないかと思いますが、みなさんはどう思われますか?

インターネットの書店 amazon.co.jpにも、Gay & Lesbian > Nonfiction > Coming Out という洋書のカテゴリがあり、Coming Out には66冊の書籍が見つかります。(2003年5月)

ちなみに gay「(男・女が)同性愛者の」の語源は古フランス語の「きらびやかな」で、lesbian「(女性間の)同性愛の」は、エーゲ海の「Lesbos島」に由来するそうです。この島に住んでいた女流詩人 Sappho が弟子たちと同性愛にふけっていたという“伝説(?)”があったそうです。