肌色 ~Flesh color~

「クレヨンに肌色ってあるでしょ。あれってとんでもない事です。あんなの日本でしか通用しないこと。これが外国だったらそのクレヨンの会社は直ぐ裁判にかけられて謝罪し訂正しなければなりませんよ。日本 は住んでいると気がつかないかもしれませんが、まだまだいっぱい差別のある国です。 (ある新聞社のWeb掲示板から) 」

肌色」が話題になると、だいたいこのような論調で“日本人の人権感覚のなさ”を指摘するものが多く見られます。しかし、「肌色」について調べてみると、この色の問題は、日本に限られるものではないことが分かりました。

「肌色」を辞書で検索してみると…

小学館のBookshelf で、「肌色」をキーワードにして検索してみました。まず、日本語の「肌色」は、「1.人間の肌の色(のような、少し赤みを帯びた、薄い黄色)」「2.その人種としての色」と定義されています。1の定義から考えると、「黄色人種の肌」を指していると考えられます。

英語でこれにあたるものに、flesh color がありました。「肉色、肌色(白人の薄赤みがかったクリーム色)」と解説されています。明らかに、「肌色=白人の肌」という定義です。この flesh color という語を他の辞書で引いてみても、英日では単に「肌色」、英英では、color of flesh くらいにしか定義されていなかったので、いくつかのオンライン・ディクショナリーで検索したところ、The Columbia Guide to Standard American English に次のような解説がありました。

flesh, flesh tones (nn.), flesh-color(ed), skin-color(ed) (adjs.)

Long traditional use has made many people unthinking when they refer to flesh as only “white, or the color of Northern Europeans’ skin,” but there are many more flesh or skin colors than that. The sensitive speaker and writer will keep that in mind in order to avoid affronting or confusing the audience (advertising has virtually dropped the word from its list of colors). The words are not taboo in the “white” sense, but they do require careful contextual control.

flesh color という表現を聞くと「白もしくは、北部のヨーロッパ人の肌の色」と多くの人が無意識のうちに考えている、ということが分かります。

企業は flesh color をどう扱っているのか?

“Advertising has virtually dropped the word from its list of colors.” とはいうものの、Yahoo America で flesh color をキーワードに検索をしてみると、109,000件ヒットしました。すべて見ることはできませんでしたが、はじめの方は、ほとんどが企業の宣伝のページでした。また、Yahoo (America) Shopping で Flesh Color を含む商品を調べてみたところ、82店舗で354種類の商品が販売されていました(2002年5月)。

さて、この事実を認識したうえで、もう一度最初の「“肌色”に関する投稿」を読んでみてください。ちなみに投稿をしたこの方、アメリカ在住だそうです。どう思われるでしょうか?

“カーネーション”は「肌色」?

おもしろいことに、辞書の検索結果で、 “carnation”「カーネーション」がひっかかりました。語義を見ると、なんと「イタリア語『肌色』の意」という解説があるじゃありませんか!! “flesh color” の訳語には、「肉色」というのもあります。

carnationと同じような綴りの語には、次のようなものがあります。carnal 肉体の、carnality 肉欲、carnivore 肉食獣、carnival 謝肉祭(カトリック教徒が祝う四旬節 (Lent) の直前数日間の祝祭; 四旬節では荒野で苦行したキリストをしのび、肉を断って精進するので, その前に肉を食べて楽しもうというもの)。

American Heritage によると、“carnation” は、“A pinkish tint once used in painting. [From obsolete French, flesh-colored, (from Old Italian carnagione, skin complexion, from carne, flesh) と説明されています。

以上のことを考えると、英語にも「肌色」を表す “flesh (skin) color” という語が立派に存在し、もともと「白人の肌の色を指す」という認識があった(現在もある)ことが分かります。それが、“politically correct” でないと考えられ、flesh color という表現を別の表現に変える企業、flesh color に幅をもたせて対応する企業がでてきて現在に至っている、と言えるのではないでしょうか。

Flesh Color に対する賛否両論

しかし、すべての企業がそう対応しているわけではないようです。Matthew Stelly さんという方が書いた記事には、“In the old days, we can all remember that the Crayon box was a hotbed of racism.” と記されていました。こうした言葉から考えても、「クレヨンの肌色」が日本だけのものではないことが分かります。とある美術館の館長さんは、かつて「肌色」という表現について肯定的な意見をウェブ上で披露されていました。

この「肌色 flesh color」についての議論は、まだまだ世界中で続いていくでしょう。英語教師&英語を学ぶものとしては、「“肌色”なんて日本にしかない表現だ!!日本はだめだ!!」という程度の浅い認識にとどまることなく、さまざまな国の文化や価値観を学んでいく必要があると思います。