History の中に Story あり

Etymology ~History(歴史)の中にStory(物語)あり~

Random Houseの The Maven’s Archive というコーナーの語源(etymology)の解説にはまっていた時期がありました。その中で、特に興味をひかれたものが、サブタイトルに使った ”history” と ”story” の関係です。”history” から ”hi” をとると ”story” になります。単なる偶然ではなく、「ギリシャ語historia (histor知ること+-La=過去を知ることにより学ぶこと)」を語源として、語源異形(doublet)という過程を経て、現在2つの語になっています。

"eponym" 「名祖(なおや)」と呼ばれるものもあります。例えば、商標であった ”Xerox” が「コピー」一般を意味するようになり、さらには「コピーをとる」という動詞にまでなった、というのがこの ”eponym” の代表的なものです。いくつか紹介しておきます。

Klaxon「クラクション」…Klaxon(クラクソン)という製造会社の名前から。英語では”horn”

Kleenex 「クリネックス」…Kleenex ティッシュペイパー(商標)

chauvinism「熱狂的愛国主義者」…Napoleonを熱狂的に崇拝し、愛国主義を唱えたフランス兵Nicolas Chauvinの名から

maverick「無党派の政治家、一匹狼」…米国Texas州の開拓者Samuel A. Maverick(1803-70)の名より

boycott「ボイコット」…初めてこの戦術の対象となった英国の陸軍軍人でのちに土地差配人となったC. C. Boycott(1832-97)の名から。(ここで興味深いのは、Boycottは「ボイコットをした人」ではなく、「ボイコットをされた人」であるということです。)

America「アメリカ」…イタリアの商人、探検家であったAmerigo Vespucci(1454-1512)「アメリゴ・ベスプッチ」の名から。コロンブスが発見した大陸はアジアの一部である、コロンブスが信じていたときに、アメリゴがその大陸がアジアではないと主張したため。(その他諸説あり)

sandwich「サンドイッチ」…Earl of Sandwich (1718-92)「サンドイッチ伯爵」の名から。食事のためにゲーム卓から離れるのを嫌い、サンドイッチを考え出した。

その他、外国語からの言葉が借用される方法として calque「翻訳借入語句」というものがあります。例えば「~は言うまでもない」という it goes without saying that~ は、フランス語の表現 ça va sans dire que... を直訳して英語に借用された表現です。 「蚤の市」の flea market もフランス語の marche aux puces の「翻訳借入語句」です。

日本語にこのようにして入ってきた表現は、vicious cycle「悪循環」や、「種の起源」で用いられた the survival of the fittest の訳「適者生存」などが英語からの calque として挙げられます。最近では、映画のタイトルやコンピュータ用語がそのままカタカナで使われることが多くなったので、この calque が見られないのが残念なような気もします。

英語という言語を synchronic「共時的な」見方をするだけでなく、時には、diachronic「通時的な」見方をすることも興味深いものがあります。ちなみに、言語学で synchronic linguistics「共時言語学」と diachronic linguistics「通時言語学」という区別を始めたのはソシュールでした。