青森県田子町の漆カンナ職人

投稿日: 2016/08/04 8:09:54

漆カンナ職人・中畑文利さん

2016年2月22日に放送されたNHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」において、最後の職人・ニッポンを支える男たちとして、青森県田子(たっこ)町の漆カンナ職人・中畑文利さん(職人歴45年以上、72歳)が紹介されています。この漆カンナとは、ウルシの木(幹)の表面に細い溝を削り込む道具で、そこから染み出る樹液を缶に集めたものが漆の原料になります。なお、木を傷つけるこの溝を深く削りすぎると、木が枯れてしまうので、この漆カンナは(映像から長さ15センチぐらいと思われますが)、扱う漆掻き職人の癖や幹の太さによって、微妙な調整を要するオンリーワンともいえる道具だそうです。

漆カンナづくりの状況

国宝や重要文化財の修復・保存に漆を使う場合は国産に限るということが、近ごろ義務化されたようですが、戦後、中国の安い漆や化学塗料に押されて衰退した日本の漆は、風前の灯のような状況です。漆カンナの需要も年間50本では、機械化するメーカーなどあるはずはなく、今これをつくるのは中畑さんお一人です。骨髄性白血病、緑内障、糖尿病を患う身体に「どこまで突っ走ってやれるのか分かんないけど、仕事場で息を引き取れば、それで本望だから」と鞭打ち、漆カンナだけではなく、包丁や鎌・鍬などの農器具をも作り続けるお姿には頭が下がります。後継者のいない中、材料の鋼(ハガネ)を打ち延ばす相棒は、40年前のご結婚以来「生きたハンマー」と自称される奥さんの和子さん(62歳)でしたが、町役場が募集した弟子の新岡恭治さん(39歳)が、昨年からこのハンマー叩きに加わり、ようやく技術継承の望みが出てきたところです。

中畑さんの漆カンナの評判

中畑さんがつくった漆カンナを使う漆掻き職人のお一人は「カンナがひとりでに舞いを踊っているみたい。舞うんです、私のカンナは。ほとんど自分の手と同じ、命の次に大事なもの」と話されています。

中畑さんの仕事ぶり

「とにかくお客さんが満足できるような道具を作れなければただの形の物を作っているにすぎないと思うし、使いやすい道具にともかく作りたい。これが自分のひとつの信念ですよね」と仕事に取り組んでおられます。

「自分が何気なくやっているんだけど、どこをテコにたたけばどこから今度曲がっていく、そういうあれをも覚えられないうちはなかなか思うように曲がらない」とのことです。

厚さ1ミリの鋼(ハガネ)を熱した色から温度と硬さを瞬時に判断して一気に曲げていきますが、無理に曲げるときずが入り、使えなくなってしまいます。うまく曲げられるようになるまで、15年かかったそうですが、最も難しいのは、漆カンナのクチを扇形にしてハネと本体を平行にするところのようです。

ハンマー叩きの相棒を務める和子さんからは「(緑内障で)だから目もあんまりよく見えていない、それでもうっすらと見えて、勘でしょうね。たぶん勘でやっているんだと思うけど・・・」とのことです。

技を伝える方針として

中畑さんは次のようにして、弟子の新岡恭治さんに技を伝えています。

見て覚えてほしいの。自分がやる気になれば、いろんなところに目配りがいってるのね。言われている時は、自分なんかもそうなんだけど、覚えたような気がするのね。言われてなんだかんだってやってる時っていうのは心(しん)からそれを覚えているような気がしないんだよね」中畑さん自身もまた父で師匠である長次郎さんから教えてもらったことはありません。

教えられたのでは身につかない。自分の目で見て、ひとりで考え続けてこそものにできる、というのが中畑さんの確信です。「自分が関わった物があれば、常に触って見ているはずです。自分のそれは鍛錬ですのでね。人の鍛錬ではなくて自分の鍛錬ですので。だからそれを惜しめば、普通の決まった物しか作らないっていうような感覚になるのかなと思いますよね

中畑さんの言葉

漆の業界の中で今自分が一番下の道具作りですよね。小さかろうがどうだろうが、その一個の歯車であると思うし、それを自分がどこまで全う、自分なりに全うするかですよね。またその、縁の下の力持ちみたいに陰にいても、せっせと自分の置かれたその仕事に精を出すのも、また、ひとつなのかなと思いますよね。使い手さんたちが使いやすい道具になればそれが一番。ともかくそこが最終的に目標ですよね。だからね、自分がつくっている道具には終わりっていうのはないと思います

プロフェッショナルとは、の問いに

自分らにすれば、これで行き着いたというのはないと思うのね。常に鍛錬、鍛錬で、自分は完璧にこなしているわけじゃないし。常に勉強させてもらっている状態なので、まだ自分としてはそういう段階にまではいってない感じ

(聞き違いなどありましたら、ご容赦のほどお願いいたします。会員№102 中村記)