錫100%の鋳物商品を製造販売する会社の社長

(本社:富山県高岡市)

投稿日: 2019/10/04 13:35:52

能作の能作克治社長

このページで以前掲載した「木工家具を製造販売する会社の社長」の記事のもとになった「カンブリア宮殿」という番組(テレビ東京、木曜日の夜10時から10時54分まで放送)の2019年9月12日には「能作」の能作克治社長が出演されています。

この会社は、世界で初めて錫100%の鋳物によって容器を作る技術を確立し、例えば、大小の穴を穿たれた板を自由に折り曲げて様々な形の入れ物にする「KAGO」と名付けられた商品は「NOUSAKU」ブランドの名品として海外でも高く評価されています。

番組では、この他、ビールを入れるタンブラーや酒を楽しむぐい呑み、サラダを盛る食器などが「ビールが一際美味しくなる」「お酒がまろやかになる」「料理が絶品になる」といった客の感想とともに紹介されています。

その後、放送では錫が柔らかく曲がりやすくて使いにくいので、銅と混ぜた青銅など、他の金属との合金として使われてきた歴史やKAGOがニューヨーク近代美術館のデザインストアでも扱われていること、さらに、能作の本拠地の高岡市について、400年にわたり鋳物の町として栄えたが、現在、往時の面影はないことなどの説明があります。


能作本社の現況

こうした状況にあって、2017年に完成した能作の本社は、商品の物販だけではなく、錫100%の食器に盛った料理を味わえるカフェレストラン、職人の鋳物づくりを間直にみられる見学、実際に錫100%製品をつくる実習体験などが評判を呼び、年間12万人が訪れる高岡市屈指の観光スポットになっているそうです。

能作社長は、この見学コースについて「最近、工場見学に行っても機械が人を使っているようにしか見えない。そうではなく、うちは手づくりでやっているので、人間が手でものづくりしているところを見てほしい」とおっしゃいます。


下請け脱却のきっかけ

1958年福井県生まれの能作社長は、大阪芸術大学を卒業して新聞社のカメラマンになりましたが、能作の一人娘と結婚したのを機に鋳造の道に入り、18年間職人として修業を積みました。その後、2002年に下請けの鋳物工場だった会社を引き継ぎ、ビジネスを一新させたのですが、そのきっかけになったのは、工場見学に来た母親が連れてきた子供に言った「あなたも勉強しなかったらあんな仕事に就くことになるのよ」という言葉でした。

能作社長はこの時、「本来なら誇りを持っていい産業なのにこんなことを言われるのはおかしい。若者が働きたくなるような仕事にしなければ、鋳物産業(イモノづくり)に未来はない。下請け仕事ではなく優れた自社製品を作ろう」と決意したそうです。


自社商品の開発経緯

そこで、大学で学んだデザインを生かして、ベルを作って売り始めましたが、当初、まったく売れず、苦労していたところ、売り場の店員から「このベル売れないけれど非常に音がきれいでスタイリッシュだ。能作さん風鈴にしたらどうですか」と言われました。その言葉通りに風鈴に変えると、3ヶ月で3000本、100倍の売上げになる大ヒットになり、「商品開発は実際に店舗で売る人の声を生かす方が間違いないと分かった」とのことです。そこで、必死に集めるようになった店員の声に「もっと身近な商品があるといいのですが」「身近なものは出来ないか」というものがあり、何がいいか聞いたら「食器が欲しい」と。食器に向いた金属は何かを追求し、行きついたのが衛生的によく、世界で誰もやっていない錫100%の鋳造でしたが、これを成し遂げるのは、大変だったようです。


錫100%の技術を公開

なぜなら、非常に柔らかい錫は、真鍮の鋳物のように型枠に流し込んで大まかな形にしてから削ったり磨いたりすることはできません。そこで、砂で精巧な鋳型を作り、溶かした錫を固まらないうちに手早く型に流し込み、冷えてから砂型を割って製品を取り出します。その後は、余分な箇所を削り取り、ふちを整えることしかできないので、作業がちょっと狂うと全部がダメになってしまうとのことです。製品の表面に残る砂模様は、まさに完成形を一気に鋳造する失敗できない職人技による錫100%の証なのです。

しかし、能作では鋳造ノウハウの固まりともいえる型を本社に展示するなどして錫100%の技術を公開していますが、司会の村上氏から「能作で錫の技術を独占しようとする気持ちはないのか」と問われて、社長は「一切ない。どんどん出す。それは高岡として使ってもらってみんなが高岡として潤うのが大事なことだと思っているし、うちの会社は、そのやり方を始めた人のさらに前を行けばいいという感覚です」との答えです。


デザインポリシー

こうして開発された錫100%による独自の美しい商品が能作を世界的なNOUSAKUブランドに進化させる原動力になったわけですが、これら商品の様々なデザインは「デザインは、面白みがあったほうが絶対いい。アイデアはすごく大事」と考えられる能作社長とロイヤリティー制で集められた多くのデザイナーによって生み出されています。

能作社長は自身の風鈴について「美しさと機能美のバランスは難しい。特にあの風鈴が難しい。デザイナーに風鈴を依頼すると目茶目茶かっこいい風鈴を考えてくるが、全然音がしない。僕のデザインは音を優先したデザインなので必ずいい音がする。僕のつくった風鈴が、音がきれいだと、風鈴売上げの50%(を占める)」とおっしゃいます。

また、デザイン料を一回で支払うのではなく、一個売れたら定価の3%を支払うロイヤリティー制について、能作に参加するデザイナーは「たくさん売れているとこれだけの人が買ってくれたと思うし(やりがいを感じる)。ロイヤリティー契約はいい」と話されています。


新しい取り組み

こうした錫100%の商品によって能作の売上げは2010年度の3億円から2018年度の14億円へと右肩上がりで急成長を遂げ、近年では本業の他に様々な構想の実現に取り組んでいます。例えば、高岡の鋳物を分業する研磨や着色などの職人たちが相互の技術を結集し、新しい商品を共同開発する「能作プレステージ」という活動の中心になっています。そこでは「今までにないこと、そういう場を与えてくれた能作さんには感謝している」という声が聞かれます。

また、能作社長は、新幹線のJR新高岡駅から見えるところに高岡出身の藤子・F・不二雄氏が描く「ドラえもん」の大仏を建てたいとの構想をお持ちです。インタビュアーの小池栄子さんの「ドラえもんの鋳物の像は実現しそうですか」に「実現したいと思っている。ドラえもんの15mぐらいの像を作って子供たちにドラえもんのポケットから外を見てほしいという夢があります」とお答えです。


伝統産業で重要なこと

さらに村上氏の「日本の貴重な資源だと思う全国にある伝統産業が生き残るためには、それをサバイバルしていくための必要なものは」との質問に「僕は、第三者的な視点を持ったコーディネーターがもっと活躍するべきと思っている。日本人は伝え方が下手なんですね。特に伝統産業に携わっている人は謙遜して『まだまだです』とか『これからです』という。でも、海外に行くと、大したことなくても『すごいだろ』という。その差は結構あると思っていて、自己表現というか、いかに伝えるということを重要に考えた方が、伝統産業も絶対いいと思う」とのことです。


「魔法のような柔らかさ」:村上龍さんのまとめ

この番組の最後に、編集後記という村上さんの感想をまとめるコーナーがありますが、さすが作家のお言葉なので、そのまま引用させていただきます。

錫100%の製品は柔らかで、研磨ができない。だからその表面に、独特の、微細な模様が生まれる。鋳型の細かい砂の痕だ。それが抽象画のように美しいテクスチャーを生む。しかも一粒一粒の砂の集積具合は鋳型によって違うので、同じ模様は存在しない。錫は主に合金として使われてきたが、能作は生き残りをかけ、錫100%に挑戦し、作り上げた。鋳造の奇跡だ。代表作「KAGO」は魔法のように繊細だった。感触は金属なので、一瞬「折れるかも」と思ってしまう。あんな柔らかさ、私は初めて体感した。

(聞き取った放送内容について前後を入れ替えて要約していますので、間違いや誤解などがありましたら、ご容赦のほど、お願いいたします。会員№102 中村記)