投稿日: 2016/08/03 23:12:19
2015年12月17日に放送されたテレビ東京の番組「世界で見つけたMade in Japan」では、千葉県船橋市にある医療機器メーカー、ニチオンの日本音叉研究所・NIPPON-ONSAで音叉をつくっている(製造工程の概要や音叉の種類などは、http://nition.jp/nippon_onsa.htmlでご覧いただけます)職人の方々が紹介されています。その中で、創業者の二代目で最終調整を担当する本田泰さん(職人歴59年、83歳)と音合わせを担当する中澤四郎さん(職人歴59年、75歳)による音叉の振動数(ヘルツ・Hz:1秒間に振動する回数)を極める仕事振りに驚きました。因みに、現在の音楽界では、世界的な標準音が440Hz(ラの音階)だそうで、お二人の耳による音合わせと最終調整によってつくられる音楽用の音叉にも440.0Hzの刻印が入っています。また、フィンランド・ヘルシンキの合唱指揮者であるパシィ・ヒュエッキさん(45歳)が首に下げている6センチぐらいのネックレス型音叉で音階を確認する様子は、私がこれまでに見たこともない映像でした。
パシィさんによる音叉の使い方と評価
「この大きな外国製より小さな日本製の方が(双方の音叉を並べて置きながら)大きい音を出すんです。日本製は軽く弾いただけで簡単に音が出ます。(音叉を耳元に持っていって)こうやって指で弾いて音を聞きます。ラの音が出るので、歌い始めがレの音であれば、ラから計算して、(パシィさん自らが)レを発声します。私が音を伝えたら、その音から(合唱団の)彼女たちは歌い始めるんです。(この音叉は)指揮者にとってなくてはならない必需品です」「日本製の音叉は、特にコンサートではとても重宝するんです。音叉を弾いて耳に持ってくる間もしっかり大きく鳴り響いているので、正確な音をはっきりと聞き取ることができるんです」
中澤さんによる音合わせの様子と作業についての説明
U字形に加工されたステンレス鋼の素材にバーナーの炎を噴射して、赤くなった色を見ながら1,000℃に加熱します。次に常温の油に入れて急冷し、固く(焼き入れ)します。それから、グラインダーで素材を少し研磨して、(耳元で)基準値(440Hz)の振動数を出す見本の音叉と一緒に鳴らして聞き比べ(音合わせをして)、音のうねりがなくなるまで繰り返します。「(周波数が)狂っていると、うねり(ワンワンという音:見本の音叉と2Hz違うと1秒間に2回のうねりが生じる計算になります)が出るんです。それをないようにしてるんです」測定機にかけてみると、この音合わせによって440.09Hzの音叉になっていることが分かります。
本田さんによる最終調整の様子と作業についての説明
ヤスリ跡が目立たない又の部分にヤスリをちょっとかけ、定盤(鉄板)の上に置いて冷やしてから見本の音叉と聞き比べるという作業を繰り返して、少しずつ基準値の振動数に近づけていきます。「わずかなヤスリがけでもヤスリと品物(素材)の間で摩擦熱が起こります。摩擦熱によって物体が膨張しますからね。それで(音が狂うので)この定盤の上で冷やしています」「出来る限り絶対値に近いモノをつくっていくということです」「だからもう自分との勝負なんですよ。自分が『まあいいか』という気になると、絶対できませんわ」測定機にかけてみると、この最終調整によって440.03Hzの音叉になっていることが分かります。
パシィさんによるニチオンの音叉づくりへのエール
「皆さんのモノづくりの様子を見せていただいて、本物の職人さんたちによって高い技術でつくられているということでとても感銘を受けました。この音叉は、私にとってかけがえのないとても大切なものです。私たちの合唱団のコンサートでこの素晴らしい音叉を使えることをとても誇りに思います。これは本当に最高の音叉です。これからも変わらずにつくり続けてくれることを願っています。皆さん本当にありがとう」
パシィさんのエールにたいする中澤さんの言葉
「やっぱりもっと良いものをつくらなきゃいけないと・・・」
パシィさんのエールにたいする本田さんの言葉
「こんな小さなものでも、世界中のどんな音叉よりも大きな音が出ると、長い音が続くということを言っていただいて、非常にうれしく思いました。ありがとうございました」
(聞き違いなどありましたら、ご容赦のほどお願いいたします。会員№102 中村記)