兵庫県美方郡のレコード針職人

投稿日: 2017/06/30 14:16:05

レコード針職人・森田耕太郎さん

2017年5月10日(水)に放送されたテレビ東京の夕方の番組、その名も「ゆうがたサテライト」でレコード針をつくる日本精機宝石工業(株)という会社とそこで働く森田耕太郎さん(職人歴50年、69歳)が紹介されています。この兵庫県美方郡にある会社のホームページ https://www.jico.co.jp/ には製品などが詳しく載っていますので、ご覧になっていただければと思います。

ソニー・ミュージックエンタテインメントが29年ぶりにレコードの自社生産を再開したことからも分かるように、ここへ来てレコードが復活しており、この会社のレコード針の生産もうなぎ上りで、2010年の9万9千本と比べて最近は年間20万本と倍増しているそうです。ただ、1982年、日本でCDの生産が始まり、レコード離れが進んだ頃は、100人ほどいた社員が60人に減るなど、会社にとって苦難の時代が続きました。

会社の浮き沈みを乗り越えてきた仲川和志社長は「10年前に買ったものと久しぶりに買ったものが“同じである”ことが我々の目指すところと思っている」「代が変わっても“変わらない音”と言われるのが最大の褒め言葉」とおっしゃいます。

ところで、この会社でつくっているレコード針には2,200もの種類があり、普及品は20代の作業者でもつくれますが、高音から低音まで忠実に再現するといわれる最高峰のSAS針となると、ベテランの職人でなければ無理のようです。40余りの部品でつくられるこの針の先端部は複雑な形状ですが 0.25mmしかなく、工程のすべてが顕微鏡を見ながらの熟練を要する手作業なので、第一人者の森田さんに頼らざるをえないというわけです。手づくりの逸品ともいえるこのSAS針の価格が1万2千円以上するのもうなずけます。

レコード針一筋50年の森田さんが今直面している課題は「もう、いずれ辞めていかなくてはならない。後継者を考えておかないと」とおっしゃるように、このSAS針づくりを目指す奥充男さん(34歳)の育成です。その指導は、奥さんが組み立てて「チェックお願いします」と手渡されたSAS針を森田さんが一つ一つ確認する最終検査を通して行われます。

この検査の要点は、針を支えるパイプの先端と針の先端とがずれていないことのようですが、森田さんが職場を去るその日まで、奥さんのSAS針のすべてが「これは大丈夫です」と言われるまで、二人三脚の地道な作業が続きます。

奥さんは「技術というのは、目で見て感じて実際にやってみて体で覚えてやっと身につくということだと思うので、森田さんもいつまでもいるわけでないので、その期間でどれだけ自分の中に(技術を)押し込められるかなと日々思いながら仕事をさせてもらっています」とおっしゃいます。

この放送によって、それまで単なる工業製品とみなしていたレコード針が「時代の波にさらされながらも、変わらないものをつくり続ける職人」によるものと知りましたが、そんなことにはかかわりなく、つくり手の思いを込めたレコード針は、今日もまた美しい音楽を奏でているのでしょう。

(放送内容を聞き取ってまとめましたので、間違いや誤解などありましたら、ご容赦のほどお願いいたします。会員№102 中村記)