本年度の入学者から本学部薬学科(6年制)の定員が40名から50名に増員され、薬科学科40名と合わせて薬学部としては1学年90名に拡充されました。これは53年前の昭和41年(1966年)に80名に増員されて以来の入学定員増という大きな出来事ですのでこれに至る経緯を簡単に記します。
2年前に私が研究院長を拝命した際に徳久学長から託された大きな課題は薬学部の将来構想、特に6年制学科と4年制学科の定員バランスとその方向性、の明確化でした。そこで、研究院長就任直後に薬学部の全教授と個別面談をおこない、この問題も含めて忌憚のない意見を伺いました。その結果、研究能力の高い先進的な6年制薬剤師教育と創薬などの研究者養成の4年制学科の双方を強く推進すべきという意見に一致していました。研究能力の高い薬剤師教育が国立大学薬学部には求められているという内外の状況や、関東において薬剤師免許のとれる国立大学の定員が千葉大(定員40名)と東大(定員8名)だけでは明らかに不足しているという社会的な要請を考慮すると、6年制学科の拡充が優先的な課題でした。しかし、そもそも入学定員増にはそのための‘定員資源’が必要ですし、また文科省の姿勢も国立大学の6年制学科の定員増には極めて慎重でした。
その中で、学内で学部定員減を検討している他学部があるとの情報が入りました。これは学内の‘定員資源’を活用する大きなチャンスでしたので、すぐに非公式に定員増に名乗りを上げ具体的な検討に入りました。同時に、文科省に対しても複数のチャネルを活用して接触し、いままでの本学部の取組や卓越性を理解して頂きました。さらに、卒業生を含む民間企業、研究機関、行政を含む公的機関、オープンキャンパスに来た保護者・高校生等(在学生については前年にアンケート済み)へのアンケートによる外部からの意見徴収も行いました。当然ながら、学部内においても様々なレベルで何度も議論、検討を重ねました。その結果、薬学科の定員を10名増やす(収容定員としては60名増)と共に、薬学科を2コース(薬学研究開発コース、先導医療薬学コース)に改組するという骨子が固まりました。
その後、約1年以上かけて、改組案の学部内での詳細な検討、大学内での説明、検討と調整、文科省への複数回の説明と意見交換、他大学を含む学外との調整などに奔走しました。その結果、私の任期終了直前の平成30年春に文科省からの概算要求事項として図のような改組案が認められ、平成31年4月入学者からの定員増が認められました。
国立大学の薬学部には4年制学科による創薬などの研究者養成と共に、高い研究能力を有する薬剤師免許取得者の養成が求められます。歴史的な経緯もあり、私立大学薬学部に比べて国立大学では6年制学科の定員が少なく設定されています。そのため、将来の薬学部教員として期待される優れた研究教育の見識を有する、国立大学を卒業した薬剤師免許取得者が不足する事態が危惧されています。また、医療行政や医薬品開発などで活躍する薬剤師免許取得者や、中核病院等での指導的な立場の薬剤師なども同時に求められています。今回の6年制薬学科定員増と2コース制への改組は、これらの社会的な要請に応えるものです。
特に、東大や京大の6年制学科の定員が極めて少数(東大は8名、京大は15名)に設定されている中で、日本全体の中での薬学分野の将来的な発展と、医療分野の中での薬剤師が果たす役割を考えると、千葉大学薬学部の立場とそれに課せられた使命は極めて重大です。私には、2006年に薬学部6年制が始まって以来この10〜20年は日本の薬学の140年の歴史の大きな転換点であるように思えます。全国の薬学部のなかでも最古の歴史を有する本学部は、薬学分野全体の発展を考え、未来を見据えた将来展望が必要であり、今は将来の発展への大きな好機であると思います。
学生定員数(正確には収容定員数、入学定員に修業年限を乗じた員数)は様々な資源配分の根拠になりますので学部の将来の発展にとっても極めて重要です。今回の定員増が今後の千葉大学薬学部の発展と、日本の薬学分野全体の前進に向けての大きな契機になればと思います。この改組を踏み台にして、本学部は先端的な強い薬学の基礎教育研究と薬剤師としての先進的な職能教育研究の両者を実現できると思います。
最後に、このような改組を実現するにあたり、多大なご協力、ご助言など頂きました、文科省関係者、学内関係者、学部内教員および事務部の皆様に感謝申し上げます。