研究室のOB, OGもそれぞれの方面で指導的な立場に立ち、ラボや研究グループ、チーム、プロジェクトや部、課を指導するリーダーになってきました。そこで、以下はこれ らのリーダーになった人たち、あるいはこれからなる人たちへのアドバイスです。以下、ラボと書いたところはどのような集団、組織に置き換えても通用すると思います。
ラボリーダーは、自由闊達で開放的かつ創造的な研究環境をラボ内に作り出し、ラボメンバーが自己実現(ラボあるいは研究生活における)を達成できることを目標として努力すべきです。
科学研究はフェアな「競走」であるべきであって「競争」ではありません。つまり、ラボ内外において他者が走っていることを妨害するような行為はしてはならない、という当たり前の原理が徹底されることによって、よいラボメンバーの雰囲気が維持されます。つまり、自由闊達で開放的かつ創造的な研究環境がもたらされます。
ラボメンバーは常にあなたを見ていることを自覚するべきです。また、その見方は一様ではなく、見る側の先入観やあなたへの期待は、その人の立場やその時の状況によってさまざまです。従って、リーダーはメンバーからどのような見方をされても対処できるように、自ら努力して常に高い見識と広い視野を持たなければなりません。
リーダーの気持ちは(明るい気分も暗い気分も)ラボメンバーにすぐに伝染します。従って、ラボメンバーと接するときは、常に明るい前向きな気持ち接するべきです。たとえ、その時自分が暗い気持ちだったとしても、自らを奮い立たせて強いて笑顔で接しなければなりません。明るい気持ちで接すれば、相手も明るい気分になり、それがこちらに返ってきてこちらも楽しくなりよい循環が生まれます。いわゆる「ついている人」はいずれも明るく前向きな人です。
「理」(ことわり)があれば人はみな従います。人間の脳はそういう仕組みになっています。健全な理をもってことにあたり、人にも接しましょう。道は拓けます。
強さではなく優しさで、恐怖心ではなく誇りで、人は動きます。
ラボリーダーは基本的にはPM理論(いくつかのバリエーションはあるにしても)にのっとるべきです。つまり、P機能 (Performance function:目標達成機能)とM機能(Maintenance function:集団維持機能)の両方にバランスよく気を使うPM型(生産性を求めつつ、集団の維持にも気を配る)を理想とするべきです。Pm型(P 型)(仕事に対しては厳しいが、グループのメンタルな維持には気を使わない)あるいはpM型(M型)(メンバーの面倒見はいいが、仕事では甘い面がある) はいずれも改善を要します。
この二つはラボを引っ張っていく上で情緒的に必要なものであり、リーダーの先天的な資質によるところも大きいですが、リーダー自身の日頃の努力(=自分自身への鼓舞)が必要です。
この二つはラボのパフォーマンスに関するものであり、ラボメンバーの研究方向に自信を与え、ラボに世界スタンダードの中での確固たる基盤を与えるものです。リーダーはラボメンバー以上に新しい知識の吸収が必要であり、先進的なビジョンの設定とメンバーへの不断の伝達が必要です。
この二つはラボのメインテナンスに関するものであり、共通目標をもった人間集団の健全な維持に最も基本的かつ不可欠な要素です。これ無くしてはラボの経営はなりえません。まずリーダーはこの点について努力すべきであり、長期的な成功には不可欠です。
リーダーは落ち着いた静かな立ち振る舞いの中で、明るい晴朗な雰囲気を持っていることが理想です。これは、ラボメンバーに安心感と信頼を与えると同時に、対外的にも必須な形質です。
100%満足できる環境はありえません。マイナス面ばかりに眼が行かず、自らの現状に80~90%の満足と10~20%の不満を持つことが、特にリーダーには肝要です。
自らもごくごく普通の健全な常識を尊重し、ラボ内でもごくごく普通の健全な常識が尊重されるべきです。そのためにはラボは出来るだけヘテロなメンバーで構成され(よりヘテロな集団にはより健全な常識が生まれます)、またラボ外との人の行き来など開放的な環境つくりが必要です。
当然ながら次の世代の人がラボから育っていきます。その場合、あなたに近くにいる人もいるだろうし、いろいろな意味で離れていく人もいます。しかし、それらの最終的な選択はもはや本人がするべきことです。その時にはラボリーダーはフェアな立場で善意の助言者として、その人のために真摯に出来る限りのことをすべきです。
リーダーとしての最大の喜びはラボメンバーが独立してそれぞれに自己実現している姿を目にすることです。新しい研究分野を切り拓き学界で大活躍の人もいるでしょう、小さなラボで小粒だが味の良い研究を継続している人もいるでしょう、研究を離れて別の仕事に就いている人もいるでしょう、あるいは家庭や地域などで貢献している人もいるでしょう。どのような形であれ、それぞれの人があなたのラボで過ごした時に得た経験や考え方(ミーム)を受け継いで生きている姿を見ることがラボリーダーの最大の喜びです。