30. 2018年 猪之鼻奨学会報

猪之鼻奨学会報 第22号 (2018年5月1日発行)から再掲載

43年前の不思議な奨学金の思い出

千葉大学大学院薬学研究院

前研究院長・教授 齊藤 和季

猪之鼻奨学会からは薬学研究院に所属する教員も毎年助成金等を頂いており、この場をお借りして関係者の皆様に深くお礼申し上げます。

私も東大の学部生、大学院生の時には奨学金のお世話になりました。当時の日本育英会奨学金が主なものでしたが、43年前の大学3年生の時には、今から思うと不思議な奨学金を1年間頂きました。その奨学金の原資は不明ですが、たしか月に3千円くらいで、毎月決まった日に当時の学部長の教授室に現金を受け取りに行くのです。多くの場合は秘書さんから頂くだけですが、昼休み時などに行きますと学部長先生と言葉を交わす機会もありました。学部3年生にとって学部長と個人的に世間話などをするのは特別な事でしたし、それを機に尊敬や憧れを持つようにもなりました。

そんな事もあり、私は卒業研究の研究室配属では3年生の時の学部長であった瀧澤武夫先生(私の先代教授は村越勇先生ですが、その先代の萩庭丈寿先生の同級同門生)の研究室に属しました。瀧澤先生は私が卒業の年に停年退職され、私も大学院は他の研究室に移りましたので、1年だけのお付き合いでしたが、私にとっては3年生の時から毎月教授室には伺わせて頂いており、謹厳な古武士のような雰囲気をもった先生に憧れを持っていました。いまから思いますとこの先生とのお付き合いが私の薬学研究者として原点にもなりました。

この不思議ないわば学部長特別奨学金は、当時でもそれほど大きな金額でもなく、たった1年の給付でしたが、今から思い出してみても、当時の先生方の表情も懐かしく思い出され、その後の私がたどった研究者としての道筋にも影響を与えました。お金だけではなくこの心温かな仕組みには、43年経た今でも感謝に堪えない思いです。私も千葉大学薬学部にも少額でも良いのでこのような仕組みを作れないものかと思っていますが、いまだに実現できていません。

奨学金は金額の多寡ももちろん大切ですが、その奨学金を通して受け取る側の若い方々と、奨学金を与える側の方々との間で、何かしらの心の通い合いが大切なのではないかと思います。少額であっても受け取った若い方々がその後の人生において、それを生き方の糧とできるような奨学金が理想的なのではと思います。

是非、多くの若い方々の将来にご支援を賜りますよう、今後とも猪之鼻奨学会にご協力をよろしくお願い申し上げます。