平成20年7月に筆者が組織委員長として開催する第5回国際植物メタボロミクス会議に対して、薬学研究奨励財団からご援助を賜りました。財団関係者のメタボロミクス研究に対する先見的なご理解とご厚情に対して深謝申し上げます。小文では、「メタボロミクス」とは何なのか、いまひとつイメージが掴めない方も多いかと思いますので、FAQ(しばしばされる質問と答え)形式で答えます。
Q1.メタボロミクスあるいはメタボロームの定義は?
ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクスと同じく、ゲノム配列解読以降の網羅的あるいは悉皆的な研究分野の一つで、細胞内の全代謝産物(メタボローム)に関する研究です。メタボロームは遺伝子発現に始まる細胞活動の最終的な表現型を最もよく表していると言われています。
Q2.実際はどんなことをするのですか?
メタボロミクスの内容は以下の3個の要素から成っています。つまり、質量分析装置やNMRによる網羅的な代謝物分析、データ解析ツールやデータベースに関するバイオインフォマティクス、新規なゲノム遺伝子機能の発見など他のゲノム科学との統合です。従って、これら異なる分野のトップレベルの研究者の連携や統合が必須であり、研究を進める上での大きなチャレンジです。
Q3.どのような成果が期待されるのですか?
新規遺伝子や新規代謝経路の発見など基礎的な研究への成果が期待されると同時に、応用面では医療方面では病態や治療のバイオマーカー発見、医薬開発や他成分系(生薬・漢方薬、機能性食品)などの解明、植物や微生物での有用物質生産や育種応用、GMO(遺伝子組み換え生物)の実質的同等性の評価、など幅広く成果が期待されます。
Q4.世界的に見てこの分野の日本の水準はどの程度ですか?
数年前から世界に先駆けてパイオニア的な二、三のグループがそれぞれ独立にメタボロミクス研究で世界をリードしており、それは引用回数など客観的な指標でも示されています(今回の国際会議の主催もそれが評価されての開催です)。しかし、欧米での国家的な戦略に基づく研究推進は質量とも勢いがありますます競争が激化しています。
Q5.植物分野でのメタボロミクス研究の特長は何ですか?
植物を食料、医薬原料、エネルギーなどして用いる有用性の根源は、植物の自立的で多様な物質生産能に起因します。従って、人類の健康増進、人口増加、地球温暖化や代替エネルギーなど将来の重要課題の解決には、植物の代謝機能の利用が不可欠であり、そのためメタボロミクス研究が欠かせません。
Q6.薬学はどのように寄与できますか?
薬学には諸先輩が築き上げた植物化学、天然物化学、分析化学、物質生化学などの強い伝統があります。これらのお家芸を新興のバイオインフォマティクス、ゲノム生物学と融合することによりメタボロミクスを最も先進的に行う事ができます。医療、医薬、植物、微生物などメタボロミクスが関係するすべての領域で、多くの薬学出身者の活躍が期待されています。