現職員: 教授 齊藤和季,准教授 山崎真巳,助教 吉本尚子
研究室のあゆみ
昭和60年代から生薬学研究室(主任:村越勇教授、現千葉大学名誉教授)では、従来からの伝統的な生薬学、植物化学・生化学、未開拓薬用資源開発に加え、先鋭的な植物分子遺伝学およびバイオテクノロジーの研究が始まっていた。これらの新しい学問潮流をもとに、当研究室は生薬学研究室をその基盤として平成6年(1994年)6月に薬学部附属薬用資源教育研究センターの設立と同時に誕生した。発足時は、村越勇教授(生薬学研究室から配置換、同研究室教授を兼任)、齊藤和季助教授(生薬学研究室から配置換)、山崎真巳助手(生薬学研究室教務職員から昇任)の陣容でスタートした。新設の薬用資源教育研究センターには当研究室の他に生体機能性分子研究室、薬用植物研究室が配置され、村越教授が主宰していた生薬学研究室および薬用植物園の教育、研究活動はセンター所属の当研究室と薬用植物研究室に実質的に移管した。従って、研究室スペース、所属学生等も生薬学研究室から引き継いだ。翌平成7年(1995年)、3月に村越教授が定年退職され、同年4月齊藤が教授に昇任した。さらに同年7月山崎が講師(のち助教授)に昇任し、9月野路征昭が理化学研究所研究員から助手に採用され、研究室スタッフの陣容が整った。その後、平成13年4月からは大学院拠点化に伴い大学院薬学研究院環境生命科学研究部門 ゲノム機能学講座 遺伝子資源応用研究室となった。平成19年3月に野路は徳島文理大学 生薬研究所 准教授として栄転し、同年6月に吉本尚子が理化学研究所研究員から助教に採用され現在に至っている。この間、ポスドク17名、博士課程修了学位取得者24名、修士課程修了者68名、卒論実習生92名、研究生および論文博士取得者24名を輩出した。これらの研究室同窓生は、学界、官界、産業界、医療現場などで幅広く活躍している。
この全国的にも極めてユニークな研究室の目的を設立当時から以下のように設定した。すなわち、ゲノム科学・ポストゲノム科学や分子生物学・バイオテクノロジーの進歩を基礎として、(1)薬用資源植物における物質生産をはじめとする有用遺伝形質をゲノム遺伝子レベルで解明し、(2)この知見をもとに有用な形質を有する植物を見出し、有用な遺伝子を同定し、遺伝子組換えなどのバイオテクノロジーにより新たな形質を有する植物を作出することである。研究遂行上の基本的な姿勢として、薬用という立脚点を見失わず、かつ近視眼的な薬用にとどまらず、より一般性のあるスタンダードの高い研究を目指している。
これらの研究を進める上で、研究室教員はいくつかの大型研究プロジェクトに参加した。文部科学省・科学研究費補助金の重点領域研究、特定領域研究、新学術領域研究への研究代表者、分担研究者としての参画、日本学術振興会・未来開拓研究推進事業コアメンバー、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業への研究代表者、分担研究者としての参画などが主なものである。その結果、2004年、2005年に出版した統合オミクスに関する2編の論文が翌年の植物バイオテクノロジー分野の被引用件数世界第一位論文にランクされるなど輝かしい成果を生み出した。
さらに、教室員は公的な研究社会活動にも積極的に取り組み、主なものを挙げれば、齊藤が日本植物細胞分子生物学会会長、理化学研究所植物科学研究センター副センター長、同グループディレクター、科学技術振興機構さきがけ研究領域アドバイザー、日本学術振興会学術システム研究センター研究員、山崎が文部科学省学術調査官などを歴任した。また、多くの国内外の学会、研究会を開催した。主催した主な国際会議は、日独セミナー植物二次代謝の分子制御(2004年9月)、第6回国際植物硫黄代謝ワークショップ(2005年5月)、第5回国際植物メタボロミクス会議(2008年7月)などがある。
また、教室員はいくつかの学会賞等受賞の栄誉に輝き、その主なものは、平成5年日本薬学会奨励賞(齊藤)、平成12年日本植物細胞分子生物学会奨励賞(山崎)、平成13年日本薬学会奨励賞(山崎)、平成14年日本植物細胞分子生物学会奨励賞(野路)、平成22年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)(齊藤)、平成22年日本生薬学会学術貢献賞(山崎)などがあげられる。
研究室の現状と将来展望
現在、研究を進めるうえの基本的戦略として、植物からの有用物質生産に関わる遺伝子の同定およびクローニング、ゲノム遺伝子の発現解析と機能同定(ファンクショナルゲノミクス)とそれらのエンジニアリングを設定している。そのために、モデル植物シロイヌナズナや薬用植物を用いてトランスクリプトミクス、メタボロミクスなどの統合オミクス解析のプラットフォーム構築と、それを基盤とする先端的なゲノム機能同定、ポストゲノム科学的な展開を進めている。将来的には有用物質生産のシステム生物学の実現をも目指している。また、エンジニアリングは、最終的には“人の健康の役に立つ”植物をつくることを目指している。現在、行われている研究テーマを列挙すれば以下の通りである。
(1)植物メタボロミクスの開発と統合オミクス科学への展開
(2)高等植物の含硫黄代謝産物生合成の機構と制御のポストゲノム科学
(3)薬用資源植物におけるアントシアニン生合成系の分子制御機構
(4)マメ科植物に含有されるキノリチジンアルカロイド生合成の分子生物学とエンジニアリング
(5)抗癌性アルカロイド、カンプトテシン生合成の分子生物学とエンジニアリング
(6)生薬と漢方のメタボロミクスおよび情報科学的解析
植物が有する有用物質生産機能は、医薬品としてだけでなく食料、工業・エネルギー原料として人類の根幹を支えている。この植物の生産機能を分子レベルで解明し役立てる研究と教育は今後ますます重要になると考えられ、研究室の将来展望もその重要性を見据えている。
教職員の変遷
氏名 職名 在職期間 備考
村越 勇 教授(生薬学のち遺伝子資源応用学)
昭和57.4〜平成7.3 定年退職
齊藤 和季 助手(生薬学) 昭和60.4〜平成2.7
講師(生薬学) 平成2.7~平成5.5
助教授(生薬学のち遺伝子資源応用学)
平成5.5〜平成7.3
教授 平成7.4~
関根 利一 助手(生薬学) 昭和61.4〜平成11.3 放射性薬品化学へ
山崎 真巳 教務職員(生薬学) 平成4.4~平成6.6
助手 平成6.6~平成7.7
講師 平成7.7~平成12.5
助教授 平成12.5〜平成19.3
准教授 平成19.4~
野路 征昭 助手 平成7.9~平成19.3 退職(徳島文理大学薬学部准教授へ)
吉本 尚子 助教 平成19.6~