02. 1990年植物組織培養

(談話室) Neonatal Imprinting

植物組織培養 7(2) 130(1990)から引用、再掲載


Neonatal imprinting (新生児刷り込み)という術語を動物の行動学、生理学の方面で使う。純粋無垢の新生児にある刺激を与えて imprinting (刷り込み)することであり、その新生児は一生刷込まれた情報を基範にして生きていく。カモのヒナに母親のイミテーションをあてがうと、イミテーションを一生母親として慕うようになる現象がこれである。

研究者にとっての neonatal は、大学を卒業して大学院の修上課程で研究をはじめて開始した時であろう。この時期に得た科学や研究に対する基本的な考え方や態度は、生まれたばかりの研究者のその後の研究生活全体にとって最も重要な neonatal imprinting となる。たとえその研究者が、大学院修了後まったくちがった他の研究分野についたとしても実験科学に従事している限りは、自ら意識するしないにかかわらず最初の研究で得たneonatal imprinting が常に研究生活の底流として流れ大きな判断の基凖となる。筆者は現在まで植物一本やりで来たわけでもなく、学部卒論時の有機化学から生化学と歩き、対象生物も微生物、動物なども扱ってきたが、大学院初期2~3年の間に得た研究に対する neonatal imprinting を時折深層に感ずることがある。

現在、研究者のたまごか新生児くらいの人たちと一緒に仕事をしていると、彼らへの neonatal imprintingの責任の重大さを思い身がひきしまることがある。特に科学や研究に対する考え方はすくなくとも超一流でかつ純粋でなければならないと思う。それは科学研究のどの分野に行っても普遍的であり、また国際的な基凖でもあるからだ。

同じく大学の研究室に属する筆者の親しい友人は、大学や大学院を揶揄して「風俗営業」と論破したことがある。一定料金を払い、一定期間内に満足して出ていただくという意であるが、筆者自身おもわずうなずいてしまった経験がある。しかし、筆者の知るかぎり事態はそれほど miserable ではない。研究アドパイザーが真剣に imprint しようとすれば新生児であるだけに強力なimprinting をすることができる。研究アドバイザーは毎日緊張したアジテーションの連続であり、研究新生児に対する neonatal imprinting の責任ははかり知れないほど重大である。

(Gueuze)