ある日の午後研究室の学生談話室で。
A君「二次代謝は植物にとってどんな意味をもってるんだろうね」
B君「それはかなり古くからの問題で、いまだ100%の解答を得ていないんじゃないかな。かつては二次代謝産物っていうのはそれを生産する生物の生存は直接関係なくて、一次代謝で生合成された糖やアミ酸が余って代謝 flux からあふれ出た物質の貯蔵形態もしくは老廃物と考えられていた時もある」
A君「たしか講義でそういう説明も聞いた気がする。しかし、現代的にはどう捉えたらいいんだろう。それを生産する植物個体と他の同種および異種植物との相互作用物質、あるいは植物と動物、昆虫、微生物などとの相互作用物質とも考えられているよね」
B君「allelopathy 物質という意味だね。ある人の定義によれば二次代謝物とは、他の種の生物の生態を制御するような非栄養的な化学物質とされている。しかし最近では例えばフラボノイドが、根粒形成やオーキシンの輸送に必要だとか、花粉の形成に不可欠だとかいう話もある。そうなると二次代謝と一次代謝の区別もあやしくなってくる」
A君「たしかにそうも思える。しかし、古典的な考え方つまり余剰産物の蓄積形態という見方も一面では正しいのではないかな。炭素源や窒素源のストックという意味だって当然あると思う」
B君「勿論その意味もあると思う。だけどここで問題なのは一度生合成された二次代謝物が細胞の中でどのように蓄積されてその後どのように分解再利用されているかについてほとんど詳しい研究がなされていないということだと思う。研究者は研究費のとり易さもあって役に立つ物質の生産や生合成の研究ばかり力を入れてきた」
A君「ところで二次代謝物の役割とは別に興味をそそる問題は、それぞれの二次代謝系はどのような起源をもちどのように進化してきたかという問題だよね」
B君「一般にフランス人は限られたデータから自分の世界観や概念を作るのが上手だよね。あるフランス人のセミナーで聞いたんだけど、放線菌の抗生物質、これはいろいろな構造をもった二次代謝物と考えられるよね。それぞれの抗生物質の生物活性の作用点を考えるとみんな基本的な一次代謝それも核酸合成だとかタンパク合成だとかのごく基本的な生化学反応を作用点としている。従って、かつてこれらの抗生物質はたとえば核酸合成系だとかタンパク合成系を構成する machinery の一部あるいはそれ自身だったと考えられる。それがその後高分子の酵素タンパクにとってかわられたという話しを聞いたことがある」
A君「たぶんそうかもしれないね。すると植物二次代謝物も同じかもしれない。いずれにせよ二次代謝の遺伝子レベルでの理解がこれらの問いに対する解答に近づく道だということにかわりはないと思うよ」
(Kriek)