24. 2016年 日本生薬学会 会長挨拶

会長挨拶

今年度の日本生薬学会の会長を務めさせて頂くことになりました。伝統ある本学会の発展のため、微力ながらできる限り力を尽くしたいと思いますのでどうぞよろしくお願い申し上げます。

超高齢化と少子化社会の到来など、社会情勢が目まぐるしく変化する中で生薬を取り巻く環境も大きく変化しています。漢方医学の臨床的な有効性に対する評価・再評価が進むとともに、超高齢化時代を迎えるわが国の医療を支える鍵として植物由来の生薬や漢方には大きな期待が寄せられています。わが国において生薬や漢方医療を将来にわたって発展させるためには、生薬原料の供給を中国など海外依存から脱却することも不可欠であることが認識され、生薬の国産化に向けた官民をあげた努力も始まっています。同時に、優良生薬の安定供給や新規生薬の開発に直結する薬用資源植物のゲノムレベルでの基盤的な研究にも期待が寄せられています。

また、生物多様性の遺伝資源に関する名古屋議定書により、多様な薬用植物資源の確保とそこからの生物活性化合物やエキス製剤の開発は我が国の将来にとって極めて重要な問題です。昨年のノーベル生理医学賞に代表されるように、新規活性化合物の単離と医薬開発やその生産遺伝子の同定によって、飛躍的に高齢化社会での健康寿命の延伸という人類の福祉に貢献することが出来ます。また、既存の生薬や漢方処方のリポジショニングやボタニカルプロダクト(植物エキス医薬品)開発などは、植物由来製剤によるセルフメディケーションの普及とともに、高齢者の健康に資するばかりでなく、国民医療費の削減にも直結します。

教育面に目を向けますと、新しい薬学教育制度のもとで、創薬資源であると同時に現代医療の第一線で用いられている生薬や漢方処方を正しく理解し、適正に取り扱うことのできる人材を養成することも重要な課題となっています。

生薬学という言葉のもとになった英語Pharmacognosyの字義通りの意味は、「薬の知識学」です。これは生薬学が天然資源を薬という観点から一貫的に捉える伝統的でユニークな総合科学であることを端的に示しています。この生薬学の様々な分野の専門家・研究者・教育者によって構成される日本生薬学会は、年会、各支部活動、学会誌の刊行、漢方薬・生薬認定薬剤師研修等を通して、これらの課題と社会の要請に答えていくことが求められています。

会員各位からのご支援やご意見が本学会の発展に不可欠です。皆様の年会へのご参加、学会誌への積極的なご投稿、理事会や会長へのご助言、ご提言をお待ちしております。

2016年度 日本生薬学会会長

齊藤 和季