10. 1996年植物組織培養

《研究室紹介》

千葉大学薬学部薬用資源教育研究センター

植物組織培養 13(3) 358(1996)から引用、再掲載


平成6年6月、千葉大学薬学部に「薬用資源教育研究センター」が設置された。この全国的にもユニークな本センター設置の大きな目的は、最近のバイオサイエンスの発展を基礎として、従来の薬用資源の教育研究とは質的にも異なった新しい先端的な研究戦略と手法によって、天然薬用資源を遺伝子レベル、分子レベルで解明し、21世紀の医薬品開発に応用しようとするものである。

この目的達成のために本センターは、「遺伝子資源応用研究室」と「生体機能性分子研究室」の2研究室と薬用植物園で構成されている。これらの研究室は有機的に連携しあいながら、未開拓天然資源の探索・確保・保存、遺伝子レベルでの天然資源物質の生産の解明とトランスジェニック植物などによる遺伝子操作、天然由来の生体機能性分子の構造、デザインと合成、活性評価、という一連の薬用資源開発の流れに沿って先鋭的な教育研究を進めている。このような研究の方向性は既にセンター設置の基礎となった千葉大学薬学部の研究グループのなかに数年以上前から萌芽しており、今後も東南アジア、欧米諸外国や製薬企業などの関連する学部内外の研究グループとの連携のなかで発展される。本センターの研究、教育の特色の一つは、このような学部内外との幅広い共同研究の推進にあるといえる。以下、各研究グループの内容を紹介する。

遺伝子資源応用研究室(斉藤和季教授、山崎真巳講師、 野路征昭助手)では、「高等植物における有用一次・二次代謝産物生合成の分子生物学的基盤の解明とそれに基づく人為的制御」を中心課題として研究を進めている。特に、システインをはじめとする含硫黄代謝産物生合成に関する遺伝子のクローニングとそのエンジニアリングに力を入れている。また、トランスジェニック薬用植物の作出や薬用植物のDNAレベルでの性格付け、制御遺伝子の単離などにも取り組んでいる。さらに、マメ科植物のキノリチジンアルカロイドの生合成に関する生化学的・分子生物学的研究も遂行している。

生体機能性分子研究室(相見則郎教授、高山廣光助教授、北島満理子助手)では、天然物有機化学をバックグラウンドとして、1)生態系薬用資源植物を対象とする創薬素材分子の追求、2)生体機能性分子の分子設計と化学合成、3)培養細胞による生体機能分子の生産、を中心課題として研究を進めている。具体的にはアカネ科の資源植物からの創薬シード分子の単離、構造決定、ゲルセミウムアルカロイド類やカンプトテシン類の合成研究、アカネ科チャボイナモリの培養系での物質生産などの研究が進行している。

薬用植物園担当の池上文雄助教授のグループでは、薬用資源学の教育、研究における資源植物の栽培、供給を実践している他、高等植物由来の神経毒成分の化学的、生化学的研究や東南アジア民間薬草の生理活性物質の探索と利用に関する研究も遂行している。

このようにセンターが目指す研究と教育は、あたらしい世代の医薬品開発に貢献するばかりでなく、地球的規模での環境破壊の中で21世紀の人類にとって大きな命題である「生物多様性の保全」にも大きく寄与することにもなる。本センターはこのような大きな視野のなかで高い理想に向かって前進していくつもりである。