私は平成3年度の研究助成金をいただきました。私の研究内容は、薬用植物から有用物質生合成にかかわる遺伝子をクローニングして生合成の遺伝子レベルでの理解をする事と、それをエンジニアして有用物質生産に役立てることです。古い伝統に培われた植物天然物化学と新興勢力である植物の分子遺伝学を合流させて新しい分野を開拓して行きたいと努力しています。
私は大学院時代から生化学的な訓練も受けましたがもともと天然物化学の研究室で育ち、伝統的な天然物化学における価値基準を研究者としてインプリントされました。従って、独創性が高くよい研究というのは、まず世界の誰もが手にしていない新しいカテゴリーに属する物質を単離し、その構造を決定することから始まるものだと思っています。いま私は新しい遺伝子の単離、構造決定をしていますが、いまだに天然物化学という大きな山系の中をワンダーリングしている気がします。
ところで遺伝子のクローニングをやっていますと、複数の研究者が同時期に同じアイデアを持っていた場合、より多くの研究費と人手を得た方はそれらが少ない研究者に比べて、わずか2、3年の間に非常に大きな差を開いてしまいます。それが現代のサイエンスの現状でもあります。しかし、2、3年で差が開いたように見えてもっと長期的な10年20年のスパンでながめると、結局それぞれの研究者自身が持つスタンダードの中でしか研究をしていないように思います。結局、満足のいく仕事をするためには、まず高いスタンダードを自らに課し、そして研究費があれば良いということになると思います。また逆に研究費を得たときは自らのスタンダードを一段上げるいいチャンスだと思います。その意味で今回の助成に深く感謝いたします。