現代の科学はいろいろな分野で先鋭化しており、少なくとも最新の知見をそれぞれの分野で
啓蒙書あるいは入門書程度でも知るように努めなくてはバランスのとれた「総合知」に近づく
ことは難しい。
科学に対する批判的見解としてよく聞く「科学の先端分野ではまだ分からないことが多すぎ
て、まだまだとても信頼のおけるものではない」とか、「科学も理論の積み上げで成り立って
いるが、その根底はやはり科学信仰なのだから宗教と同じこと」などという趣旨の言説は科学
に対する「いいがかり」であると思う。
たとえばキリストの時代から2000年。試行錯誤を重ねることによって人類は科学的方法論を
見出し、そのルールに従って英知を集めた結果として、知識はこのように宇宙を、この世界を
理解するまでになった。
たしかにひとりひとりの人間の生涯は2000年前と変ることなく同じように生まれてきては学
び、恋をし、結婚をし、子供を育て、やがて老いて、貧しくて、病気になって、悩み、苦しみ
そして死んでゆく。極論すればこの世へのINとOUTの収支を見るかぎりそこに何ら進歩はない。
しかし人間の世界に対する認識ははるかに精緻になっているのだ。そしていま、土(物質)
から生まれたホモ・サピエンスは進化の果てに、土に還るまでのわずかな時間に「宇宙」を理
解しようとしているのだ。物質が物質と空間を理解する。もっとミクロに見れば波動が波動を
もって波動を解釈するときが来たのだ。
私は科学を信頼する、それは何のドグマにも侵されることなく、批判に対して寛容であり、
より蓋然性の高い新しい理論を認めることに対して潔いからだ。そしてそれは「総合知」の備
えるべき必須の条件だからだ。哲学や宗教はこの新しい宇宙論にどのように適応するのであろ
うか? あるいは無視するのか? うそにうそを重ねたような、2000年も前の古くて重すぎる
衣装は早く脱ぎ捨てないかぎり真実への道は遠くなるばかりだろう。そのためにも、本書のよ
うな優れた啓蒙書をあらゆる分野のエキスパートの方々にも期待したいと思う。
*この点に関してはカトリック教会に喜ばしい動きがあることを記しておきたい。
「ごくごく最近まで、(中南米の)現地の人たちが、司祭になるのも認めていませんでした。
西洋文明の、優越感も働いていたのですね。
亡くなられた教皇ヨハネ・パウロ二世は、そのことについて大変な過ちを犯したといって、
謝罪しました。そのとき教皇が、カトリック教会の過ちとして指摘したものは、十字軍、
異端審問、プロテスタントとの分裂の原因ともなった、高位の聖職者たちの腐敗堕落、そ
して、いまおっしゃった、中南米やアフリカへの植民地主義と結びついた宣教活動等です。
ほかにも、ガリレオ・ガリレイの宗教裁判に象徴される、自然科学への弾圧、そしてナチ
のユダヤ人弾圧に対して、沈黙していたキリスト教会の態度を自己批判して、謝罪しまし
た。」-カトリック司教:森 一弘(角川文庫「神の発見」五木寛之・対話者 森 一弘)
書 名:宇宙は何でできているのか ー素粒子物理学で解く宇宙の謎ー
発 行:幻冬舎新書 187 定価(本体800円+税)
著 者:村山 斉(Murayama Hitoshi)
著者略歴:1964年生まれ。
86年、東京大学卒業。91年、同大学大学院博士課程修了。
専門は素粒子物理学。東北大学助手等を経て2000年より
カリフォルニア大学バークレイ校教授。02年、西宮湯川記念賞受賞。
07年、文部科学省が世界のトップレベルの研究拠点として発足させた
東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の初代機構長に就任。
主な研究テーマは超対称性理論、ニュートリノ、初期宇宙、
加速実験の現象論など。世界第一線級の科学者と協調して
宇宙研究を進めるとともに、研究成果を社会に還元するために、
市民講座や科学教室などで積極的に公演活動を行っている。
表紙のことば:物質を作る最小単位の粒子である素粒子。誕生直後の宇宙は、素粒子が原子に
ならない状態でバラバラに飛び交う、高温高圧の火の玉だった。だから、素粒子の
種類や素粒子に働く力の法則が分かれば宇宙の成り立ちが分かるし、逆に、宇宙の
現象を観測することで素粒子の謎も明らかになる。
本書は、素粒子物理学の基本中の基本をやさしくかみくだきながら、「宇宙はどう
始まったのか」「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」と
いう人類永遠の疑問に挑む、限りなく小さくて大きな物語。
帯の記述:すべての星と原子を足しても宇宙全体の重さのほんの4%。では残り96%は何か?
10^-32メートルの極小世界から10^27メートルの極大世界への旅
□宇宙の質量の23%は「暗黒物質」、73%は「暗黒エネルギー」
□誕生直後の宇宙の状態をつくりだすタイムマシンが実在する!
□素粒子ニュートリノは毎秒何十兆個も私たちの体を通り抜けている
□3つの色が付いている?単独では取り出せない?不可思議な素粒子クォーク
□「素粒子には3つの世代がある」と予言した小林・益川理論
□人間になぜ左利きより右利きが多いかを説明した南部理論
新聞広告:(2010/10/29読売新聞)
宇宙は何でできているのか 10万部突破!
この宇宙に存在する「私」とは何なのか。生と死の根源に迫るロマンあふれる物語!
宇宙はどうやって始まったのだろう?
遠くに見える星は、何でできているのだろう?
どうして、私たちはこの宇宙にいるのだろう?
宇宙は、これからどうなっていくのだろう?
だれもが一度は抱く素朴な疑問。
こうした疑問はかつては哲学者たちのテーマでした。
しかしこの十数年間にテクノロジーが飛躍的に進歩し、「科学の力」は、その謎を
解き明かすのにあと一歩というところまで来ています。
謎解きの鍵を握るのが、原子よりもさらに小さい、物質の最小単位である「素粒子」です。
現代の素粒子物理学は、専門化にしか意味がない狭い学問ではなく、一人一人の人生や
生活と深いところでつながっています。本書では「素粒子」の世界をやさしくひもとき、
最新の宇宙理論を紹介しながら、人類永遠の疑問にお答えしていきます。
●原子全体が野球場だとすると、原子核は野球ボールの大きさ。それよりさらに小さいの
が素粒子
●目に見える星やガスを全部集めても、宇宙全体の重さの4%にしかならない
●残り96%のうち23%は正体不明の「暗黒物質」。73%はさらに得体が知れない「暗黒エ
ネルギー」
●誕生直後の宇宙は、素粒子が飛び交う、高温高圧の火の玉だった
●私たちの体は超新星爆発の星くずでできている
●素粒子ニュートリノは毎秒何十兆個も私たちの体を通り抜けている
●ノーベル賞を受賞した南部理論は、人間になぜ左利きより右利きが多いかを解明した!?
「どえらく面白い。わかりやすい。湯川、小柴、南部、小林、益川らノーベル賞受賞者が
大勢登場。その活躍がよくわかる。今こそ必読」-コラムニスト・勝谷誠彦氏
「今年のポピュラーサイエンス部門No.1! 最も競争が激しい分野で、ここまで笑えてかつ
センス・オブ・ワンダーを刺激する本は初めて」-αブロガー・小飼 弾氏
「著者はこの分野の若手スターであると同時に、その語り口に魅せられたファンも多い。
本書ではウィットに富んだ村山節が各所にみられる」-東京大学大学院准教授・横山広美氏
*本書の印税は東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)に寄付され、宇宙への根源的な疑問を
解明するための活動資金にあてられます。