およそ1年半前(2008年11月)に退職して、形の上では自由の身となった。当座はいろい
ろな手続などあり、また、初めての確定申告などもしなければならず、バタバタとした毎
日が続いたが、やがてハローワークとも縁が切れ静かな日々が訪れた。
働いていたころからこのような日々を送るのがあこがれであった。音楽を聴き読書をす
る。ただそれだけの毎日である。読むべき本は近くの県立図書館、市民図書館を利用すれ
ばほぼ無尽蔵にある。このような中で、一冊の運命的な本と出会った。
荒井献(あらいささぐ)の「イエスと出会う」という本であった。学生時代から当時の
松尾校長の講話によってキリスト教にシンパシーを感じていたから、キリスト教というも
のに興味があった。クリスチャンとして知られていた当時の電気工学科の助教授であった
渡辺先生に、卒業式の日に最後だからと、科学者としてはキリスト教の奇蹟をどのように
解釈しているのかを尋ねるために自宅へ何人かで押しかけたことがあったぐらいだ。
「イエスと出会う」には荒井献の奇跡に対する解釈が示されている。イエスの行った奇
跡は病人などの病を治す治癒奇跡と水の上を歩くなどの自然奇跡があり、イエスが行った
かもしれない、ちょっとした治療行為が治癒奇跡として大きく喧伝され、また、そのよう
なイエスであれば、水の上も歩けるに違いない、嵐も鎮めるに違いあるまいと自然奇跡の
ほうにも、それらが物語化され尾ひれがついていったものであろうと説明されている。あ
まりずばりと核心を突かず歯切れの悪い回答なのだが、はるか30年前の学生の頃の自分
の疑問が、クリスチャンであり、東大教授でもある荒井献によって僅かながらも解明の緒
が見つかったと感じた。以降この本によって知った「イエスとその時代」(荒井献)、「
イエスという男」(田川建三)などを読むようになり、新約聖書学という学問分野がある
ということを知った。
それ以来、田川建三は病みつきになってしまった。一方、荒井献の方は、立派な全集を
出し、東大閥のお弟子さんたちを総動員してたくさんの本を出版しているのだが、「イエ
スとその時代」におけるクリスチャンにあるまじき盗作騒動のこともあって浮薄な気がし
て読む気になれない。この辺のいきさつは「宗教とは何か(上)ー宗教批判をめぐる」(
田川建三)に詳しく出ている。
この分野で、その後に読んだ本、読みかけの本も合わせてリストにしてみると以下のよ
うになった。
○イエスという男 田川 建三 (2004-06)
○キリスト教思想への招待 田川 建三 (2004-03)
○宗教批判をめぐる―宗教とは何か〈上〉 (洋泉社MC新書) 田川 建三 (2006-05)
○マタイ福音書によせて―宗教とは何か〈下〉 (洋泉社MC新書) 田川 建三 (2006-07)
○批判的主体の形成[増補改訂版] (洋泉社MC新書) 田川 建三 (2009-11-06)
○書物としての新約聖書 田川 建三 (1997-02)
○新約聖書 訳と註〈1〉マルコ福音書/マタイ福音書 田川建三 (2008-07-04)
○新約聖書 訳と註〈3〉パウロ書簡(その1) 田川 建三 (2007-07)
○新約聖書 訳と註〈4〉パウロ書簡 その二/擬似パウロ書簡 田川建三 (2009-07-18)
○ユダとは誰か―原始キリスト教と『ユダの福音書』の中のユダ 荒井 献 (2007-06)
○イエスと出会う 荒井 献 (2005-02)
○問いかけるイエス―福音書をどう読み解くか 荒井 献 (1994-03)
○イエスとはなにか 荒井 献,岡井 隆,礒山 雅,吉本 隆明,木下 長宏 (2005-02)
○荒井献著作集〈1〉イエス その言葉と業 荒井 献 (2001-12)
○荒井献著作集〈2〉イエス・キリストと現代 荒井 献 (2002-01)
○イエスという経験 大貫 隆 (2003-10-25)
○描かれなかった十字架―初期キリスト教の光と闇 秦 剛平 (2005-05)
○乗っ取られた聖書 (学術選書) 秦 剛平 (2006-12)
○ユダの福音書を追え ハーバート・クロスニー (2006-04-29)
○バラバ (岩波文庫 赤 757-1) ラーゲルクヴィスト (1974-12)
○ユダヤ古代誌〈1〉旧約時代篇(1?4巻) (ちくま学芸文庫) フラウィウス ヨセフス (1999-10)
○ユダヤ戦記〈1〉 (ちくま学芸文庫) フラウィウス ヨセフス (2002-02)
○ユダヤ戦記〈2〉 (ちくま学芸文庫) フラウィウス ヨセフス (2002-03)
○ユダヤ戦記〈3〉 (ちくま学芸文庫) フラウィウス ヨセフス (2002-04)
○聖骸布の男 あなたはイエス・キリスト、ですか? (2007-06-15)
○イエス・キリスト 聖骸布の陰謀 ホルガー ケルシュテン,エルマー・R. グルーバー (1998-08)
○イエスのDNA―トリノの聖骸布、大聖年の新事実 レオンシオ ガルツァバルデス (2000-08)
○トリノの聖骸布―最後の奇蹟 イアン・ウィルソン (1985-11)
○トリノ聖骸布の謎 リン ピクネット,クライブ プリンス (1995-12)
○イエスの弟―ヤコブの骨箱発見をめぐって ハーシェル シャンクス,ベン,3 ウィザリントン (2004-07)
○キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌 シンハ・ヤコボビッチ/チャールズ・ペルグリーノ (2007-06-20)
○イエスの王朝 一族の秘められた歴史 ジェイムズ・D・テイバー (2006-05-20)
○捏造された聖書 バート・D. アーマン (2006-05)
○破綻した神キリスト バート・D. アーマン (2008-04) .
○神は妄想である―宗教との決別 リチャード・ドーキンス (2007-05-25)